05

 声が震えて裏返る。足はこの場に僕を連れ戻したことも忘れて、産まれたての子鹿のように震えていた。

 それでも僕は自分の足で、確かにいじめっ子たちの前に立っていた。

「はぁ?」

 いじめっ子は僕が刃向かったことに相当腹が立ったのか、金髪のいじめっ子が指を鳴らして僕を威嚇する。

「や、やぁぁぁぁぁあ!」

 僕はそれに臆さないよう、ただ叫んで三人に向かって走り出した。

 構えもへったくれもない。ただ我武者羅に腕を振り回して走った。足が震えて何度も転けそうになりながらも僕はいじめっ子の一人、そして主犯格である金髪の顔に向けて拳を放った。


「っ当たるかよ!」

 金髪の男の顔が歪む。ただでさえ元から不揃いだったパーツがさらにぐちゃぐちゃになりながら僕の拳を避け、逆に僕の頬を殴り飛ばした。

 一瞬意識が揺らぐ。頬が突き刺すように痛い。口の中には鉄臭い血の味がじんわりと広がった。

 僕は思わず膝を付く。たった一撃で、僕の心はもう折れかけていた。

 もう何の気力も残らない膝。痛い、逃げたい。苦しい。何でこんな目に。

 頭の中には否定の言葉しか出てこない。逃げる口実は無数に浮かぶのに、立ち上がる理屈は何一つ浮かばない。

 それでも、僕は立ち上がった。

「僕は、もう、逃げたりしない!」

 僕はまた金髪の男に殴りかかる。しかし今度は当たる前に赤髪の男に殴られた。鼻がひしゃげて血が出る。反射的に出た涙で視界が歪む。

 痛い痛い痛い。これまでに感じたことのない痛み。それでも僕は立つ。

 立ち上がったところを茶髪の男に膝蹴りを入れられる。

「うぶっ!」

 鳩尾に命中したそれに、僕は思わず吐き出した。

 足からふっと力が抜けて、その場に蹲ると三人から背中、脇腹、頭を蹴られる。容赦の一切ない猛攻に全身に痛みが走って、何処が痛いかも、もはや分からない。

 

「はぁ……はぁ……こんだけやりゃ良いだろ」

 攻撃が止む。顔を守るようにしていた腕の隙間から金髪の男を見る。顔は汗だらけ、口から息を荒げていた。

 今しかない。

 その瞬間、僕は引き千切れそうに痛む身体を無理矢理動かすと、その金髪の男目掛けて思い切り飛び上がった。


 頭が割れるほどの衝撃。

 駄菓子屋なんかで売られている、空気を入れると飛び上がる蛙のおもちゃみたいに思いっきり跳ねた僕は、脳が揺れるのを感じながら、男の顎に頭が当たったのを視界に捉えた。

「やった、反撃……成功――」

 僕は確かな達成感と共に意識を手放した。

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