第3話 プロローグ3 誰にも止められない
「逃げるどころか、妙なことは考えなさんなよな、お前さんら。チャンピオンもノビてるし……言っておくが、今この地下空間に居る用心棒全員が暴れても……そこにいる自称俺の弟子にして、俺が認めるダチである、チームの特攻隊長シィーリアス一人で3分以内に全滅させられるぜ?」
外套を取ってその姿を見せるだけで、人は委縮し、そしてその言葉一つで悪は怯え……
「ちなみに俺なら……十秒だ」
「「「「ッッ!!??」」」」
「今はな……今はまだ俺の方が数倍強いんでな」
そしてその力は、振るわなくても相手を降伏させるほどの圧がある。
相手に抵抗する気力すら起こさせないほどの力。
そして、その力を正義のため、正しいことのために使う。
「さあ、悪の組織共! 今こそ俺たちが――――」
それが、僕の先生だ。
出会いは最悪だったし、最初は僕が理想とした勇者とは違うと失望したものだが……でも、僕は―――
「ミツケタ!! 我が王子にして、我が未来の義弟ぃいいい~!」
しかし、世の中は中々理不尽だ。
「「ッッ!!??」」
正しいことをしようとしても、人の心は簡単に変わらないだけでなく、邪魔をして来る者たちもいる。
「げっ?!」
「あっ……」
僕の道の前に立ちはだかるのは、何も悪党たちだけではない。
「王子……追いつきましたぞ? あなた様に輪廻果ての魂に至るまでの主従の誓いをさせていただきました、あなた様の剣! そして、我が大願でもありました我が妹を王子の花嫁としていただくため……あなた様に剣としてだけでなく、兄となるため……義兄騎士としてに参上いたしました! さ、今こそ魔界に戻っていただき、我が妹と華燭の典を!」
正義に生き、正義のために戦うと決めた僕の人生。そして、何よりもまだ未熟で子供な僕にはまだ色々と早すぎる……だけど、そんな僕の意志に関係なく
「ま~た厄介なのが来ちまったなぁ~。こりゃ想定外。さて、どうする?」
「ど、どうすると言われましても……たとえ、あの人がどれほど怪物のような強さであっても、僕は決して屈しません!」
「カッカッカ、よく言った。しゃーねぇ。ここは一つ、お前さんに面倒をかけた詫びとして、俺様が―――――」
さらに……
「見つけたッ! 悪童勇者! 今日こそ貴様に引導を渡す!」
「「あ……」」
追っ手は僕にだけではない。
「逃がすな! 我ら『真・勇者戦団』の名に懸けて!」
「我らこそ真の勇者!」
「そして、そのことを世界中に知らしめてやるのだ!」
先生に対してもそうだった。
「うげ……う~わ~、ここにきて更に面倒なのまで来やがった」
「ぐっ、先生……彼らは……」
「ああ……難癖付けてくる上に、話の通じねえアンポンタン共だ」
地下闘技場の別の入り口の方から現れた十数人の武装した、人間の若き戦士たちまでもが現れた。
「今日こそ決着をつけてくれよう、フリード! 勇者の名を穢す、悪童にして偽物の男!」
「な、あ、あの男、先生を侮辱!」
そして、その先頭のリーダーの男が先生に対してゴミでも見るかのような忌々しい目で見てくる。
「かつての大戦、世界の選ばれし英傑たちが一つになり、大いなる作戦と意思の下で大魔王と聖戦を始める……直前にふらりと横から入って、我らが戦う前に魔界の魔王城に勝手に侵入して、連合や我ら勇者たちの思惑を無視して勝手に魔王を倒し……そしてその後の世界の流れも放置という無責任極まりない男め! そんな貴様が勇者など許せるものか! 貴様を打倒し、我らが真の勇者として今後の世界の行く末を――――」
「うるせええええええええ! 俺ぁ勇者じゃねえって言ってんだろうが! 魔王とは喧嘩しただけだ! テメエらがタラタラしてただけのくせして、俺にイチャもんつけてくんなぁ!」
そう、先生は歴史に名を残す大業を果たしたというのに、心の狭い小さな人間たちが「手柄を横取りされた」というような態度で先生に難癖をつけて命を狙いに来る。
なんという連中だ。
「先生、ここは僕が――――」
「あ~、なんかまためんどくさくなってきた! 燃えねえ喧嘩だし……逃げるぞ、シィーリアス!」
「え、ええ!? 先生!?」
そして、僕たちはいつも逃げ回る。
「に、逃げるんですか、先生ぃ! あのカジノはどうするのです!?」
「まぁ、大丈夫だろ。あいつらも来たし、ここも取り壊しだし、今は俺らが捕まることや、ああいうのと関わる方が面倒だ。だろ? お前だって結婚嫌なんだろ?」
「そ、それは……」
「俺だってまだ昔の冒険者時代みてぇにまだまだ遊び……じゃなくて、そう、天下泰平の世のため土地土地のカワイイ姉ちゃんたちとまだまだヤリま……未だに不当な悪によって涙する民を救うための、俺たちの旅はこれからだ!」
「せ、先生はそこまで世直しを……~はい、先生! 僕はどこまでもお供します!」
だけど、僕はそれでもこの方についていく。
「よっし! つーわけで、チームのみんなと合流だ!」
「はいっ、先生!」
何気ないダッシュで前を行かれるだけで、その背中から離されないようにするだけで、僕は必死。
普段はいつも隣で笑ってくださる先生も、その強さはやっぱり僕のずっと前、ずっと上を行っている。
それは、先生だけでなく……
「やれやれ、コッソリ侵入して証拠を掴んで、誰にも気づかれず、静かに持ち帰る……はずが、これはどういうことだ? お前たちがしっかり『アタック』をするというから、自分たちが今回は『逃がし』の役になったのだが……そう思わないか?」
「ふふふふ、ま~、そう言ってやらないことだよ。フリードがアタック役をやりたいと言っている以上、こうなることは私には分かっていたよ」
地下カジノの用水路を通り、抜けた先には船で待機している……
「おお、ナイスタイミング!」
「センパイたちッ! 迎えに来てくれたんですね!」
そこにもまた、魔族の僕を迎え入れてくれる尊敬すべき、チームの先輩たちが……
「やぁ、お嬢さんたち! 乗っていくかい?」
「おうよぉ!」
「ありがとうございます、センパイ! そして、申し訳ありません! 当初はこれほど騒ぎを大きくする予定はなかったのですが、ぐっ、僕が役立たずで本当に―――」
「大変だったな……シィーリアス」
「センパイ……」
「リーダーがバカをやった……聞かなくてもわかることだ。お疲れだったな……あと…………………先輩ではなく、自分のことは兄と呼んでくれて構わん……」
「はい? 先輩?」
「おうおう、事情を聞かずに俺の所為にするって~のはどういうことだ!」
「では、事情を聞かせてもらおうかな、リーダー。僕たちの大切な後輩のシィーリアスくんにこんな顔をさせたのですから、相応の理由なのでしょうねぇ?」
僕の先生、そして僕を弟のようにかわいがってくださる先輩たち。
仲間であり、尊敬すべき方たちであり、そんな人たちと僕は……
「王子ぃぃいいいいいいいいいいい!」
「フリードぉおおおおおおおおおお!」
世界を渡る。
「カッカッカ、逃げろぉ! 誰も俺たちを止められねえ! 俺たちの自由への旅はまだ始まったばかりだぁ!」
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