Chapter5-4 交戦
おれたちは闇の中を進む。少し行くと、フェンスが見える。そしてWARNINNGと書かれた看板があった。そして恵は虚空から大鎌を取り出した。
そして何も言わず、フェンスを切り裂いた。一瞬で金網は切断され、足元にはくり抜かれた部分が崩れ落ちていた。丁度人一人が通れそうな隙間だった。
「こんなことして大丈夫かよ」
「警備システムがダウンしていたわ。早く」
敷地内に忍び込むと、コンテナが積まれた区画の裏側だった。なるほど、ここなら潜入しやすいということか。
恵、おれ、スカーレットの一列になって進む。姿勢を低くし、正面は恵が、横はおれが、後方はスカーレットで周辺を確認しながら進む。
少しすると恵が、待て、と手を広げておれの方に向けた。人差し指と親指を立てた後、次に小指だけ立てた。正面に二人、通常武装、というサインだ。
おれたちはコンテナの陰に隠れ、息をひそめる。恵は大鎌を構えた。そして、前に飛び出た。一瞬で武装した二人に迫り、まるで蝶が羽ばたくように、華麗に大鎌を振るった。
銃による応戦は無く、声を上げずに二人とも地に伏せた。恵は周囲を確認して、こっち、とジェスチャーで示す。再び、姿勢を落として進む。
恵の後ろにつくと、発砲音がする。音の方を向くと、積まれたコンテナの上にまた二人組だ。さっきと同じように武装している。
「スカーレット、援護!」
「おうさ!」
恵が空中に壁を築くと、その隙間からスカーレットが火炎の弾を放つ。その赤き閃光はまっすぐ月光が照らす人影を貫いた。しかし、向こうからすぐさま発砲を繰り返す。恵が壁を築くが、すぐに破られる。連中も、おれが持つ拳銃と同じ魔力を無効にする弾丸を使っているのか。
突然、恵がおれの体を強く引っ張った。おれは、恵の方に転ぶ。刹那、後方から光が走り、轟音が聞こえた。さっき立っていたところが黒く焦げていた。
すぐに拳銃を取り出した、空中には浮遊する人がいる手足に青白い光とスパークをほとばしらせていた、電気を扱う光属性の魔法術か。
その人の手に光が集中する瞬間、おれはすぐに銃口を向けた。スライドはもうセットした。セーフティはもう外してある。まっすぐだ。人差し指でトリガーを引いた。案外、軽い力でいけた。
銃口から飛び出した光が一瞬で闇に消えるのが見えた。ほぼ、同じくらいだろうか。相手も宙に青白い光を放った。空中でそれが触れ合った瞬間。光は虚空に還った。
この期を逃さない。続けて二回、人差し指を引いた。帯びていた青白いスパークは消え、そのまま地に落ちた。
「ナイスタイミングだ! ハックルベリーリッジ・タフ!」
スカーレットが声をあげた瞬間、電撃男を火柱が包み込んだ。火が消える頃には周囲から銃声は聞こえず、ひとまずはおれたちを狙う連中はいないようだった。
「二人とも、怪我は」
「オレは無事だぜ」
自分の体を見る。指は動くし、全身で痛むところはとくにない。強いて言えば、両腕が衝撃のせいか、少し痺れる感じがする。
「大丈夫」
「よかった」
コンテナの区域を過ぎると、海が見えた。そして円形で十mくらいはありそうな大きい構造物が出てきた。燃料タンクだろうか、それがいくつもあるように見える。さっきから銃撃戦があったし、スカーレットの攻撃に誘爆すれば危険そうだ。
「やけに静かだな」
おれがつぶやくと、岸に触れる小波とゆっくり吹く風、そして潮の匂いが嗅覚を刺激する。緊張の瞬間だが、妙に穏やかだ。
こういう時、相手はおれたちを攻めるならどうするんだろうか。あの燃料タンクのところはいかにも、らしいが影にしにくいし、攻撃を受ければ爆破炎上して巻き添えを食らうだろう。
おれならどうする。待ち伏せか? しかし恵の魔法術を突破しなければいけないし、後方から攻撃してもスカーレットの炎がそれを阻むだろう。
この中ならおれを狙うのがセオリー。潰せるやつから叩く、のがいいのだろうか。確か城を攻める時も弱点から、と歴史で習った気がする。
