第26話 紗那のトラウマ
ここ最近真希の様子がおかしい。
もちろん、紗那が軽口を叩けばウザそうに反応してくれたり、普通に会話のやり取るはできている。
だが全体的に覇気がなく、どこか心ここにあらずだった。
極めつけは、気付かれないぐらい小さいため息を吐いていることだった。
紗那の言動で呆れて分かりやすくため息を吐くことは多々あったが、誰にも気付かれないぐらい小さなため息は初めて見た。
それが何回も続いたら紗那だって真希の様子がおかしいことぐらい気づく。
真希はなにかに悩んでいる。
もし悩んでいるなら力になりたいと紗那は思っている。
だが真希が相談してこない以上、紗那からは聞きづらく袋小路になっていた。
いくらウザい紗那でも人のパーソナルスペースに土足で入るほど、デリカシーのない女の子ではない。
真希は唯一、紗那と対等に接してくれる後輩だ。
同級生は同い年の子だから対等なのは当たり前だ。
だから同級生には清美や麗奈以外にも友達はいる。友達はいるが清美や麗奈ほど親しいわけではない。
そして去年、ある事件が起こった。
一部の後輩が紗那の美しさと格好良さに惚れ、ファンクラブを作ってしまった。
ここからが紗那の地獄の始まりだった。
その後、紗那は一部の後輩たちから『紗那様』と呼ばれ熱烈な愛を受けた。
それだけだったらまだ良かったのだが、ファンクラブの過激派がファンクラブ以外の生徒が紗那に近づくことを禁止したのだ。
もし近づいて話しかようものならばすぐに遠ざけられ、紗那はファンクラブ以外の人たちと話ができなかった。
紗那のことが好きなのは嬉しかったが、さすがにこれはやりすぎだった。
紗那はファンクラブの子たちに『さすがにそれは迷惑だから止めていただきたい』と強い口調で言ったら、『なんか私が知っている紗那様と違う』と幻滅されファンクラブは解体された。
その後は清美たちとも普通に交流することができるようになったが、紗那の悪い噂が学校中に広まり元から友達だった子たち以外から話しかけられることはなかった。
そのため紗那は去年、『紗那様』とは呼ばれたが一度も『鈴木先輩』『紗那先輩』と呼ばれたことがなかった。
だから真希と初めて会った時、あんな嘘を言ってしまったのだ。
だって去年の事件は紗那の中でトラウマになっているのだから言えるわけがない。
真希は高校一年生の後輩だったらしく、紗那の嬉しいことに去年の事件を知らない。
それだけでも嬉しかったのに、高校生になって初めて『先輩』と呼ばれたのだ。
本当に嬉しかった。
それに真希は先輩だからと言って崇拝もしなければ忖度も遠慮もしなかった。
もちろん、敬語や先輩と呼んでいるが同級生のような気安さを感じていた。
それが紗那からは好印象で、ついかまいたくなってしまうのだ。
そのせいで真希からは『ウザい先輩』と思われているがこの距離感が好きだった。
「ん~……あたしはどうすれば良いんだ……」
「どうしたの紗那。最近ずっと唸ってるじゃん」
「もしかしてまた変なファンクラブを作られてつけられているんですか」
「うわっ、それサイアクじゃん」
休み時間、自分の席で紗那が頭を抱えていると心配した清美と麗奈が紗那の元に来た。
去年の事件を知っている怜奈は今年も去年みたいなことが起こって悩んでいると勘違いをし懸念している。
清美も去年の事件を知っているため、勘違いした清美は怒りをあらわにしている。
「そういうわけじゃない」
紗那は勘違いをしている二人の間違いをただす。
清美も麗奈もまるで自分のことのように紗那を心配し怒ってくれる。
本当に良い友達を持ったものだ。
「そうですか。あれは本当にひどかったですから」
「さすがにあたしもあれだけはもうコリゴリだよ」
麗奈も清美も去年、ひどい目に遇ったのでそういうことで悩んでいないことが分かり少しだけ安堵している。
「それで紗那はなにに悩んでるわけ? もしかして好きな人でもできた?」
「いや、そうじゃない。北野後輩のことで悩んでいるのだが、少し聞いてくれるか?」
的外れなことを言っている清美を否定しつつ、紗那は今悩んでいることを二人に相談する。
二人は頷き、黙って紗那の相談を聞いた。
「確かに最近北野、元気ないかも」
「そうですね。最近の北野さんは少し暗いような気がします」
紗那が話し終えると二人とも思うところがあったらしく、紗那に同調する。
「もしかしてあたしがウザすぎるのが原因か。よく北野後輩にウザいウザいと言われていたがそこまで悩んでいたとは気づかなかった」
「気休めとかじゃないんだけどそれは違うと思うよ。北野だったら絶対『ウザいので話しかけないでください。本当にウザいです、マジでウザいです』とか言って遠慮なしに紗那に言って拒絶してくると思う」
「清美の言う通り北野さんだったら間違いなくそれで悩んでいたら紗那に文句を言うはずです。文句を言わず悩んでいるということは紗那のせいではないと私は思います」
紗那が真希の悩んでいる理由を推測するものの、清美と麗奈に一蹴されてしまう。
言われてみればその通りで、真希は良い意味で紗那に遠慮も忖度もしない。
もし紗那に嫌なことをされていたら文句の一つや二つすぐに言ってくるはずだ。
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