★Step21 初めての思い
「素直じゃないぞ、南」
リンダはそう言って、南の鼻を右手人差し指で突っつきました。いかにも自分はお姉さんよとでも言わんばかりです。
「よせ……」
でも、南はやっぱり冷静で、その程度の事ではめげたりはしませんでした。ただ、その光景が夏子の目には少し複雑に写ります。彼女は、偶然見つけた二人を見てて笑顔で声をかけようとしたのですが、その笑顔は急速に消えて行きました。
なぜか……
南とリンダが急速に近付いて行く様に見えたからです。二人に友情以上の感情が芽生えつつ有りそうな句がして、事実、その様子が手に取る様に感じられたのでした。
夏子は聡明で頭の良い子です。だから、南が分の家にホームステイして居る田舎の純朴な少女を都会の危険から守っている。そういうスタンスで有る事は、十分理解して居た筈で、それ以上の感情は無いと思っていたのですが、でも、いざ目の前で、二人中無妻じい光景を見せつけられると、心の中に黒雲が湧きあがる様な不安に襲われます。そんな感情を世間では一言で言い表します。
そう……
『ジェラシー』
夏子にとって、自分の横に南がいるのは、呼吸するのと同じ位の自然で、さり気なくて意識する必要の無い事だったのですが、リンダはひょっとしたら南を連れてどこかにいなくなってしまうのではないかと言う不安感を煽ります。夏子は、じっと二人が並んで歩き、遠ざかって行くのを只管見送ります。それと同時に本当に二人が自分の元から遠く離れてしまう様で、切なく、悲しい感じがしました。
♪♪♪
南は学校から帰宅後も殆どを自室で過ごします。テレビはまず見ないし、ゲームにも興味が有りません。南はラジオ派でこれだけはいつもつけっぱなしにしてはいますが、BGMと同じで、よほどの事が無ければ内容までしっかり聴く事は有りません。今日も例外では無くて、南は自分の部屋で参考書や難しい専門書を広げながら、軽快なDJのお喋りを聞いていました。
そこに突然、携帯電話の着信音が響きます。南は携帯を手にすると表面の表示を見て、相手が夏子である事を知り、通話ボタンを押して何時もの様に電話に出ました。
「こんばんは、南君」
夏子の声が電話口から聞こえて来ました。
「ああ、どうした?」
「ん、別に何って言う訳じゃないんだけど、ちょっと声が聞きたくなったなぁって…」
南は夏子の様子が何時もと少し違う事に気が付きました。声が少し沈んでいる…そんな感じでしょうか。何時もの切れの有る夏子では有りません。ちょっと弱々しい儚げな感じがします。
「なんだよ、声なら明日学校ででも…」
「――今……今、聞きたかった」
南は電話口で考えます。やはりこれは少しおかしいと。夏子は明るい子で南に対して落ち込んだ姿を見せた事が有りません。それがどんな状況で有っても。
「――おまえ…泣いてるな?」
電話口で夏子が涙を流している様子が南には想像できました。画像通話が普通の時代に彼女が音声のみの電話をして来た事の味が少し分った気がしました。そしてただならない様子で有る事も。南の心にずしんと重い夏子の泣き顔、いつも笑顔の夏子の泣き顔……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます