カシトとダイグの手

 ダイグ王子はガンズ公爵の嘘に騙され、カシト王子の立てこもる砦を完全に包囲し、連日攻撃を仕掛け続けた。




「無実の罪で粛清を企て、我々を貶めたカシトを許すな!攻めろ!!」




 貴族の兵を指揮してカシト王子の砦に攻撃を加え続けるが、砦を落とせない。




 くそ、しぶとい奴め。




 カシトさえ潰せばこの国は俺のものだ。




 俺を虐げた兄も父も打倒し、この俺は国を治める!




 兵を指揮して自ら前に出て戦うダイグは、前線送りになった事で剣士としての力を増していた。










 疲労がたまると後方に下がり、休息を取る。




 そこに公爵のガンズが声をかけてきた。




「流石ダイグ様!見事な指揮でございます。天性の戦いの才もあり、ダイグ様を護衛する必要も無く、周りの兵は思い切り戦うことが出来ます」




 ガンズは更に続けてダイグを持ち上げる。




「もしこれが並みの指揮官や無能な指揮官なら、弱い指揮官を守る為、守りに力を使い思うように攻めることが出来ず攻めの勢いを欠いてしまうのです。しかしダイグ様からは天性の剣士のオーラのようなものを皆が感じています。だから皆ダイグ様を守らず果敢に攻めて戦うことが出来るのです」




「ふ、当然だ。これからもどんどん攻める」




「おおお!頼もしい限りです!私は残念ながら戦いの才には恵まれず、戦場に立つ事は出来ませんが、戦いが終わり、ダイグ様が王となった暁には、私は内政で身を粉にして働きますぞ」




 ガンズは戦の矢面には立たず、常に後の安全な場所からダイグ王子を操り続けた。




「食事の用意ができております。さあ、どうぞ」




「うむ、しかしカシトの奴、しぶといものだ。中々砦が落とせん」




「カシト王子もダイグ様の血を引く者、ダイグ王子より数段劣るとはいえ、私からしたら恐ろしい相手でございます。じっくり粘り強く攻めましょう。砦に引きこもり、カメのように守りを固めた相手はなかなかしぶといものです」




 ガンズはダイグに消耗戦をさせるよう誘導し続けた。




「しかし、カシト王子の部下は弱りつつあります。治癒士も疲労困憊し、負傷者をそのまま戦わせています。更にこのまま粘り強く包囲して戦えば、砦の兵糧と物資が尽きます。その時こそダイグ様の勝利の時でございます。私は心血を注ぎ物資を確保し続けます。こちらの物資は尽きさせません!」




「うむ、食事と休息が終わったらもう一度砦を攻める」




「おおお!頼もしい限りです!期待しておりますぞ!」
















「ぐああああああ!腕が!腕があああ!」




 ダイグは休息を取り、砦の防壁の門を開ける事に成功し、砦内への突入を開始した。




 だがその事でカシト王子を守る為命を懸けて突撃を決行したカシトの側近によってダイグは左腕を切り落とされたのだ。




 危機を感じた貴族の兵はダイグを連れて撤退した。










 ダイグは急いで後方に戻ると喚き散らした。




「早く腕を治せ!治癒士を連れてこい!」




 ガンズが走ってくる。


「おおおお!ダイグ様!何と言う事でしょう!すぐに止血の準備を!!」




「治癒士を連れてこい!俺の腕を治せ!」




「ダイグ様、今はこちらの治癒士も不足しております。無くなった腕を治す事は治癒士の負担になります。それよりも他の負傷兵を治し、一気に砦を落とすのです。その後に治癒をしても遅くないのです。どうか辛抱しますようお願いします!」




 治癒魔法で無くなった腕を生やす事は出来るが、大量の魔力を消費する。




 それよりは、剣で斬られた傷を塞ぐ方が必要魔力は少なく済む。




 ダイグの腕を治す事は100人の切り傷を持った兵を治すのと同じ魔力を消耗する。




 つまりダイグの腕を治せば100の兵の治癒が出来なくなるのだ。




「いいから治せ!」




「しかし今こちらも治癒士が不足し、負傷兵が増えつつあるのです。どうか辛抱を!」




「俺は王になる男だ!俺の腕を治せ!治せ!」




「わ、分かりました。すぐに準備をさせます」




 ガンズは治癒士を呼びダイグの腕の治癒を始めた。














【カシト視点】




 ダイグ率いる貴族の兵が防壁の門を裏から開け、砦の中に兵がなだれ込んだ。




「突破されたか!何としても押し返す!」




 まずい!このまま砦の中に兵がなだれ込めば簡単に砦は落とされる。




 押し返す以外の選択肢はない。




 皆疲労困憊でまともに食べ物も与えられない。




 カシトは自らも前に出て戦う。






「カシト王子、私が必ず敵兵を後退させます」


「死んだら家族を守ってください」


「今までカシト様と闘えていい人生でした。俺が押し返します」




「お前たち!何を言っている!」




 カシトの兵は突撃を開始した。




 カシトの側近もとにかく前に出て死を覚悟して前に出る。




 カシトは後を追う様に前に出て走り出す。




 側近の剣がダイグの右腕を切り落とすが、側近が敵に囲まれた。




「うおおおおおおおおおおああああああああ!!!」




 カシトの鬼気迫る猛攻で敵兵士を連続で斬り刻むが、カシトは右腕を斬り落とされる。




 カシト王子に続くように味方の兵が突撃した事で敵兵は撤退し、防壁の扉を閉める事に成功する。




「カシト様!すぐに血を止めます!治癒士を呼べ」




「私の腕は治すな!血だけ止めろ!私の腕は後回しだ。少しでも他の兵を助けろ!」




 カシトは周りの兵に運ばれ、治癒士の治療を受けた。




 目をつぶると幼い日の思い出がよみがえった。












 カシトが幼き日、ダイグの手を取って剣の訓練に行く。




 ダイグと剣で打ち合いの稽古をし、ダイグの剣を払い飛ばす。




「カシト様の勝利です」




 ダイグは悔しそうに顔を歪めた。




「ダイグ、僕は2才年上だ。2才の差は大きいから負けるのは仕方ない。でもダイグには僕よりも剣士の才能があるよ」




「兄様より強くなるのは無理だ」




「そんなことは無いよ。ダイグが頑張れば僕を追い抜ける。今は勝てなくても大人になるまで頑張ればダイグは強くなるよ」




 ダイグは俯いた。




「僕を信じて頑張ろう」




 ダイグの頭を撫でる。




 その後ダイグが努力することは無かった。










 何度言っても何度動いてもダイグには届かない。




 ダイグを愛していた。




 どうしてこうなった?




 なぜ兄弟同士で殺し合う?




 カシトは無くなった右腕を見る。




 治癒士が血を止めてくれたおかげで命は助かった。




 カシトは側近の身を案じた。


「ヘルム、ヘルムは生きているか!」




「カシト様……もう」




「そう、か」




 絶望するカシトだったがこの後奇跡が起こる。

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