王との対話

 王都に着くと、馬車ですぐに王城に向かう。




「大きい街ね」




「この王都は10万人都市と言われている。数年前までは人口10万を超えていたけど、貧民街が減って今の人口は9万ちょっとだ」




「貧民街に居た人はどうなったの?」




「兵士になった者と、私の領に引っ越して来た者が多い」




「貧民をシオン領に移民させるのは大変だったんじゃない?」




「簡単ではなかった。アッシュやバートンがやる気のある人材を選別してくれたおかげでうまくいった」




「あれ?またパレードなの?」




 馬車の外を見ると住民が外に出て手を振っている。




「レアの活躍が王城に届いたからだろう」




「絶対シオンの人気のおかげよ」




「私は2人の兄に比べて目立たない」




「そう思っているのはきっとシオンだけよ。馬車から乗り換えがあるの?」




 馬車が止まったと思えば私とシオンは王城に行く途中で馬車から降りた。




 シオンが私をお姫様抱っこして防壁の上に飛ぶ。




「防壁の上の道を使う」




 防壁の上に馬車が用意されており、シオンにエスコートされて馬車に乗り込む。




「シオンが居ないと使うことが出来ない道ね」




「そんなことは無い。聖女は特別な存在だ。王族と同じくらい丁重に扱われる」




「そうなのね。王城に着いたら王様に会うのよね」




「そうなるだろう」




「王様の名前はグランハルト様で良かったかな?」




「うん、合っている」




 こうして私とシオンを乗せた馬車は防壁の上という専用の道を通って王城に向かって進む。




 途中でシオンの魔法で移動し、王城前を目指す。










 ◇










 私とシオンは王城に入りすぐに謁見の間に通された。




 私とシオンは王に跪く。




「2人とも楽にして顔をあげてくれ」




 私とシオンが顔をあげると、王の横に重鎮と思われる者が並ぶ。




「レア、我が国の民を治癒して貰い助かった。しかも聞く所によればここに来るまでの3カ所すべての民をたった1000ゴールドで治癒し、エリアヒールを3回連続使用できると聞いた。シオン、間違いないな?」




「間違いありません」




「うむ、レア、心から感謝する。そして正式に聖女の称号を授ける」




 私は驚いた。




 急に称号を貰うとは思わなかったのだ。




 てっきり王都で治癒を手伝って欲しいと言われるだけだと思っていた。




「レア、ありがとうございますと言ってくれ」


 シオンが横から耳打ちする。




「ありがとうございます」




「うむ、では式は解散。シオン、レア、この後ランチだ」




 こうして私はシオンにエスコートされて謁見の間を出る。




「ランチ?私も行くの?」




「そうだ。恐らく、正式な場の外で話したいことがあったんだろう」




 王様と一緒に食事。




 緊張する。




 シオンがにっこりとほほ笑む。




「大丈夫だ。私が隣に居る。行こう」




 シオンが私の手を取ってランチの場に歩く。












 私とシオンが食堂に座って待つと王と一緒にもう一人の男が入ってくる。


 王の近くにいた人だ。


 どこかシオンと感じが似ている。




 私が立ち上がろうとすると、王が「ああ、いい、いい。そのまま座っていてくれ。それと敬語も不要だ」と答えて2人が席に着く。




 王は謁見の間に居た時と違いどこか人懐っこさがあった。




「私が王のグランハルト・ホワイトだ」




「私は、シオンの兄のグランだ。一応長男になる」




「父上も兄上も、急にレアを巻き込んでランチに来させるのはやめて欲しいです。レアがびっくりしてしまいます」




「うむ、すまなかった。だが王として話しておきたい事があった。2つあるが1つはレアの父、ゼンキに貴族の爵位を与えようとして断られ、今はシオンの2番目の兄のハルトナイトの元で魔物と戦ってもらっている。その事は直接伝えたかった」




「もう1つは、しばらくの間聖女として王都の者の治癒をお願いしたいのだ」




「それはいつまでですか?レアをいつまでもこの地にとどめたら私がレアと結婚出来なくなってしまいます」




 兄が答える。


「出来れば冬が来るまで居て欲しい。治癒士が慢性的に不足している。毎日エリアヒールを3回使ってもらえれば治癒士不足はしばらく緩和される」




「私は大丈夫よ」




 シオンの手を握る。




「では冬になるか、雪が降ったら帰ります。話は以上ですか?」




 シオンの兄が指を立てる。


「もう一つある。シオン、王にならないか?父はそろそろ引退を考えている」




「王は兄上がやればいいでしょう」




「いや、王に向いているのはシオン、お前だ。お前は内政も戦いも何でもできる。私のように偏った人間よりシオンが王にふさわしい。私は内政面で支えよう」




「お断りします。私はただの器用貧乏です。私はレアと共に生きたい。レアに王の負担を背負わせたくない。王の役目がどれほどの重さか分かっています」




「グラン、シオン、この話は終わりだ。私もシオンが1番王に向いているとは思うが、3人兄弟の中でそこまで差があるわけではない。3人全員が王になりたくないのは分かっている。だが、順調に進んでいけば王になるのはグランになるだろう」




 グランは落ち込んだ顔をし、口を紡いだ。




 王になるのが嫌だというのがグランから伝わってきた。




「所で、レアとシオンの結婚はまだか?私が死ぬ前に孫が見たい」




「そ、そうですね。前向きに考えてみます」


 私はあいまいな答えを言った。




「うむ、是非とも前向きに考えて欲しい。気になるのは公爵家のエストがお前に求婚している事だ」




「断ってください」




「断っている。だがどうしてもと再三言ってくる。エストは見た所ロマンチストで傷つきやすい所がある。シオン、エストが傷つかぬよう断る手は何かないか?」




 シオンが固まって考え出した。










「グラン、良い手は無いか?」




「前に考え動いてみましたが、無理でした。他の貴族とお見合いをしてもらいましたが、シオンの事しか見ていないのか、10回すべてエストから無かったことにしています。しかもそのたびに、『シオン様とお見合いは出来ないのですか?』と聞かれます。更に男性のお見合い相手はエストとまた会いたいと言いだし、状況が悪化しました。何とか出来る気がしません」




「兄上には苦労をかけました。私から断ります。傷つけぬよう考えてみますが、難しいかと」




「この話も終わりだ」




 王は暗くなった空気を変える為話題を変えた。




 どのような宿が好みかとか、どの食べ物が好きとかシオンとこの店に行くといいとかそういう暗くならない軽い話をしてランチは終わった。




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