第5話 美穂

 診察室に入った。その時竜也は医師の後方に居る看護師達を見てドキッとした。看護師の中に川島直美の姿があった。彼女は竜也を見てニコリと微笑んだ。


 竜也は担当医に治療の回復具合を診て貰う。


 「大分良くなっているね…来週まで入院して問題が無ければ、その後は通院にしようか」


 担当医はカルテに診療経過等を書き込む。


 診察は簡単に終わり、担当医が帰って良いよ…と伝え様とした時、竜也が口を開いた。


 「あ……あの先生」


 「どうしたんだ?」


 「自分は、事故に遭ってから……その、急にモテる様になったのですが、怪我と関連ありますか?」


 担当医は、しばらく考え込んで言う。


 「君の言っている内容が少し分からないけど……正直、私達は君に驚いているのだよ」


 「え、何故ですか?」


 「事故に遭った君を最初見た時には、まず助からないだろうと思った。もし……助かっても一生植物人間では?と思った程だ。しかし、君は数日の間に昏睡状態から覚醒して現在は普通に生活出来る状態まで戻っている、長年……医療機関いろんな患者を相手にして来たけど……君の様な患者は初めて見たよ」


 「そうですか?」


 「で……何だっけ、モテる理由を知りたいのかね?ふうん……女性にモテるようには見えんが?」


 「その……何故か、女性が僕の方へと来るのです」


 「言っている意味が分からないな……何が言いたいのだね君は?」


 「彼は、こう言いたいのよ、事故の後に何故か女性が自分に好意を抱く理由が何故なのか?と、先生に尋ねたいのです」


 直美が椅子に座っている竜也を後方から抱きしめて、彼の代弁者役をした。彼を抱きしめている時に直美の柔らかい胸が頭に当たっていた。


 「なるほど……そう言う事ね」


 「先生が知っているなら彼に教えてあげてください」


 「君が何故モテるかは、残念ながら私達には専門外だから答えられない。どうしても気になるなら……私の知り合いで、脳科学に付いて研究している人がいるから退院したら訪ねて見てくれ」


 担当医は連絡先を紙に書き込み、それを竜也に渡す。


 診察が終わり、待合室に出ると美穂の姿があった。


 何処か期待しているようにも思える表情で彼女は竜也に近付いて来る。


 「ねえ……どうだったの、診察の結果は?」


 「もう一週間、様子見で入院だって……」


 「そうなの……」


 「君は?」


 「明日、退院するわ……」


 美穂は少し寂びしそうに言うが……竜也自身は内心嬉しかった。もう美穂とは会わなくて済む。これで少し悩みの種が一つ消えたと安心した。


 「そう……じゃあ、お別れだね」


 彼は少し嬉しそうに言う。


 「大丈夫よ、そんなに心配しなくても私は家が近いから毎日貴方に会いに来てあげる」


 「え……?」


 竜也は驚いた。


 「悲しまなくても、貴方が退院するまで私は毎日お見舞いに来てあげるわ……そしてイッパイ楽しみましょうね」


 「は……い……」


 正直、竜也は美穂が少し怖かった。美穂は美少女で、ルックスもスタイルも身体も美しい……。アイドルとしてもやっていけるだろう……と思える程で、異性との関係も、お願いすればしてくれると思えた……。


 しかし……それに付け加えて性格が少し問題だった。


 独占欲が強く、竜也に関わる女性がいると相手と衝突する……。そう言う意味では……竜也は、美穂には自分以外の人と一緒になって自分の事は忘れてもらいたいと思っていた。


 「ねえ、早く病室に戻って楽しみましょうね」


 「あ…あの、今日はちょっと……」


 「何、ダメなの?」


 「うん……」


 「どうして?」


 「そ、その……ちょっと……少し横になりたくて……」


 「そう……」


 美穂は少し顔を俯かせた。


 「じゃあ、私……添い寝するわ」


 「え……?」


 「病室に行きましょう」


 美穂は竜也の腕を引っ張って病室へと向かう


 美穂に引っ張られて病室に入ったて行く竜也……。ベッドに向かうと美穂は竜也をベッドに座らせてカーテンを引く。


 「どうしたの、横にならないの?」


 「う…うん」


 竜也はベッドに寝る、美穂は竜也の隣に入って来た。シングルベッドである為、2人が入ると少し小さく感じた。


 やや狭く感じるベッドの上で竜也は自分の隣で寝る少女を見た。


 「フフフ……」


 愛らしい笑みを浮かべた少女。まだ……あどけなさが残っている顔、艶やかで長い髪……。可愛らしさのある大人未満の娘ではあるが……それとは間逆に独占欲もあった。


 「ねえ…何考えているの?」

 

 「いや、別に何も……」


 「隠さなくても、分かっているわよ。どうせ、あのチビでしょ?」


 内心は当たっていたが、それ以外にも、直美やさっき声をかけられた琴美の事も頭に入っていた。退院したら、彼女等とは一切関わらない何処か見知らぬ土地に引っ越したいと竜也は考えていた。


 「何も心配しなくても良いわよ。貴方の事は私が守ってあげるからね……」


 (それは、男性が女性に対して言う言葉だよ)


 竜也はそう言いたかった。


 そう思っていると、美穂が顔を近付けて口付けを迫って来た。


 「ンンン……」


 濃厚な口付けに、更に柔らかな肢体を擦り寄せる。華奢な身体が彼に覆い被さり、ベッドカーテンの向こうで二つの影が重なり合った。


 「貴方が欲しい……」


 可愛らしい顔で、頰を紅潮させながら少女は呟く。

 

 「18歳になるまで、我慢だよ」


 「女の子は16歳でも大丈夫よ」


 「じゃあ、高校生になるまでね……」


 「約束よ」


 「うん」


 (まあ……どうせ、それまでには忘れるだろう……)


 そう思っていると……美穂が彼の側で横になる。


 「ずっと一緒だからね」


 そう言って、彼女は竜也の手を握り締める。2人は、横になりながら、そのままのシーツを被って眠ってしまった。

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