【カシト視点】大聖女

 シオンの部隊が敵を圧倒し、戦いが終わる。




 シオンが砦に入ると、カシトが出迎える。




 シオンの横にはバートンとアッシュが居た。




 カシトは残った左手で何も言わずシオンに手を差し出す。




 シオンがカシトの手を握った。










 シオンはすぐ砦を見て回る。


「ひどい状況だ」




「そうだね。治癒士が足りない。戦いは終わっても、このままでは多くの者が亡くなるよ」




 周りを見れば多くの兵が負傷し、治癒待ちの状態で包帯を巻かれている。




「戦いは終わったですか?」




 エストがカシトの元に歩くが、その顔は痩せこけている。




 エストはもう限界だ。




「勝ったよ。すまなかった。これ以上エリアヒールを使ったらエストが死んでしまうよ。もういいんだ。ゆっくり休んで」




 エストを残った左腕で抱きしめる。












 エストはシオンを見つめる。




 シオンの横にはバートンとアッシュ、他にも多くの兵が居た。




 エストははっとした。




 シオン様はたくさんの人に囲まれている。




 でもカシト様は1人。




 カシト様は私が居ないと駄目だ。




 エストがカシトに抱きつく。




「大丈夫です。私は死なないです。1回だけエリアヒールを使ったら、もう休むです。カシト王子、倒れる私を支えて欲しいです」




 ずっと治したいと思っていた右腕。




 治しきることは出来ないけど、少しでも癒したい。




 エストの体が光る。




「エリアヒール!」




 周りに居る兵を癒し、カシト王子の右腕を少しだけ生やして、エストは倒れる。




 倒れようとするエストをカシトがしっかりと支えた。




「治癒士を全員連れてきてくれ!負傷者を集めろ!」




 シオンの指示でアッシュが動く。




 エリアヒールを使ってもなお、傷を負い、動く事の出来ない者で溢れている。




 時間を置けば血が塞がらず多くの者が死を迎える。




 泥沼化した戦いで疲弊し皆生命力が弱まっているのだ。




 すぐに治癒士が重傷者から治癒を始める。




「レアは、レアは居ないのかい!少しでも助けたいんだ!」




「待っていてくれ」




 シオンは外に出て風魔法で飛んでいった。




 シオンは規格外だ。




 普通そんな簡単に飛べない。




 意識を失っていたエストが目を覚ます。




「エスト、本当にごめん。苦しい思いをさせたね」




「いいんですよ。私がしたくてしたです」




 エストの暗い影は取れ、すっきりした顔をしていた。




 カシトはエストの髪を撫でる。




「疲れているはずなのに、幸せそうに見えるよ」




「そうかもしれないです」




 シオンにお姫様抱っこされたレアが飛んで登場した。




「遅れてごめんなさい。助けて欲しいって言う兵士に囲まれちゃって」




 レアが降ろされると、周りを見渡す。




 周りの惨状を見て顔をしかめる。




 レアの表情が何かに乗り移られたかのように変わる。




 その瞬間レアから光が溢れる。




 エリアヒールか?




 だが、レアの光が更にどんどん強くなり、黄金の色に変わっていく。




 レアの白い服は黄金に輝き、更に背中の輝きが大きくなる。




 レアの背中には黄金に光り輝く天使の翼が見えた。




 周りのざわめきが大きくなる。




 それでもレアは魔力を込め続けていた。




 レアは目をつぶり、生命力を皆に差し出すかのように思える。




 レアの背中の黄金の翼は、皆を慈しみ、包みこむ母のように柔らかな光を放ちながら大きくなって周囲を包んだ。




 大きくなった羽翼が消えると、周囲に抜け落ちたような無数の羽が舞って傷ついた兵士の傷に吸い付くように飛んでいく。




 カシトは右手にぬくもりを感じ、右手を見ると、無かったはずの右手がそこにあった。




「金色の翼と服をまとい、翼は死を遠ざけ、祝福を与えた。その者を大聖女と名付けた」




 自然と言葉に発していた。




 大賢者の一節を。




 奇跡が起きた。




 エストを見ると、レアを見ながら泣いていた。




「エスト、涙が出ているよ」




 エストの涙をぬぐう。




「カシトも泣いているです」




「そうだね」




 周りを見渡すと、死を覚悟した友が助かり、抱き合いながら泣いている者。




 急に元気になり、レアに祈りを捧げる者。




 大声で叫ぶ者。




 様々な反応があったが、歓声があふれ出す。




 そしてその歓声は大きくなり、大歓声に変わった。


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