濡れ衣でパーティー追放された魔法使い、今さら戻ってくれと言われても、もう遅い・・・いやまだ早い

エイル

濡れ衣でパーティー追放された魔法使い、今さら戻ってくれと言われても、もう遅い・・・いやまだ早い

「ペチャパイなバカァーーーー!」

 

 領都の大通りに悪口が響き渡る。

 

 昼食をテラス席で食べていると隣の男女の恋人同士が話しをしていた。内容は浮気をしていたらしい彼女を、問い詰めていた男が逆に論破された。我慢できず、ついに単純な悪口を叫んだのだ。


 なぜ知っているのか?それは隣でガユスは昼食をしながら、他人の痴話喧嘩を聞いて、楽しんでいたからだ。

 

 そのカップルの男は運が悪いことに領主の娘が大通りを通っていたことに気が付かず、そして領主の娘は胸が慎ましかった。


 そしてすっごく胸のサイズを気にしていた。

 

 領主の娘は思わず、その叫びの犯人候補として俺と隣の席のカップルを問い質した。

 

 もちろんすぐに原因が分かると浮気と暴言カップルを叱り、俺に疑った事を謝り解決したのである。あのカップルは別れただろうな。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「領主の娘に暴言を叫ぶような奴はパーティーにいらない、ガユス出ていってくれ」

 

「暴言なんて言ってない!」

 

 その言いがかり、濡れ衣にしても酷いだろ。領主の娘自身が、不可逆に完全解決してるんだぞ。

 

 所属する冒険者パーティーのリーダーから話があると、呼び出された路地裏でこれである。

 

「温情でそういうことになっただけだろう?冒険者としての礼儀がない奴はいらないだ」

 

「そもそも暴言を言ってないし、叫んだのは別人ですぐに見つかっただろ。しかも完全に解決してる」

 

「疑われた時点で礼儀がなってないんだよ、火の無いところに煙は立たぬ、お前はいつかやるってことだ。とにかくパーティーから外れてくれ」

 

 封建社会で身分により、ほとんどの人間は領内から生活拠点を移せないし、出国するのはさらに難易度が上がる。

 

 同じ領主の違う村に結婚して移れても、違う領主ならお互いの領主許可が必要で、出国するには国王の許可が必要なのだ。

 

 しかし読み書き計算などの試験を突破し、冒険者ギルドに加入すれば平民や農民の移動制限や税が適応されなくなる。

 

 すなわち国家や貴族から自由になるということなのだ。冒険ギルドの試験を突破する学力と戦闘力は、特に学力が貴族と裕福な商人の子弟に限られるのではあるが。

 

 それは冒険者ギルドの力というよりは、魔物を退治し素材を集める戦力として囲い込みをするより、広範囲に移動した方が効率的だからだ。

 

 強力な魔物には数の暴力による戦力か、圧倒的な強者を必要とする。常時強力な魔物にあわせて、戦力を保持するには、コストがかかりすぎる。

 

 そこで必要な時だけ冒険者を集める、そのために冒険者は自由に移動出来るのだ。

 

 その特権は選民思想になり、平民や農民を見下し、まるで貴族の一員かのような錯覚を持つ冒険者が多くなる、つまりプライドと特権意識の塊なのだ。

 

 しかも戦闘力まであるのだから、どんどん強くなるほどプライドも高くなる。元が貴族なり準ずる地位にいたのだから当然かもしれないが、冒険者とはそういうものだ。

 

 もっとも俺たちはそこまで強くない、万年中堅手前のDランクである。

 

 要するに実力はないが、冒険者としてのプライドだけはある面倒な仲間達なのである。

 

 俺もその面倒な1人ではあるが、冒険者には簡単にはなれないのだから、少しくらいプライドが高くてもは良いだろう。

 

「魔法使いの俺を外してパーティーが維持出来るのか?」

 

 プライドが邪魔をしてついつい尊大な態度になるが、いつもお互い様なので気にしない。

 

「少なくとも大通りで尋問される奴が、パーティーにいるよりはマシだ」

 

「そこまで言うなら抜けてやる!こんなやつらに背中は預けられないからな」

 

「装備とパーティーの金は置いていけ」

 

「・・・仲間を疑う奴らの金はいらん」

 

 ほら早く折れろよ。パーティーから出て行くぞ。

 

「・・・早くだせよ」

 

 マジかよ!ヤバくない?飲み屋の姉ちゃんに貢いで金欠なんだが。しかもその無意味な間!!お前も追い出す気無くないか?

