十九話 おにぎり昇格

 ルイスとプリマリアは、おにぎり型のソファや机が並べられ壁に数多のおにぎりが飾られている応対室へと案内された。……こんな部屋、一目見て応対室と分かるだろうか。


「来たか。期待の新人……」


 執務室でおにぎり頭巾を被り待っていたギルドマスターのスタルードは、ルイスをため息交じりで出迎える。そしてルイス達をねちょねちょしたソファに座らせた。これもおにぎりなのかもしれない。


「スタルード、どういう事だ? 俺達は何もしてないつもりだが」

「これのどこが何もしてない、だ。大事件に決まってるだろう」


 スタルードは何個ものおにぎりをソファ前にある机の上に並べていく。どれも同じような白おにぎりだ。ただし何個か歯形の付いた食べかけが混じっている。


「ドラゴンのおにぎり、巨大キングサイクロプスXのおにぎり。お前が売ってきたおにぎりはどれも最上級の魔物で、すごくおいしいおにぎりが採れると言われている奴ばかりだ。実際食べてみたら美味かった」

「食べかけが混じってて変だなと思ったけど、勝手に食うなよ。いちおう商品だったでしょ」


 スタルードはよく見ると口元に米粒を付けていた。プリマリアは預かった商品を勝手に食うギルドのモラルの無さに対してしかめた面を見せる。


「でだ。お前、これをどうやって手に入れたんだ? 本当の事を話してくれ」


 スタルードはどうやら昨日売った素材……もといおにぎりの入手方法を詳しく聞き出したい様子である。ルイスは返答する。


「本当も何も、俺が直接討伐して解体しただけだ。……もしかして別の人から貰った物を売ったと思われてるか?」

「まぁな。ジョーナはお前が取ってきた物だと言っていたが、俺はお前が天才とは言えそこまでの実力があると信じてなかった。だから師匠かなんかから貰った奴をお使いで売ったんだと俺は思ってたんだ。……今日までな」

「今日まで?」

「中級者でもてこずるおにぎりウルフどころか、おにぎりボアまでもこんな短時間で討伐した。これらはA級のおにぎり士でもてこずる作業であるにも関わらず、とんでもない成果を上げた。それで、このおにぎりは全部本当にお前が取ってきたんだと確信するようになったんだ」

「なるほど。信用が無かったんだな、俺」

「疑ってすまなかった。お詫びにこのおにぎり頭巾をやる。好きに使うといい」

 

 スタルードは、二人の前で頭を下げて謝った。そしてスタルードは二人にそれぞれおにぎり頭巾を一個ずつ手渡す。ただしプリマリアは「あ、いりません結構ですおかまいなく」と営業スマイルで全力拒否したのでスタルードに返された。


「さて本題だ。お前たちはおにぎりボアを討伐すると言う偉業を成し遂げた。これは今のお前たちのランクであるFランクでは収まらない功績だ。だからギルドマスター権限で、二人をCランクに昇格させる」

「C? おにぎりボアを倒したごときでいきなり飛びすぎじゃないか?」


 ルイスが疑った様子で眉を寄せる。急なランク上昇に何か裏があるんじゃないかと思っているようだ。ルイスの事だからおにぎりの事しか考えてない可能性もあるが。


「馬鹿言え、おにぎりボアは恐ろしい魔物だ。街に近づきでもしたら、それこそ周囲のおにぎりは食い荒らされてしまう。遠い村では同じような襲撃に遭っておにぎりが無くなり、救援が無かったら危うく小麦の食文化が始まってしまうところだったんだぞ」

「食文化ぐらい自由に始めさせりゃいいじゃないですか……。この世界は食文化の縛りプレイでもしてるんですか?」


 スタルードはおにぎりボアの恐ろしさを語る。しかしプリマリアはおにぎりボアよりも食文化が始められないこの世界の方に恐怖心を抱いた。


「そんな凶悪な魔物をたった二人ですぐに倒した。その上新鮮なおにぎりボアのおにぎりを十二個も取ってきてくれたんだ。このギルドへの貢献は計り知れない」

「俺は大した事したつもりないんだがな。おにぎりボアを倒して、おにぎりボアのおにぎりを収集して、そのおにぎりを三つ食べかけたくらいしかしてないのにここまで評価されるなんてな。プリマリアはどう思う?」

「いつの間にかまた食べかけが一個増えてるじゃねーかっ!? というか、中途半端に食べ残すな! せめて前のおにぎり食べ終わってから次を食えよ!」


 本当に大したことをやってない素振りのルイスだが、まだまだ食い足りてなかったようだ。プリマリアは大振りのツッコミでルイスの下品な食い方を指摘した。


「……本当はドラゴンや巨大キングサイクロプスXをおにぎりにした功績を称えてせめてAランクにしてやりたい所だったが。王国の首都にいる上層部が事実確認しろだのおにぎり食べたいだのおにぎり美味しいだのやかましくてな。今回はCランクで我慢してくれ」

「別にいい。Aランクになると目立ちすぎるからな。目立つとおにぎり屋さんとして忙しくなりすぎてしまう」

「悪いな。その代わり報酬には色を付けたからそれで許してくれ」


 スタルードは更なるランクアップが上層部に通らなかった事を申し訳なさそうに伝えるが、ルイスはまったく気にしていない様子だ。ちなみにプリマリアは、上層部もさり気なくヤバそうだなと思っていた。


「よし、それじゃあおにぎりボアのおにぎり十一個……十個……いや、九個は確かにギルドが預かった。ジョーナから報酬を受け取ってくれよ。もぐもぐ」

「待って。なんでだんだんおにぎりが減ってるんですか。何咀嚼してるんですか。もしかして現在進行形で食べてませんか、あんた」

「プリマリア、ギルドマスターを疑うのは良くない。おにぎり九……八……七個をきちんと預かってもらったんだからそれでいいじゃないか。もぐもぐ」

「ルイス様もおにぎりを減らすな! というかルイス様おにぎり食いすぎでしょ、いい加減お腹壊しますよ!?」

「大丈夫だ。全部食べかけで残してある」

「なんで中途半端に残すんだよーーーーーー!?」


 ……と、こうしてルイス達がおにぎり五個と食べかけおにぎり十個をギルドマスターに渡し、おにぎりランクはCランクまで昇格した。てか地の文でもおにぎりが減って食べかけが増えてやがるぞ。




***


 ちなみにその後に、ジョーナから報酬を受け取ったのだが……。


「はい。これが報酬の赤おにぎり、青おにぎり、黄おにぎり、そして紫おにぎりですー。大事に使ってくださいねー」

「『報酬に色を付ける』ってそっちの意味かー!?」

 

 全部色の付いたおにぎりだった。しかもクソまずそうな土くれタイプのおにぎりだった。いらないね。

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