第42話 スターになるために
翌日になった。アタシたちは寝起きした部屋をもう一度見渡す。
「うん。来た時と同じ状況にしないと、清掃員の人が困るだろうからね。それに僕たちは極力、本当に何もしていないということを証明しなければだから」
「どうして?」
「当たり前でしょ。だってまだ成人すらしてないし、高校も卒業していない。見た目的にも大人に見えるかと言われれば、お世辞にもそんな風には見えないだろうし。僕たちは未熟な若い男女だと気付かれてるよ、フロントにはね」
「たしかにそうね。なんか後で面倒になる前にここから退散した方がよさそうね」
「うん。早く出よう。リーダーがまた僕たちに嫌がらせをしてこないうちに、ね」
アタシと伊達くんは、荷物をまとめてエレベーターに入った。彼がボタンを押して、フロントへ向かった。アタシは小さなバッグを持っていたけれど、伊達くんがそれを見かねて、荷物を持ってあげる、と言い出した。
「彼氏ヅラしないでよ」
「昨日、自分が何言ってたか覚えてる?」
「しらなーい。覚えてなーい。疲れてたから頭回ってなかったもん。それとも何よ? もしかして本気にしちゃってた?」
「覚えてるじゃん。まあ、でもいいよ。僕の親切心やご厚意に甘えないところは自立していると認めてあげるよ」
「その言い方腹立つ……。アタシが自立してなかったとでも言いたいわけ? 別に伊達くんがいなくたって、ちゃんと一人で生活できるんだからね!」
「そうだろうね。君は実はしっかりものなんだからさ」
「ん? それは、どうも……ありがとう、ございます……」
手のひらで転がされてる自分を、恥ずかしいとは思わなかった。伊達くんとの会話は必ずアタシのことを、どこか小さな部分でも褒めてくれるからたのしいからだ。伊達くんって話も上手だし、聞く方に回っても上手だと今となってようやく気づいた。
居心地がいい。安らぐ時間をくれる伊達くんを、アタシは好意的に感じているのだろう。それも、かなり分かりやすくなっている。周りの人に見られたら、おそらく勘付かれてしまうほどだろう。
だから、リーダーさんやメンバーの皆さんにはなるべく……。
「あっ」
「ん? どうしたの伊達くん」
「な、なんで出待ちしてんだよ、あの人たちは……」
「ふぇ?」
間抜けな声をかき消すように、そのシャッター音は大きかった。なんか一眼レフ? とかいう高価そうな機器を扱っている女の人がいた。
その人の横には腕を組んで仁王立ちのグラサンタンクトップムキムキ男。そしてその横には倒れている少女が一人。その横にはニヤニヤしてるイケメンの男性が、そしてその人たちの後ろの方で、呆れたように見守っている女性がいる。
どんなグループだよ。これじゃあアダルトなビデオ撮影してる集団だと思われかねないぞ。本当は超有名音楽グループのアーティストさんたちなのに。これだけでイメージダウンでしょうに。
「何してるんですか」
伊達くんが聞く。
「何って、撮影?」
「なんで撮影してるんですか」
「高校生の男女がラブホテルから出てくる一部始終を撮るという特別任務だよ」
「よし! 任務は完了したぞナギ!」
「了解! ミッションクリア!」
「自由人しかいねーのかこのグループは」
アタシもそれ思った。リーダーさんはズカズカとした足取りで並んで立っているアタシたちの方に近づいてきた。
「よくやった。お前は本当によくやってくれた」
「なんなんですか、マジで。あんたたち大丈夫かよ。心配になってきたんですけど」
「うんうん。さっき撮った写真はあとでグループのSNSにアップしとくから」
「やめんか! 特定されるわ!」
「そんじゃ、今日もレコーディングアンド指導をビシバシやっていくぞー!」
「話聞いてます?」
「「ご指導よろしくお願いしまーす!」」
「ノリいいなナギさん、コガくん」
これならカナデさんが呆れる理由もわかる。アタシたち二人は顔を見合わせて、同時にため息をついたのだった。
****
帰ってきた、東京に。
「帰ろうか」
「それよりも、大事な話」
アタシは伊達くんを引き止める。
「うん。なに?」
「リーダーさんが言ってたよね。アタシたち二人のユニットを作るって。その話なんだけどね」
「うん。言ってたね」
「高校を卒業したら、拠点はどこになるのかしら?」
「東京だよ。だから引っ越しはしなくていいから安心して。あー、えっとリーダーたちがこっちに移り住むってことになるんだけど……」
「それ、なんだけど、ね……」
「うん?」
「卒業したら一緒に住まない?」
「え?」
「嫌なら、いいの……。アタシが考えてることだから……。伊達くんはどう思うか、気になっただけで……」
「卒業後の進路は?」
「進路? 卒業した後は……まだ決めてないかな」
「声の専門学校をおすすめするよ。君の歌声はもっともっと磨くべきだと、僕は思ってる。リーダーもそう言ってくれてるよ」
「……そう、なんだ。えへへ、嬉しい。君に褒められると、やっぱり嬉しいなぁ」
「うん。なら僕は、そんな君のために、君のためだけに曲を作ってみせるよ。誰にもできない、誰にも作れない、君だけに送る、そんな曲をね」
「ありがとう」
少し間を置いて、伊達くんが言う。
「うん。一緒に、住もうか」
「……うん」
「もしかして今、僕って彼氏ヅラしてる?」
「もしかして今、アタシたちって相思相愛?」
あはは、と笑うアタシたちを夕日が照らしていたのだった。
そして未来へと続いていく。
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