第5話 絶品ピグカツサンドと初めての来客

 追放され、山小屋生活を始めてから3年が経った。

 スキル【美食】の力は想像以上で、今では小屋の周囲に畑と果樹園を作って自給自足の生活を送っている。


 肉や魚は罠を仕掛けて捕獲すれば、あとはスキル【美食】を使うだけできれいに処理された形に整えられる。

 食用部分以外は生ごみ処理用の場所に埋めて肥料に変え、有効活用するようにした。

 調味料も、材料さえあればスキル【美食】で一発だ。


 時間はいくらでもあるため、オレはあちこち巡っては新たな食材、調味料を探し、料理のレパートリーを増やしていった。

 一度食べた食材は「食材帳」に、作ったことのある料理は「レシピ本」に自動記録されるため、今では1000以上のレシピがストックされている。


 ――だいぶ充実してきたな。


 この国では、調味料は貴重なものとして扱われる。

 そのためたまに街へ行って調味料を売れば、生活にはまったく困らなかった。

 手切れ金として渡された金貨50枚もほとんど使っていない。

 それどころか、3年の間に貯金がだいぶ増えた。


 ――そろそろ小さな家くらいなら買えそうだけど。

 でも今のところ、この小屋で何も困ってないからなあ。


 それにオレがこうして楽しく暮らしていると家族に知られれば、兄2人が悔しがって何を仕掛けてくるか分からない。

 あいつらはそういうヤツらなのだ。

 戦闘系の上位スキルを持っている兄たちに適うわけがないし、あまり目立った行動はしない方がいいだろう。


 ――さて、今日の夕飯は何にしようかな。

 ピグの肉が余ってるしソテーにして――いや、カツもいいな。


 ピグというのは日本語で例えるなら小型の豚のような動物で、肉質が柔らかく、脂に甘みがあってクセもない。

 噛むとうまみが溢れてくる、どう調理してもうまい極上の肉だ。


 よし、今日はピグカツサンドだな!


 これはオレのお気に入りで、ピグの肉が手に入った際によく作るものの1つ。

 出かける際の弁当としても重宝している得意料理だ。


 まず、2㎝ほどの厚みに切ったピグの肉に塩コショウを振り、卵、小麦粉、パン粉の順につけて170~180度の油でカラッと揚げる。

 揚げている間にマヨネーズとからしを混ぜ合わせ、キャベツと青じそを千切りにしておくと、無駄な時間が出ずに熱々の状態で食べられる。


 ピグカツが揚がったらウスターソースを絡め、食パンに先ほどのからし入りマヨを塗ってキャベツとシソを乗せて、そこにピグカツを乗せる。

 あとは同じくからしマヨを塗った食パンで蓋をし、半分に切って――


 で、できたあああああああああああああああ!!!


 千切りや油の温度調整、片づけなど面倒なことは相変わらずスキル任せだが、最近はこうして手を動かして「料理」をするのも好きになった。


 ピグカツサンドの断面からは、じゅわっと肉汁が滲むピグの肉が顔を覗かせ、ソースやマヨネーズとともにテラテラと輝いて食欲を刺激してくる。

 う、うまそう……。


 そう思ったその時。


 コンコン……


 この山に来て初めて、小屋のドアがノックされた。

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