第3話 見つけた山小屋で過ごす夜

 ――しまった。完全にまよった。


 考え事をしながら歩いていたため、森に入ってどれくらい歩いてきたのかも、どっちから来たのかも分からない。

 既に日は傾きかけていて、このままでは森の中で夜を迎えてしまう。


 あの、記憶が戻った日のことを思い出すな。

 あの日は結局、偶然兄たちの話を聞いた護衛が探しに来てくれて事なきを得た。


 でも今は。

 助けてくれる人も、迎えに来てくれる人もいない。

 こんなところで野獣に襲われたらひとたまりもない。


 参ったな……。

 夜になる前にどうにかしないと。でもどうしたら。


 そんなことを考えながら道を進んでいくと、遠くの方に山小屋が見えた。

 近づいてみると小さなログハウスで、簡素ではあるが雨風と野獣を防ぐくらいはできそうだ。


「すみませーん、誰かいますか?」


 ドアをノックし何度か呼びかけてみたが、返事はない。

 恐る恐るドアを開けると、中は埃まみれだった。

 どうやら住人はいなさそうだ。


 ……とりあえず、しばらくはここを使わせてもらおう。


 オレはドアと窓を開け放ち、暗くなる前に掃除を済ませることにした。

 小屋の中には、古びたテーブルと椅子、木でできたベッド、それから棚が2つと使い古した衣服に布団、ランタンまである。


 布団はまあ、服を上に敷けば敷布団としては使えそうだな。

 床に寝るよりはいいだろう。

 この古着はさすがに使えないし、これを使って拭き掃除でもするか。

 ちょうど近くに小川があったし。


 オレはまず、敷布団を外に出して蹴とばし、埃を払うことにした。

 いったいどれほどの時間放置されていたのか、ひと蹴りしただけで煙のごとく埃が舞う。


「――っうえっ。ごほっ」


 できるだけ埃を吸わないよう袖で鼻と口をふさぎ、埃が収まるまで蹴とばし続ける。

 埃が収まったら、次は小屋の中にあった古着を持ちだし、小川へ行って水に浸す。

 そして小屋の床や壁をひたすら拭き続け、日が沈む頃にはどうにか泊まれるくらいには片付いた。


 オレは外に出していた布団をベッドに置き、テーブルの上にランタンを置いて灯りをともす。

 この世界の家電は、個々に流れている魔力によって起動する仕組みになっている。

 この魔力はスキルとは関係なく、無能だと捨てられたオレでも問題なく使うことができた。


 ――つ、疲れた。


 ベッドに腰を下ろしてため息をつくと、改めて自分が1人になってしまったのだと思い知らされた。


 まあでも、それはそれで。

 これからは意地悪な兄2人もいないし、両親からの圧力に委縮する必要もない。


 ぐううううううううううううううううううう。


「……とりあえず腹が減ったな。何か食おう。何持ってきてたっけな」


 食料は数日分はあるし、資金的にも当分は何とかなるはずだ。

 空腹は精神衛生上もよくない。

 ここは新生活の始まりってことで盛大にいこうじゃないか。


 オレは持ってきた食料をテーブルに並べてみた。

 パン(ブール)が3つとチーズ、塩漬け燻製肉、ドライフルーツ、きのこのオリーブオイル漬け、野菜のピクルスなど。


 ちなみに鞄はアイテムボックスにもなっていて、重量を感じることなく自由に物を持ち運ぶことができる。

 これは一般市民には手が出せない高級品だが、上位貴族なら誰でも持っているアイテムの1つだ。


 ――さて、何を食べようかな?


 考えたその時、突然脳の中にある情報が流れこんできた。

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