第41話

朝日が眩しくて光平は目を細めた。



室内はムッとした血の匂いが充満していて、床は血の海と化していた。



目玉を繰り抜かれ、内臓も繰り抜かれた二人分の死体が転がっている中、光平は朝日の心地よさを全身で感じていた。



朝がくることがこれほど気持ちがいいと感じたことは久しぶりの経験だった。



朝になればあいつらにイジメられる。



朝になれば叔父と叔母に暴力を振るわれる。



朝なんて来なければいいのに。



そんな毎日を送っていた光平にとって、朝は強敵ともいえるものだった。



「気持ちがいい」



光平はガラスの入っていない窓へと近づいて呟く。



朝日をもっと全身に浴びたいと思い、仮面に手をかけた。



そして仮面をはがそうとしたその瞬間、ズキンッとひどい痛みが顔を襲っていた。



「っ!?」



光平は顔をしかめ、仮面から手を離す。



今のはなんだ?



いぶかしげな表情を浮かべ、再び仮面に手をかける。



ズキンッ!



まただ。



仮面をぬごうとすると痛みが走る。



それはまるで自分の本来の顔を引き剥がそうとする痛みなのだ。



そっと仮面に触れてみると、それは皮膚のように柔らかく、そして脈打っていた。



光平の血管が仮面の中に入り込み命が吹き込まれたかのように。



光平は一瞬息を飲み、慌てて室内へと戻った。



割れたガラスが散乱している場所へと移動して、自分の姿を確認する。



散乱しているガラスに映っている自分の顔は……白い仮面に血管が浮き出ている様子だった。



血管は見る見る仮面を埋め尽くす。



それは光平の一部となりつつあるのだ。



「なんだよこれ、なんなんだよ!」



焦って仮面に手をかける。



しかし仮面を引き剥がすことは自分の顔を引き剥がすのと同じこと。



光平は体中に突き抜けるような痛みに絶叫を張り上げたのだった。


☆☆☆


「ねぇ、仮面の噂って知ってる?」



2年B組の教室内で、女子生徒たちが数人固まって噂話に花を咲かせている。



「知ってるよ。前に聞いたじゃん」



「だよね。ひとりで屋上に行ったら仮面があるっていうやつでしょう?」



「その噂ね、続きがあるんだよ」



「続き?」



「そう。仮面を手に入れた人が注意しなきゃいけないこと」



「なにそれ?」



「仮面を長時間顔につけていると、顔と仮面がひとつになっちゃうんだって。だからね、永遠に同じ犯罪を繰り返すようになるっていう噂」



「でも、仮面をつけたままだったらすぐに犯罪者だってわかるんじゃない?」



「それがこの噂の怖いところでさ、顔と仮面が完全にひとつになったら、もう元の顔に戻るんだって。だから、見た目では普通の人なのか、仮面をつけた人なのか、わからなくなるらしいよ」



「なにそれ、そんなの卑怯だよ~」



「もしかしてこのクラスにも犯罪者がいるかもってこと!?」



「まぁ、噂は噂だからねぇ」



夏の昼下がり、女子生徒たちの楽しそうな声はいつまで聞こえてきていた。

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