母
女神様からの妙ちくりんな指令に呆気にとられていると、部屋の外に人の気配が近づいてきた。
「重盛ちゃん。お母さまと基盛ちゃんが遊びに来ましたよー。」
柔和な笑みを浮かべながら部屋に入ってきたのは母さまだ。
その手には赤子を抱いている。
六位蔵人・右近将監・高階基章の娘。
それが母さまだ。
高階氏は五位の家柄だ。
かつては従四位下に叙されたこともあるとはいえ、後の平氏の隆盛を思えば、清盛パパの婚姻相手としては位階が低いようにも思える。
が、今の時期だと平氏と同家格といえるし、摂関家勢力にも近しい家なので結びつきとしては最適だったのだろう。
しかし、初めてその事実を知ったときはびっくりした。清盛パパの妻、つまり母さんのことだけど、最初は二位尼・平時子だと思っていたからだ。
でも違った。
「とー(ということは・・・)」
母さまはいずれ死んでしまうのだろうか。
転生したと言っても産まれてから1年も一緒にいれば、親子の情もわいてくる。本当の母さまのように思っているし、死ぬと分かれば助けたいとも思う。
とたとたと歩いて母さまにぴとっと、くっついてみた。
「~~~!」
母さまが声にならない声をあげる。
「な、なんて可愛いらしいんやろー。我が子ながらすごい破壊力やー。」
しゃがみ込んでギュッとしてくる。
母さまがしゃがんだことで基盛を間近に見ることができた。
「っっ!」
人の顔をしたハエのような気味の悪い蟲、病蟲ハエが基盛の胸の辺りにとまっている。
怖気がはしり、恐慌気味に子狼たちをけしかけた。
幸いにも意思が通じたのか、子狼の1匹が素早く基盛に駆け寄って、病蟲ハエに噛みつき、そのまま丸呑みしてしまった。
すごいな、この子狼たち。
しかし、見慣れてきた病蟲ハエとはいえ、不意に間近で見ると恐ろしく感じてしまう。
ピコンッ
-mission完了! おめでとう。-
※報酬 大口真神の農業指南書その1
・・・はい。いろいろとツッコミどころ満載です。
「子守をしよう」って、これ子守じゃなくて護衛とか治療とかそういう領分だよねっ!
そして、この子たち。
足下でじゃれあっている3匹の子狼たちに目をやる。
大口真神の係累だったのね。
とはいえ、狼の神様だったなーというくらいしか思い出せません。
平氏とつながりのある神様なのかもまったく記憶にございません。
そして、なぜに農業?
いや、どこぞの転生者のように内政チートできるような知識がある訳でもないので、ありがたいのはありがたい。
おまけに「指南書」というわりには本ではなく、知識が頭に流れ込んでくる仕様のようです。
まあ、この農業知識だって、使うのは何年先になることか・・・。
ふと目をあげると、楽しそうにこちらを見ている2組の目。
・・・とりあえず、今は家族と過ごす時間を楽しみますか。
赤子のときから体を鍛えて強くなるとか、毎日、魔力を使い切って強くなるとか無理だよー。
やはり根は楽観的で、根気もそこまであるわけではない重盛であった。
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