恋のフルーツ☆バスケット
★Step23 甘い三角関係の定理
「三角関係…か…」
自室に籠って、南は改めて田中の言葉を思い出していました。
溜息ばかりが出て来ます。勉強に集中できません。期末テストが近づいています。ここで集中力を欠く事は負けを意味するのです。夏子は南の恋人では有りますが、勉強では良きライバルです。負けるわけにはいきません。負けない為には、一番を取る必要が有ります。それに、最近教師達の間に『南対策問題』が存在しているとも聞いた事が有ります。南をひっかける為だけに出題される、超難問。しかし、南は、そんな問題でも比較的簡単に問いて仕舞いますから始末に負えず、教師も少し諦め気味です。
しかし、南の頭には『三角関係』という言葉が浮かんでは消えして考えが纏まりません。こんな時、どうすれば良いのか…いや、どうするかなんて、決まってる事じゃないか、リンダは三か月後に自分の星に帰る。その後は夏子と何時も通りの生活を送る。これ以外のシナリオは無い。そう、南は思いました。
そう思った時、部屋の扉がノックされる音が聞こえました。誰だか察しはつきます。父親も母親も今日は病院泊まり、光江は夕食後の後片付けや雑用で忙しいだろ、残るはリンダだけです。
南はめんどくさそうに勉強机の椅子から立ち上がり、部屋のドアを開きました。
「えへへぇ…」
そこには予想通りリンダの笑顔が有りました。
「なんだ…」
「え、ちょっと教えて欲しいんだけど」
リンダは宇宙史の教科書とノートを持って何時もの様に笑顔でドアの前に建って居ました。教科書で恥ずかしそう顔の下半分を隠しながら、上目遣いに甘える様に…南はその表情を見て、一瞬ドキリとしました。心臓の音が聞こえたのではないかと思い、南は思わず赤面します。
「ん、どうした、南?」
南の表情を見て、リンダは不思議そうな表情を浮かべます。
「何でも無い、人にばっかり頼ってないで、たまには自分で考えろ」
南は苦し紛れにそう言って扉を無造作に閉じました。そして、扉を背にして天井を見詰め、ほうっと溜息を一つ。そしてリンダに冷たくしてしまった罪悪感。何故、こんな事を思うのか。南は、自分で自分の事を理解出来ず、激しく狼狽しました。そして後悔も。
♪♪♪
「冷たいんだよ、南は…」
宇宙史の授業で宿題の回答を指名されたリンダでしたが、その答えはめちゃめちゃで、タイムスリップでもしたのかと言う位、頓珍漢な回答をして、クラスに笑いをもたらしたリンダは、休み時間、夏子を相手に愚痴ります。
「昨日の夜だって、分らないから教えてって、部屋まで行ったんだけど、自分で考えろとか言って…全然教えてくれないんだよ」
そう言ってリンダは南に視線を送ります。
「まぁ、南君らしいってい言えばらしいわよね」
夏子は微笑みながらそう答えました。でもリンダはちょっと納得いかない様で南を見詰める視線に力が入ります。
「らしい…って?」
「あれで、結構、恥ずかしがり屋なのよ。ううん、不器用って行った方が良いのかな」
夏子は南の全てを知っていると言う表情で優しくリンダに、そう話しました。でも、ジェラシーの部分が完全に消えた訳では有りません。夏子のリンダに対するライバル心はむしろ大きくなりつつあるのです。でも、それを見せてしまったら、自分の負けの様気がして、気丈に振舞っているのです。本当は、南に抱きついて、リンダに向かって、思いっきり『い~だ』が出来たら、どんなに気持ち良いかとも思ったのですが、そんな事をしても、事態の解決にはなりません。従って、夏子は笑顔を絶やしません。リンダとは良い友達でいたいと言う気持ちもありましたから。
「リンダさん、もし、勉強で分らな事が有ったら、ぜひ私に」
佐藤が突然現れた。
「いえ、こんな理数莫迦より、繊細な文系青年のこの私に」
鈴木もいきなり現れました。
「いえいえ、こんな偏った知識しかない頼りにならない奴らよりは、広い知識が自慢のこの私に」
田中も負けて居ません。
「え…え、ええ、まぁ」
リンダの笑顔がちょっとひきつります。相変わらず、この三人は唐突に表れてリンダを驚かせます。
「あ、あり、がとう…」
リンダは一応、そう例を言って、こそこそと三人の前から退散しようとしたんですが、佐藤がちょっと怪訝な表情で、リンダに向かって詰め寄ります」
「リンダさん、先程からの、お話を総合すると、ひょっとして、夜、南の部屋に、出掛けて行っていると言う事で御座いますか?」
佐藤の表情は、ちょっと硬い物でした。ただならぬ雰囲気を纏っています。
「え、うん、まぁ、勉強教えて貰おうとおって、ちょくちょく…」
それを聞いた佐藤がいきなり大声で怒鳴りました。
「ちょくちょくですとぉ?」
佐藤の周りにいた者たちが一瞬驚いて、佐藤の周りに隙間が出来ます。 そして佐藤は両目から滝のような涙を流しつつ、リンダに向かって詰め寄ります。
「と、言う事は、夜中に若い男女が密室の中で二人っきりぃ?」
両手がわなわなよ震えているのが見て取れます。ただならぬオーラが放出されて、皆、一歩下がって遠巻きに取り囲みます。
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