第28話 兵器への突破口

 アルカディア––––その名前を聞いて、俺も含め、その場にいた人間たちは顔を見合わせた。


「あの国、産業スパイまで手を出してたのか。末恐ろしいな」


 国として一方的に独立宣言をしたアルカディアは、南米の近くに位置する無人島を突如占拠し国家とした。島の付近には特殊な妨害電波が張り巡らされていて、他国の飛行機が接近することさえ不可能。物資の補給などは専用のドローンを使用し、世界各国にいる「支援者」から提供を受けている。


 この国の元々の始まりは、若者に門戸を開かず、高齢者ばかりが実権を握る自国の政治体制に嫌気がさしたとある若い起業家が、「テクノロジーの発展した、次世代の人材のための新たな国家」の樹立を提唱したことが始まりとされる。


 この起業家は、各国から優秀なエンジニアやハッカーを募り、ネット空間上で新たな国家の体制を作り上げた。独自の仮想通貨「アルデル」を国の通貨として定めており、物の購入や取引などはアルデルを使って行われる。熱狂的な信奉者のお陰で、アルデルの価格は高騰を続けていた。


 国民は日本でいうマイナンバーを付番され、行政手続きは全てオンラインで完結することができるらしい。


 正式に世界で認められた国ではないため、他国に所属しながらアルカディアの国民になることができる。––––つまり、アルカディアの関係者がどこに潜んでいるかはわからない。


「……アルカディアが噛んでるなら、三河重工への最近の高度な標的型攻撃にも説明がつく。次々と、ありえないペースで新種のマルウェアが開発されて投入されてきている」


 俺がそう言うと、マリンも首を上下させて同意の意を示す。


「どこかの国家が絡んでいる可能性は考えてはいたけど……アルカディアの関与が疑われたケースは初めてね。過激思想を持つグループも出てきている国だし、失敗した人間を躊躇なく殺すところを見ると、警戒してことに当たった方がいいかもね」


 エリコはそう言ったあと、覚悟を決めたようにまっすぐと俺を見据えた。


「杉、美冬ちゃんにちゃんと話した上で身辺警護の許可を取ったほうがいいわ。あの国は今美冬ちゃんを兵器への突破口としてマークしたはず。なるべくなら自然な形で警護できたら良かったけど。ことの進捗を見るに、それはもう不可能でしょう」


「……」


 ぐうの音もでない。以前より多少親しくなったとはいえ、家まで送ることさえ敬遠された間柄だ。真実を隠したまま毎日密着して警護するなど、不可能もいいところ。自分の不甲斐なさに嫌気が刺した。


 もっと早く、彼女と接近できていたら。彼女の近くで、より早く相手の動きを察知しながら、先手を取ることができたかもしれない。今は全てが後手に回っている。


「杉、聞いてる……?」


「ああ……。仕方ねえ、話すしかねぇな」


「そうと決まれば早々に彼女にコンタクトを取りましょう。……はぁ、でも彼女、手強そうよねぇ。杉、あんたに話し方は任せるけど、もし私がいた方がスムーズにことが進みそうなら一緒に行くから」


「鉄の女! って感じっすもんねえ、彼女」


 茶々を入れる江戸を横目で見ながら、胸には影が差していた。


 果たして真実を聞いて、彼女は協力してくれるのだろうか。

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