暴風のアイラ

 私はアイラと遊んだ。




「レア様、アイラの面倒を見てもらって助かります」




「いいのよ。アイラは可愛いくて、見ていて飽きないわ」




 窓を見るともう真っ暗。




「でぃなー、できる」




「そうね、そろそろディナーの時間ね。アイラはお肉も食べられるの?」




「この子は何でも食べますよ。お肉もお魚も何でも食べます」




「アイラは偉いわね」




「クック~、ディナーまでどのくらいかかりますか?」




「後5分っす。皆を呼んできて欲しいっすよ」




「分かりました」




「私も呼んでくるわ」




「ではシオン様を呼んで欲しいです」




「わかったわ」










 全員を呼び、集まってテーブルに座る。 




 みんな揃ってディナーとなるが「う~ん、鳥のお肉のうまみが薄い様な気がしますわ」とマリンが言ったことから話が始まる。




「確かにそうだな」


 バートンも頷く。


 バートンとマリンは相性は良い気がする。




「新しい厨房で失敗したっすかね?」




「こういう時もあるぜ。クック、気にするな」




「せっかくクックが作ってくれたんだ。頂こう」


「そうよ、今までクックの美味しい料理に慣れすぎていたわ。贅沢を言うのは良くないわ」


 私とシオンはクックを庇う。




 メイに抱かれているアイラが急にしゃべりだした。




「あやしい」




「え?何が怪しいの?」




「あやし、すぎる」




「この子はたまに変な事を言いますから、気にしなくて大丈夫ですよ」




「そうなのね」




「もう一回アイラを抱いてみたいですわ」




「もうやめとけ。答えは出てる。あごを痛めるぞ」




「練習して悪い事はありませんわ」




「そうね、慣れもあるわよ。私もマリンを抱いてきたわ」




「わんぱくなマリンを抱いて、アイラに慣れたのか」


 バートンがこくりと頷く。




「わたくしはそんなにわんぱくじゃありませんわ」




「そ、そうね、アイラよりはちょっとおとなしかったわ」




 マリンは元気がいい方だったと思う。




 でも言わないでおこう。




「アイラがアッシュとクックを交互に見てるぞ。名探偵が何か見抜いたのかもな」




「勘弁して欲しいっすよ」




「またいつものおふざけに決まってるぜ」




「アイラ、何か気づいたか?」


 シオンが真顔で聞く。




「クック、アッシュ、あやしい」




「何が怪しいの?」




「それはわからない。でもあやしい」




 その時はアイラのいつものおふざけだとみんなが思っていた。




 だが事件は起こる。










 ◇










【次の日の早朝】




 厨房にアッシュが入る。


「出来たか?」




 アッシュとクックはこそこそと話を始める。




「あと少しっすよ。麺が茹で上がればラーメンの完成っす」




「まさかアイラが気付くとはな」




「勘がいいっすからね」




「俺の弟子にしたいくらいだぜ。斥候やアサシンの素質がある。天才かもしれない」




「でももうすぐっすよ。猪と鶏ガラ、野菜をコトコト煮込み作り上げた至高のスープっす。更にこの厚切りチャーシューと麺を組み合わせれば、至高のラーメンの完成っす」




 そう、昨日のうまみの抜けた鶏肉はラーメンの出汁として使ったのだ。




 うまみを絞りつくした鶏肉をディナーに出した為、ばれたら絶対に怒られる。




 他の者には出汁を取りつくした鶏ガラをほぐして食べさせ、アッシュとクックは至高の一杯を味わおうとしているのだ。




「完成っす!」




「これはやめられないよな」


 アッシュが笑みを浮かべる。




 クックは早速食べだすが、アッシュが気配を察知する。




「気配がする!バートンか!隠せ!」




 ガチャリとドアが開けられる。




「やはり隠れて食べていたか。これは、東方のラーメン?か?俺の分も出してもらおう」




「ふ、ばれたらしょうがないっすね」




「バレたのがバートンで良かったぜ」




 クックは素早くラーメンのスープまで飲み干してバートン用の麺をゆで始めた。












 アイラは目を覚ました。




「ん~、アイラ、起きましたか?」




「ちゅうぼう、いく」




「もお、寝ますよ」




「ちゅうぼう!!」




 メイが抱っこしても撫でても機嫌が直らず厨房に行く事にした。




 アイラは言う通りにして満足すればおとなしくなるのだ。












 バートンのラーメンと、クック用の2杯目のラーメンを作り、3人無言で、麵を啜る。




 3人それぞれがラーメンに集中し、ラーメンを楽しむ。




「まずい、メイとアイラが来る。俺は散歩に行ってくるぜ」




 アッシュが窓から脱出しようとするがバートンとクックが抑える。




「ば、バカ!離せ!」




「俺達は親友っすよ。親友は苦しさも共有するもんっす」




「お前だけ逃げ切るのは許さん」




「おま!3人死ぬより1人生き残る方がいいだろ!」




「戦場での敵前逃亡は重罪だ」




「苦しみはみんなで分け合うもんっす」




 ガチャンとドアが開けられる。




「良い匂いですねぇ」


 メイは笑顔だが、威圧感を放っていた。




「やっぱり、やっぱーり」




「アイラ、お手柄ですよ」




 アッシュとバートンは諦めて無言になった。




 だがクックは諦めない。




「こ、これは研究用の料理っすよ」




「そうですか。頂きますね」




 食べかけのラーメンにメイが口をつけようとする。




「食べかけて手を付けているっす。間接キスっすよ!」




「私は気にしませんよ。うん、美味しいです。もう楽しい研究は終わりですね」




「ま、まだ可能性があるっすよ!」




「シオン様に連絡します。もちろんマリン様にも連絡しますね」




 クックの肩にアッシュとバートンが手を置いた。




「「もう無理だって」」




 名探偵アイラは事件を1つ解決した。




 暴風のアイラの本当の意味はこの名探偵っぷりにあった。




 名探偵の活躍で暴風を巻き起こす。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る