第35話
《また、野良猫が殺害されました》
家電量販店の店先では、地元ニュースを映し出したテレビが流れている。
それを横目に光平は町を闊歩した。
初めて野良猫を殺害したときの快感は今でもしっかりと覚えている。
自分の手の中で必死に暴れて、そして生き絶えた野良猫。
あの瞬間、自分が神様にでもなったような気分だった。
自分が相手の生死を操ったのだ。
それから光平はことあるごとに町を歩き、野良猫を見つけると様々な方法で殺していった。
時にはカッターナイフで腹を裂き、時にはライターでその体を燃やした。
どんな殺し方をしても同じような快楽を得ることができた。
しかし最近の光平はすこし不満だった。
出席日数ギリギリのところで進級して高校2年生になったものの、まだ心の中には黒い塊が存在している。
この塊はどれだけ猫を殺しても拭い去ることはできないのかもしれない。
もっと大きなもの。
犬とか、野生動物とかにまで手を伸ばさないといけないのかもしれない。
そんことを考え始めたときのことだった。
学校の廊下で話したこともない女性生徒たちが噂話に花を咲かせているのが偶然耳に入った。
「1人で放課後の屋上にいくと、仮面が落ちているんだって」
その仮面はプロ級の犯罪師になれるというものだった。
光平は女子生徒の後ろを通りすぎながらその話を聞き、そのまま保健室へとむかった。
「あら、いらっしゃい」
40代後半の保険医の先生が笑顔で出迎えてくれる。
「どうも」
光平はぶっきらぼうに返事をして、ベッドに直行した。
自分の教室である2年B組にいくつもりはなかった。
こうして保健室で眠っているだけで保険医の先生はちゃんと出席扱いにしてくれる。
時にやる気がある時には保険医の先生に勉強を教えてもらうこともあった。
この人がいなければ、きっと光平は高校に来ることもなかっただろう。
光平は大きな欠伸をひとつして、目を閉じたのだった。
☆☆☆
保健室で寝て、少しだけ勉強をして、保険医の先生と相談とも言えないような雑談の時間を過ごすと、あっという間に放課後になった。
廊下を行きかう生徒たちの声が途絶えたのを確認して、保健室をあとにする。
そのまま昇降口へ向かおうと思ったが、ふと思いついて足を逆方向へ向けた。
普段は普通の生徒でも絶対に行かないような場所、屋上へ向かって歩き出す。
女子生徒たちの噂話を信じているわけじゃない。
17にもなってあんな話真に受けたりはしない、だけど屋上がどんな場所なのか気になったのだ。
階段をあがりきると灰色のドアが見えた。
「へぇ、こんなドアなんだ」
ここへ来るのは初めてだからドアが灰色だとは思っていなかった。
ものめずらしげにそのドアを見つめた後、光平はドアノブに手をかけた。
回してみると簡単に開いてしまった。
こんなもんなのか?
首を傾げつつ屋上へ出ると日差しの強さに目を細める。
今からこんな灼熱の中アパートまで帰らないといけないのかと思うと、気が重たかった。
屋上はただ広いだけでなにもない。
剥げたフェンスが寂しげに立っているだけだ。
きびすをかえそうとした光平の視界に光る何かが見えて途中で動きを止めた。
近づいていってみるとそれは真っ白な仮面だった。
「これ……」
呟き、手を伸ばす。
噂で聞いていたあの仮面か?
それにしては軽いし、珍しくもなんともない仮面に見える。
噂のように不思議な仮面ならもっと重厚感のあるものだろうと勝手に想像していたのだ。
ツルリとした仮面の表面を指先でなでると、光平はそのまま持ち帰ってしまったのだった。
それからの数日間は少しだけ刺激的なものとなった。
あの噂は相変わらず学校内でささやかれているようで、自分以外にも誰か仮面を求めて屋上へやってくるのではないかと思った光平は、放課後近くになると屋上に向かうようになった。
貯水槽の影に隠れていると、最初に来たのは恵一だった。
同じクラスなので顔くらいは覚えている。
でも残念。
仮面は俺がもらったんだ。
心の中でそう思った光平だったが、気がつけば屋上にあの仮面が落ちていたのだ。
恵一はとまどいながらもそれを手にすると持ち帰ってしまった。
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