ふと海面を見る。月明かりが反射し、幻想的な雰囲気を醸し出している。しかし、何か違和感がある。目をこらすと、ポコ、ポコポコと小さい泡が立つ箇所がいくつかあった。そして、表面ではなく中から光が反射した。
「海中だ!」
おれが声をあげた瞬間、動きがあった。海中から渦が登ってくる。もう一度、拳銃を構えた。それが飛び出た瞬間、銃口から弾丸を飛ばした。まるで竜巻のようだ。銃弾が触れた瞬間、それは崩壊し、周辺を海水で濡らした。
直後、恵は大鎌を足元に突き立てた。足元から振動が伝わる。少しすると、海面にゴーグルや足ヒレが浮かんでくる。
「何をしたんだ?」
「衝撃波をピンポイントで発生させたの」
スカーレットの問いに答える恵。
「おっかねえなあ」
「あなたの火柱も相当だと思うけど」
「ハックルベリーリッジ・タフだ」
「なんでもいいわ」
燃料タンクの区域を出ると駐車場が見える。そこには車種はわからないが三台、大きい車が止まっていた。
「アルファードだ」
「気をつけて、潜んでいるかもしれない」
「一人か二人、真ん中にいるぞ」
「見えるの?」
「コンテナとかは無理だが、車内ぐらいならオレの目にはサーモグラフィーみたいに見えるんだよ」
スカーレットはそう言うと、赤い拳銃を両手に取り出した。引き金を引くと、一瞬で車が炎に包まれる。だがドアをぶち破って、中から大男が出てきた。身長が二mはありそうだ。肩幅もごつい。他の奴らと同じように戦闘服を着込んでいるが、左手を炎上する車の方に向けると、その掌に炎が収束していく。
「チッ、同系かよ」
スカーレットは走り出した。銃口から吐き出される炎は大男に命中するが、効果がない様子だ。
「ハックルベリーリッジ・タフ!」
大男の足元から火柱が立つ。だがそれは固まった。
「何っ!?」
いや、凍っているのか。冷気が立っているように見える。
「無駄だ」
刹那、動かなくなった火柱は大男の拳で砕け散った。
「私は炎と氷が使えるのでな」
氷、つまりは水属性も扱えるのか。
「お前、
「いかにも」
大男が右手に青い光を燈らせる、スカーレットの足元にその光を放出させると、彼女の動きが止まった。
「クソっ!」
彼の大きい左手に炎がまとわれ、スカーレットに迫る。その瞬間、恵は走り出した。大鎌を構え、大男との間合いに入る。振り下ろしたその刃は確かに左手を切り落とした。しかし、左手はそこにあった。
「残念だったなあ!」
恵の体にボディブローが命中する。そして、放物線を描き、宙を舞った。かろうじて着地できたようだが、口から血を吐いていた。
「恵!」
「他人の心配をしている暇があるのか!」
視界に大男が迫る。右手に青い光と氷を、左手に赤い光と炎を纏っている。
「クッソおおおお!」
スカーレットが大男を後ろから掴んで静止させようとする。
「待ちやがれ!」
「無駄だと言っているだろう」
「やってみなくちゃあわからねえだろ! キラウエア・ボルケーノ!」
彼女の全身から炎が吹き出していく。まるで火山から溢れ出す溶岩のように。そして炎がその姿を包むと、大男も同じように包まれた。
「この程度か?」
足元のコンクリートは溶け始め、二人の位置は徐々に下がっていく。苦しそうな表情のスカーレットに対して、大男はなんともなさそうだ。
右の拳がもう一度、青く光る。嫌な予感がする。
「スカーレット!」
何を言うべきか、わからなかった。兎に角、彼女に自分の感じた何かを伝えたかった。だが、そのまま大男に食らいついたままだった。
「確かに、火に限ればお前の方が上だ。だが、それが仇になったのだ」
後ろに右腕を大きく振りかぶり振り返った大男は、そのまま拳をスカーレットの体に命中した。纏っていた炎は一瞬のうちに氷となった。地に伏せた、スカーレットは立ち上がろうとするが、大きな足で、彼女をは蹴り上げられた。
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