 

 今夜の宿はパーティー資金でとるから大丈夫なはずだったんだがな。

 

「これでいいだろ」

 

 ドサッとパーティー用の財布をリーダーに押し付ける。

 

 プライドで飯は食えないがプライドを捨てたら、冒険者で無くなるんだ。

 

「装備もパーティーの共有物なんだ、置いていけ」

 

「服は装備か?」

 

 全裸は止めてくれよ。いやパーティーに引き留めてくれ。

 

「・・・今着ている下着だけはやる」

 

 止めるのそこかよ。パーティーの要が抜けて大丈夫なのか?知らないぞ。その謎の間は、本当は抜けて欲しくないからだろ?

 

「男の下着姿が見たいとは変態だ」

 

 ズボンは着させてくれよ。

 

「仕方ない。ズボンをやるから下着を置いていけ」

 

 変態度が上がったか?古着は丈夫なら高く売れるし分からないでもないか。

 

「覗くなよ」

 

「見馴れてる男に興味はない」

 

 狩場まで日帰りなんて、ほぼない。だからパーティーの下の事情まで嫌でも知ってしまう。

 

「人目はないが、町だからな」

 

 そう言いつつ、ズボン以外を脱いで渡す。

 

「ズボンをサービスしたんだ。ありがたく思えよ」

 

 リーダーはあっさりと俺の身ぐるみを剥ぎ取る、踵を返して去って行った。

 

「・・・」

 

 言葉が出ないほど呆けしまったが、金策をしなければ飯も宿も服もない。

 

 俺は一瞬にしてプライドを残して、衣食住を失ったのだ。

 

「どうしろと?」

 

 俺は典型的な後衛型なので魔法の威力はそこそこあるが、近接戦闘のステータスは低い。

 

 つまり魔物に囲まれたら死ねる。

 

 現状の自分を客観視すると、誰が半裸の才能の低い一文無しのオヤジを仲間に新たに入れるのか?もちろんそんな酔狂な奴らはいないだろう。

 

「冒険者稼業は一時的にやめて、装備が整ったら再開だな」

 

 あえて口にして今後の方針を決める。もちろん先延ばしでも無ければ現実逃避でもない。

 

 ないたらないのだ。

 

「町の外で狩りをして、先ずは飢えをしのぐか」

 

 

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 町の外でなんとか獲物を狩ったまでは良かったのだが途方にくれている。

 

 素手でも魔法は発動できるのだから、魔物狩りが成功して当然である。

 

 ところで読者の皆様、よく考えて欲しい。問題が思いついただろうか?

 

 俺の魔法は土魔法だ。その魔法により土の槍が地面から突き出ており、雑魚の猪の魔物に突き刺さり一撃必殺、絶命している。

 

 さて道具は素手のみ。つまりナイフも薪も火打石も何もない。

 

「どうやって肉を捌いて食えばいいんだ?」

 

 当然焼くにも火打石を使う以外火の起こし方なんて知らないし、皮や毛を除ける刃物も無ければ、素手で肉を引き千切って食べるなんて不可能だ。


 読者の皆様は事前に分かっただろうか?そう、無意味な狩りになったのだ。

 

 俺が経験豊富な冒険者でも道具が無ければ、解体も料理も出来ない。

 

 運ぶにも土の槍は重く俺のステータスでは不可能ときたものだ。そもそも土の槍は、大地と一体化していてびくともしない。

 

