第39話 究極の選択

 独裁者によるレコーディングは過密なスケジュールだった。一気に三曲も録るなんて、どうかしてるよ本当に。


「よぉーし! 一旦休憩したらまたやるからねー! 今日は寝かせないからなー!」


「それエロ漫画で出てくるセリフですよ……。現実世界で言ってる人初めて見ました……。というか、女の子もいるんですからそういう言葉は控えてください」


「何言ってんだよ? こちとらこれが平常運転なんだよクビにすっぞ。あー、てか、どうする? ホテルどこにすんの? 予約取ったか?」


「へ? ホテルって、どういうことですか? もしかして、今日泊まりとかですか?」


「当たり前だろ。だからさっき寝かせないって言ったんだよ。その言葉の通りで、その言葉の意味そのまんまだろ」


 伊達くんとアタシは顔を見合わせた。ホテル、泊まり。この言葉を聞いて混乱する。つまり今日はホテルで一泊するということ。女子高生が一人に、男子高校生が一人。成人にもなっていない少年少女がホテルに泊まるなんて、そんなことしていいの?


「そんなこと聞いてな……」


「言ってないからな。さて、で、どうすんの? そもそもホテル泊まるの? なんなら野宿って選択肢もなきにしもあらずなわけだけれどもね」


「待ってくださいよ! えっ? じゃあ泊まり確定ってことですか!? 嘘ですよね!? お金ないですよ!? どうすりゃいいんですか!」


「こっちが出してやる。その分は冬助、お前これからの頑張りで払えよ。あとマリンもな。二人の共同作業でよろしくー」


「えっ……、なら、リーダーからお金借りるってこと……?」


「そうだな」


「……」


「お前、今日と明日逆らえないからな。口答えも許さん。とにかく『ぼく』の言うことは絶対。ショウキチもナギも、カナデもユリも、全員のな。ちなみにマリンも冬助と同じだからな」


 付け加えられたアタシが一番驚いてる。なんなのその恐怖のルール。それもうリーダーさんの手のひらで物事動いてるし、リーダーさんが全部動かしてるようにも思えてしまう。アタシたちはこれからこの独裁者と、その仲良しメンバーの要求に全て対応しなければならないのだった。


 魂が抜けたような顔をしている伊達くん。さんな彼を呼び戻すべく、リーダーさんはメンバーの皆さんに対して、アタシたちのこれまでにあった重要なことを話し始めた。


「冬助とマリンさー、この間から連絡なかったんだけどよ、その期間中何してたと思うよ?」


「何してたの? 良ちゃんから連絡なくてアプリ見てなかったけど……。もしかして事件的なことでもあったの?」


「さっきリョウちゃんが言ってた通りでエロいことでもしてたんだろ?」


「なんかマリンの彼氏が浮気してて、その彼氏にイラついた冬助が素手でボコボコにしたらしい」


「ひゅうー! かっこいー!」


「マジで? ケンカ強いのかよコイツ?」


 突然に『嘘伝えないでもらえますかぁー!』とこれでもかというほどに大きな声を出して注意した伊達くん。魂が一瞬で体内に戻ってきたらしかった。


 ボコボコにはしてないけど、ちょっとね……。懲らしめてやったというのが正しいのかな。アタシは完全に蚊帳の外状態で直接関わっているわけではなかったから、その辺は詳しくは知らない。


「なーんだ。やっぱり相思相愛じゃん」


「そんなクズ男とさっさと別れて、正義のDTさんに寝取られてしまえです」


「ねぇ皆さんわざとなんですか!? わざとそういう反応してるんですか!?」


「あん? リョウちゃんがそう言ってんだからそうなんだろ?」


「怖いですって! 睨みつけないでください!」


「なぁ、そうなんだろマリンちゃんよぉ!」


「ひっ!」


「やめてあげてください! 総武さんはコガさんのこと本気で怖がってるんですよ! 僕はまだ何度か会ったことあるから耐性付いてますけど、彼女は初見なんですから!」


「知るかよ。とっとと慣れろや」


「圧倒的自分勝手!!!」


 リーダーさんはケラケラと笑って、ナギさんがいつものように微笑んでいる。いつものようにって、これが普通なの? この目つきと言葉遣いが普通なの?


 カナデさんはため息をついて、ユリちゃんは笑いながら涎を垂らしている。完璧にアタシの方を向いているため、怖がっているアタシを見ていつもの衝動が出てきてしまっている。これもいつもそうなの?


 相変わらずコガさんは睨んできて怖いし、伊達くんはアタシのこと守り過ぎ。もうすっごい守ってくるんだもん。絶対に危害は加えさせないという鋼の意志を感じずにはいられない。悪い気はしないけど。だってコガさん怖いし。ずっとこのまま守ってほしいし。


「嘘嘘! まあ浮気してたマリンの彼氏を退学させたんだっけ? なんか法律に関わるからとっとと消して、マリンに被害がないようにするためにって」


「はい、そうですよ。全く……」


「「「めっちゃ好きじゃーん!」」」


「だからそういうのじゃないんですって! どうしてすぐにそっちに向くんですか女子陣!(怒)」


「明らかなんだもん」


「それなー」


「絶対好きですねー」


 羞恥に耐えられなかったのか、伊達くんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。そっぽを向いたと言っても、メンバーからであってアタシではない。そのため向いた方向にはアタシがいる。


 目がバッチリ合ってしまった。


「「あっ」」


 反射でアタシもそっぽを向いた。おそらく伊達くんも。


「おやおやー? これはどういう反応ですかー?」


「青春って感じだねー」


「甘々かよー」


 あはは、とメンバーの皆さんは笑っていた。アタシたちは気まずすぎてただの一つも笑えない。


 その時に、最初にこの話の流れを作ったリーダーさんが今度は話題を変えた。






「それで? ラブホとネカフェどっちにすんの?」






「「は?」」


 アタシたちはまた顔を見合わせた。

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