第33話 舞台が整う

 事務所で尋問をしたところ、佐原時也とその肉体関係にある女性は最近に知り合ったという。女性は一度、立石さんが任されているバーに入り、そこでトラブルが起こったのだとか。やっぱりぼったくりじゃないか。そこに助けとして入ったのが佐原時也だという。


 佐原時也は場を収める代わりに金銭、肉体を要求。今のような関係に発展していったと推測できる。


 女性は嫌々佐原時也に付き合っているらしく、何やら連絡も毎日のようにしていると立石さんは証言している。これが強要であり合意ではないのだとしたら、この佐原時也という男は法律に引っかかってしまうことになる。十分な情報ではあるが、しかし決定打となるものがない。女性の方に直接会った方が手っ取り早いだろう。


 そうなると女性側もこの件に関係してくる。なんせ自分に強要してくる人間だ。それなりに不満は溜まっているだろうし、もっと他の感情……憎しみが芽生えている可能性だってある。


 立石さんはなんとしてでもこの状況を上の人間に伝えたくないのか、事務所の人間である父やその周りのサポートの人たち、そして僕にまで、全員に対して謝罪をした。だが父は誤魔化されなかった。


「いやいや、君の謝罪が欲しいんじゃないんだよ。というかそもそも僕は君に用はないの。こっちは佐原時也をぶっ飛ばしたいって言ってるやつがいるから、こうやって調査してるのに……。さっきの時間だって散々答えてたじゃん。理解できるよね?」


「は、はい……すみません……」


「まあいいや。それじゃあ、はい。次は息子の番だ」


「ああ、うん。じゃあ、立石さん? 佐原時也のバックにはなんていう半グレ集団がついてるの? そうじゃなきゃ、あの店には出入りできないだろうけど……」


「あ、いや、ちょっとそれは……」


「言って。つか言え」


「最近あの辺りに入ってきた若い奴らです……。特にチーム名とかはないです……」


「よし、そいつらから潰そう。半グレたちがナワバリに蔓延っているというのなら、立石さんの上の人たち黙ってないでしょ」


「それもそうだな。立石……お前絶対シメられっぞ? 怖いなら匿ってやろうか? 知ってること全部吐いてからな」


 そしたらなんと簡単に半グレたちがやっている犯罪行動を自白。住所やら名前やら電話番号やらをなんと大量に吐き出した。父はすぐに知り合いの警察に連絡。後日、一斉に突入するということが分かった。


 さてと、最後は女性本人だ。もうすぐで舞台が整う。



 ****



 数日後、半グレたちはホテル街から消えたという。立石さんは父が上の人たちに話してくれたおかげで、自分が情報を流したことにより一掃することができたという設定で賞賛されることになった。危なかったね。これならもうあの人は事務所に逆らえないな。


 ホテル街に半グレがいなくなったことで、周辺にある酒場のキャッチもそれに伴っていなくなった。やっぱり近くの店は全部そういった関係だったか。しかしその半グレグループが立石さんの所属する怖い人たちグループの仲間になってしまったかもしれない。どうせまた復活するんだろう。


 考えたらすごいことだな。知り合いの親しい女の子の一人のために悪い奴らを一掃してしまった。夜の賑やかさが欠けるのはどうかと感じたが、この方がトラブルも起きないだろう。トラブルが起きたら父の仕事が増えて収入も増えるけど。


 前々から計画してきた女性との接触だが、事務所の凄腕の探偵がその人の住所を突き止めたらしく、すぐに会うことができるようだ。念のため探偵がその家のインターホンを押して、接触を図った。


「はい……。あの、どちらさまで……?」


「伊達法律事務所の者です。最近、ホテル街の一斉検挙にあたりまして、あなたがあのホテル街に出入りしていたという情報が入りまして、調査をした方参りました」


「はい……ですが、どうして私なのでしょうか……?」


「検挙された人間の中で、あなたと関係の深い人物のことを話した者がいましたので。佐原時也をご存知ですか?」


「知ってるも何も、彼とはよく夜に会っていますから」


「そうですか。佐原時也とはいつ頃から関係を?」


「ちょうど半年ほど前くらいです。彼が進級する前で……」


「佐原時也と関係を持ったきっかけは?」


「バーです。支払えない額を請求されて、彼が間に入ってお金のトラブルを解決してくれました。ですがそのあと、私の家族にそのことを連絡する、と言ってきたんです。迷惑をかけたくなかったので、私は彼に夜によく呼び出されました」


「ふむ」


 探偵さんは僕の方を見て、頷く。


「肉体的な関係になられたことは?」


「あります。夜ですから」


「それは、彼の方から?」


「はい」


「何か強要されたり、脅迫されたということは?」


「それしかありません」


 探偵さんはポケットに入っているボイスレコーダーを取り出して、僕に渡してきた。


「冬助くん。これは黒だよ。あとは君と所長の判断に委ねる」


「分かりました。お手数かけてすみません」


「では、詳しくは事務所の方で……。車に乗ってください」


 女性を車に乗せて、僕たちはまた事務所に戻った。


 証拠も十分。逃げ場もない。


 舞台が整う。

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