 魔法で刃物なんてもちろん作れない。

 

 そう、食糧が目の前にあるが、どうあがいても食えないのだ。

 

「もう遅い」

 

 そう狩りは無駄な労力ということに、気が付くには遅かったのだ。

 

 結局は町に手ぶらで戻り、ホームレスとして残飯あさり食いつなぐしかないのだった。

 

 プライドは活力にはなるが、飯にはならないということだ。

 

 

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 1ヶ月後

 

 ホームレスという奴らは都市という砂漠で悪魔の誘惑に満ちている中、誘惑に負けないように身を寄せあって、そして助け合って生きているのだ。

 

 まぁ、屋台や飯屋、食料品店などから、旨そうな匂いがしても金がなく盗めば良くて牢屋か、犯罪者として奴隷になるか、そのまま殺されるかというだけだ。

 

 俺は魔法使いとして成り上がるには弱く、ホームレスよりは遥かに強いという、絶妙なポジションになっていた。

 

 土魔法で雑魚魔物な獲物を仕留めて、ホームレスに提供することで粗末ながら道具を手に入れ、寝る場所や僅かな仕事の情報を共有している。

 

 スラム街の住人とホームレスは少し違う。

 

 ホームレスは住むところを無くした直後だったり、商人などが宿を取り損ねたり、近くの村の買い出しで帰るのが遅れたり、つまりスラムに住処がない者達なのだ。

 

 ホームレスは小綺麗でないとスラム街か町の外に追い出される運命にあり、長くは続かないのだ。

 

 俺は金を少し貯めて、時々は宿に泊まり身綺麗して、野宿を挟む本格的ホームレスとなっている。

 

 本格的ホームレスってなんだよ?と思うがスラムの住人になる寸前で踏み止まっていると言うべきか、毎日宿に泊まるほど稼ぎがない奴と言うべきか。

 

 まぁそれは今の大きな問題じゃない。

 

 ホームレス仲間に貰った肉に食傷、つまり腹痛と下痢で苦しんでいるのだから。ちょっと古いがなんて聞いたが、もうダメだったらしい。

 

 そして正に今、1ヶ月前に俺を追放した元仲間の冒険者パーティーがやって来た。

 

「もう一度やり直したい、ガユス戻って来いよ。今から一狩りして勘を取り戻そう」

 

 リーダーよ。ありがたく受け取りたいが、昨日なら喜んで受けた。でもな今は腹痛と腹下しで無理なんだよ。

 

 最後のプライドが腹痛で、こんなことで、断るとは俺に言わせない。


「だが、もう遅い!!」

 

「悪かった。俺達の判断ミスだった。許してくれ。お前の魔法の火力がパーティーには必要なんだ」

 

 プライドの高い彼らが謝っているから許してもいい。その難易度は同じ冒険者として、連れ添った俺がよく知っている。


 しかし、食傷なんだとはプライドが邪魔して言えない。そして名案を閃く、そうこのまま1度お帰りいただき、後日また誘って貰うのだ。

 

「そこまで言うなら・・・かん・が・・・(腹の調子がヤバイ漏れる!!?)い・・・や・少し待てトイレに行ってくる!!」

 

 ギュルル~!!

 

「おいっ待てって!」

 

 ギュルルルル~!!!!

 

「もう待てないんだ!!!」

 

 本格的にヤバくなり、俺はなりふり構わずトイレにダシュし間に合わせる。

 

「危なかった」

 

 俺が無事にトイレに座ると、トイレの外に複数人の足音がドタドタやってくる。

 

「頼む。今からパーティーに戻ってくれ!!また冒険しよう」

 

 トイレのドアの向こうから聞こえた声に腹痛忘れて、俺はあらんかぎり叫んだ。

 

「もう遅い!!・・・いや、まだ早い!!せめてトイレから出るまで待てるだろ~~!!」

 

「「「・・・」」」

 

 暫くしてパーティーは無事に復活したらしい。

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