第24話 っていうかいきなり抱き着くな

「別に牧野は最低じゃないよ。それに友達になりたいと思えば友達になれば良い。ただその人のことを一人で寂しいそうだからとか哀れだからという理由じゃなければな」

「やっぱり優しいね北野さんって」


 どこが優しいのか分からないが陽子の中で真希は優しい人間らしい。

 本当にどこら辺が優しいのか全く分からない。


「だからこれからは北野さんのいう通り友達になりたい人と友達になるよ。だからね北野真希さん、私と友達になってくれませんか」


 まるで告白でもするかのような神妙な面持ちで陽子は真希に友達申請をしてくる。


「別に友達いらないから」

「うぅ~残念。でも諦めないからね」

「はっ」


 友達がいらない真希は陽子からの友達申請を断ると、陽子は物凄く残念そうな表情を浮かべた。


 断られたのにも関わらず、陽子は真希と友達になることを諦めないらしい。


 意味が分からない。


「いや、さっき断っただろ」

「うん。でも友達になりたくないとは言われてないし、嫌だとも言ってないよ。北野さんはただ『友達はいらない』って言っただけだよ」


 断られた陽子は自分に都合よく解釈し反論する。

 どこまでポジティブなのだろうか、この男の娘は。


「それに私って結構ネチネチしているから諦めないよ」

「なんでそんなに私と友達になりたいんだ。もう友達になる必要はないだろ」

「それは私が北野さんと友達になりたいから友達になりたいんだよ。最初は一人で寂しそうだからだったけど、今は純粋に北野さんと友達になりたい。北野さって刺々しく冷たいけど、実は優しくて面白くて私とは全然違う物事の考え方をして面白いんだもん。それに北野さんのおかげで自分の間違いにも気づけたし。だから私は北野さんと友達になりたい。そこに理由なんてなかったんだよ」


 これで陽子の誤解も解けたし、真希と友達になる意味も理由もなくなった。

 それが分かったうえで陽子は真希と友達になりたいと宣言した。


 真希からすれば意味が分からない。


 別に真希的には陽子と友達になりたいとは思わない。


 だが、それを言ったところで陽子が諦めることはないだろう。


 それは今の会話を聞くだけでも分かるだろう。


 断っても陽子は、真希と友達になることを諦めないだろう。


「……分かったよ。友達で良いよ」


 こんなことで言い争っていても時間の無駄である。

 真希はしつこい陽子に根負けをした。


「ぁ~……」


 真希から友達認定された陽子は声にはならない歓喜を上げた。

 真希と友達になれたことが物凄く嬉しかったのか、まるでヒマワリのような笑顔だった。


「これからよろしくね真希ちゃん」

「ま、真希ちゃん……」


 陽子は真希と友達になれたのが嬉しかったのか真希に抱き着く。

 いきなり下の名前で呼ばれた真希は、思わず面を食らう。


 もうお昼を過ぎているのに、陽子からはフローラルな匂いが漂ってくる。


 柔軟剤の匂いなのか、香水の匂いなのか、陽子の体臭なのかは分からないが不快ではなかった。


「っていうかいきなり抱き着くな」

「あっ、ごめんごめん。つい嬉しくて。私スキンシップが激しいからつい抱き着いちゃった」


 真希はいきなり抱き着いてきた陽子を剥がす。

 陽子はそれに対して謝罪するもののあまりにも軽い謝罪だった。

 気のせいか、距離感がかなり近くなったような気がする。


「ちょっと北野っ。なんで陽子に抱き着いてるのよっ」


 ずっと陽子を探していたせいか、息を切らした愛理が凄い剣幕でやって来る。


 なぜか愛理の中では真希が陽子に抱き着いていると見えたらしい。


 一度眼科か脳神経外科に行くことをオススメする。


「誰がどう見ても牧野が抱き着いているだろっ」

「うっさい。どうして北野が陽子とイチャイチャしてるのよっ。説明しなさいっ」

「お前こそうるさいっ」


 二人はお互い譲ることなく強い口調で口論する。


 これのどこが優しい女の子なのだろうか。


 やっぱりこの女は嫌いである。

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