第22話
リナは自分の手に持っている仮面へ視線を落とした。
でも、これがあれば……。
リナはごくりと喉を鳴らして唾を飲み込むと、「わかった、お姉ちゃんが買ってきてあげる」と、約束をしたのだった。
☆☆☆
急遽おもちゃ売り場へ向かうことになったリナは自転車で少し離れたデパートへ向かうことにした。
そこには沢山の店舗が入っていて、弟がほしがっているおもちゃもきっと売っている。
10分ほど自転車を走らせて到着したデパートは金曜の夕方ということでお客さんの数も多かった。
並べられている商品を何気なく見ながら2階のおもちゃ売り場へと足を進める。
さすがに、おもちゃ売り場となると少し客足は少なくなっていた。
クリスマスなどでは大賑わいな売り場でも、平日ではこんなものだ。
親子のお客さんがポロポロといる店内を見て回っていると、弟が好きなロボットアニメのコーナーが設けられていた。
さすが人気アニメのようでグッズは沢山でている。
その中でひときわ目立っているのが、さっきテレビで見たばかりのあのおもちゃだ。
ためしに金額を確認してみると3000円する。
3000円あれば家族全員分の1日分の食費になる。
咄嗟にそんな計算をしてしまう自分に少しだけ悲しくなった。
でも、もうそんな計算だっていらなくなるんだ。
リナは覚悟を決めて最寄の女子トイレへと向かった。
トイレの中には幸いお客さんの姿はない。
リナは念のために個室に入ってからバッグの中の仮面を取り出した。
今盗もうとしているのは万年筆よりもずっと大きなものだ。
しかも店員やお客さんの視線もある。
そんな中で本当に盗むの?
自分自身に質問するが、答えはすでに決まっていた。
弟にあんな返事をしてしまってから、リナのやることはひとつしかなかったのだ。
リナはマスクを取ってバッグにしまうと、白い仮面をそっと自分の顔に近づけていく。
肌に当たる瞬間少しだけヒヤリとした冷たさを感じたが、すぐに吸い付いてきた。
仮面はリナの顔にピッタリと密着している。
もう両手を離しても大丈夫だった。
そしてリナの足は今日の放課後と同じように、リナの意志には関係なく動きだ明日のだった……。
☆☆☆
仮面をつけているリナの姿を見れば、きっと誰かが不振に感じるだろう。
けれどおもちゃを盗み終えたとき、そんな懸念もすでに吹き飛んでいた。
リナの動きは素早く、そして的確だった。
誰にもいないタイミングで売り場へ向かい、目的のものを躊躇なくバッグに入れる。
これが仮面をつけていないリナ自身だったら、とてもできなかったことだ。
お目当ての商品をもらったリナはその足で薬局の化粧品売り場へと向かった。
うつむいて足早に進んでいるものの、驚くほどにみんながリナを見ようとしない。
まるで自分が透明人間にでもなってしまったような感覚に陥る。
化粧品売り場に到着すると、リナの手はリップクリームへ手を伸ばしていた。
ピンク色のリップクリームは妹がほしがっていたものだ。
ほっておけばきっとまた万引きをしてしまう。
その前にリナが妹へプレゼントをしてあげるのだ。
そうすれば、もう妹の手を汚す必要はない。
次にバッグなどが売られている雑貨店へ向かうと、店頭に並んでいるネックレスを掴んでポケットに入れた。
弟へのお土産だけじゃダメだ。
妹も、母親もあんなに頑張って生活をしている。
そんな2人へも感謝の気持ちを伝えたかった。
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