眠れない夜をかぞえて

広兼 怜

閉ざした心

「いつまで続くんだろう、この暑さ」


額から首筋、背中と汗が流れる。

静けさの中で聞こえるのは、夏を懸命に生きて最後の力を振り絞って鳴くセミと、風に吹かれて揺れる木々の音。


「哲也、暑すぎてバテぎみなのよ。どうしたらいい?」


いつものことだけど、返事はない。


「いっつも返事をしてくれないんだから、一方的に話すのは私ばっかりで、聞いているのかも分からない。まったく哲也は……ごめん、返事できないよね」


太陽で熱せられた墓石を、水を固く絞った白い雑巾で拭く。墓誌に彫ってある名前、


『月岡 哲也  享年 21才』


私の彼氏だった人。

私と彼の時計の針は止まったまま。

あの夏の日、大好きだった彼は死んだ。


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