二十二話 おにぎり捜索
ルイスとプリマリアの一日は朝食のおにぎりから始まる。
宿の食堂でルイスの作ったおにぎりを食べ、ギルドに向かい依頼を受ける。依頼のため草原へ向かう道中、ルイスがお弁当として作ったおにぎりを昼食として食べた。
そして収集や討伐をして帰還。ギルドで依頼達成の申請を済ませ宿に帰る。そして食堂でディナーのおにぎりを食べるのだ。
その次の日も朝食のおにぎりから始まり、ルイスがお弁当として作ったおにぎりを昼食として食べ、ディナーのおにぎりを食べ、朝食のおにぎりを食べ、昼食のおにぎり、ディナーのおにぎり、おにぎり、おにぎり、おにぎり……。
「飽きるわっ!!!!!!!!!!!!!」
カオッカに来て二週間。プリマリアはおにぎりに飽きた。
彼女は召喚された際に『ルイス様にもっと近しくなりたい!』と言う愚かな願望を持っていたので、召喚魔法の力で人間に近しい体を受肉した状態で人間界へとやって来た。そのためある程度人間らしい食事が必要となる。
当時は「この体でルイス様と一緒にいろんな食事を食べたいですね。あわよくば私が手作りを……キャッ、恥ずかしい♪」などと緩く考えていたが、蓋を開けたらおにぎり文化ひしめく魔境であった。ルイスの作るおにぎり以外土くれみたいな料理しか見当たらないし、ルイスは真っ白な具の無いおにぎりしか作らないし、自分で料理を作ろうにも炊き立ての米以外良い食材は見当たらない。結果プリマリアは食生活を米に制限されてしまっていた。
「いい加減他の料理を作ってくださいよ! 毎日毎日おにぎりばっかり! 栄養バランスも偏って体にも悪いですよ!?」
「大丈夫。バランスは毎回気にしている。米の配置、米の量、握り方、形……その全てのバランスに気を配って完璧に作り上げたのが、俺のおにぎりだ」
「栄養バランスと関係ないでしょうがっ! 細かな気配りをしたいんなら、まず私の『他の料理食べたい』って気持ちに気を配れっ!」
「……ほかのりょうり?」
「おにぎり以外の料理を知りません、みたいな表情すんなっ!」
宿の食堂で、プリマリアはおにぎりしか食べられない不満をルイスにぶつける。だがルイスはよく分からない発言ばかりで、プリマリアといまいち話が通じていないようであった。
「みっそっそっそ。二人とも仲が良いで味噌焼きおにぎり。やっぱり二人は運命のおにぎりの糸で結ばれてるんで味噌焼きおにぎりねぇ。みっそっそっそ」
「だ~れがそんな得体の知れない糸に結ばれてるんですかっ! というか味噌焼きおにぎりさん、その笑い声はなんかしっくりこなくてモヤっとするんですが!」
それを見ていた味噌焼きおにぎりちゃんは奇妙な笑い方をしながらルイスとプリマリアの仲の良さを羨ましがるが、プリマリアは即座に否定する。ここ二週間でこんなおにぎり狂いと一緒にされたくない、と言う意思がより一層強まったようだ。
「とにかくプリマリア、今日は早くおにぎりを食べろ。この後すぐに、街の外へ出るからな」
「飽きたって言ってるのに……。それで、街の外へ何の用なんですか? いつも朝はギルドで変な依頼ばかり受けてるじゃないですか」
「実は昨日、おにぎりギルドから緊急の依頼を受けてきてな。ちょっと遠いから朝一で向かうつもりだ」
そう言って、ルイスは緑色の肌を持つ魔族、ゴブリンの絵と依頼内容の書かれた紙(おにぎりでできている奴)をプリマリアの前に差し出す。
「依頼は南カオッカ山の迷惑なゴブリン達を懲らしめるという物だ」
***
ルイス達はカオッカから南に二時間ほど歩き、南カオッカ山のふもとの森の中へとやって来た。ゴブリンは森の奥へと進んだ先にある洞窟に生息しているとのことだ。
「ここらへんでおにぎりを探していたおにぎり士がゴブリンに襲われたそうだ。だからもうゴブリンが人間を襲わないように懲らしめて欲しいんだそうだ」
「なんでこんな所でおにぎり探してたんですか……。馬鹿なんですか、その人」
どうやら森の中でおにぎり士がおにぎりを探していた最中にゴブリンに襲われたようだ。プリマリアのツッコミが入るのはいつも通り。
「ゴブリンは低位の魔族だから戦闘力は大したことは無い。だが魔族は魔物よりも知能が高いからなんらかの戦法を講じられる可能性がある」
「存じてます。しかし人間界は魔王を倒して以降平和になったと思ったのですが、まだ襲撃があるのですね」
「千年経っているからな。もしかしたら魔族達の状況が変わってきているのかもしれない。できれば説得だけで済ませたいが……」
「ちょっと難しい依頼かも知れませんね。ですが最強の勇者だったルイス様なら難なくこなせると思いますよ。むしろこなしてくれなきゃ失望がさらに深まる」
先日現れた魔物と違い、魔族は知能が高く千年前から様々な戦術で人間達を苦しめてきた。魔王が倒されて以降は生き残った魔族達の戦意は落ち着いたため平和になったはずなのだが、千年経った今になって人を襲う事例が出始めているようだ。
「ところがそう簡単な依頼ではないんだ。実はそのゴブリン達はどいつもこいつも特殊個体で、普通のゴブリンと違うらしい」
「特殊個体。強力なスキルを持っていたり普通の個体とは違う行動を取る魔族や魔物の事ですね」
そして魔物や魔族には通常個体より強力な特殊個体と言うものがいるのだが、今回のゴブリンはどうもそれだという。
「そう。そのゴブリン達は厄介な能力を持っていると報告されている。そのゴブリン達は全員おにぎりを持っていなかったそうだ」
「……。別に普通なのでは?」
ゴブリンはおにぎりを持っていなかった。ルイスは深刻そうに話すが、プリマリアは別に持ってなくてもいいだろと言いたげな呆れた表情をしている。
「普通なんかじゃない。魔族は出歩く時にいつもおにぎりを持っているはずなんだ」
「魔族が常時ピクニックしてるとでもお思いで? 持つにしても別の食べ物にする時だってあるでしょう」
「いや、おにぎりは生命の源。そんな大事な物を全く持たずに行動する魔族だなんて、前代未聞だ」
「おにぎりにどこまでの信頼寄せてるんですか、あんた」
「だから早く俺が事前に作っておいたおにぎりを、ゴブリン達に常時持たせなければならない。おにぎりを持たぬ者にはおにぎりを恵まなければな」
「おにぎり無理やり貰ってもゴブリンは困惑すると思いますが」
おにぎりを持たないゴブリンを異常と判断するルイスと普通と判断するプリマリア。どうでもいい言い争いが少し続いた。
「……それよりも、何か匂いません? どこからか、おいしそうな香ばしい香りが漂ってくるんですが……」
だがその途中、プリマリアが香りの変化に気づいた。プリマリアはお腹をさすりながら周囲を見回す。
「おにぎりの匂いだったら、俺の道具袋の中にあるぞ」
「私は飽ききった焼いてない素のおにぎりを『おいしそうな香ばしい香り』と表現しません。もっとなんか、食欲をそそるというか……」
「俺のおにぎりも食欲をそそる香りには自信があるぞ」
「こっちから漂ってるようですね」
おにぎりの香りを主張してくるルイスを半ば無視し、プリマリアは森の奥を指さす。そして二人は匂いのする方へと向かっていく事にした。
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