第754話
フランガ王国を抜け、西に向かうマルテニカの街道をゆっくりと移動する。
足の早いモンスターは次々とランドトータスの横を駆け抜けていって、ついでにそれを馬に乗ったプレイヤー達が追い掛けていく。
騎獣がいるプレイヤーは特訓も兼ねて追従するように走っているらしく、実際にスタミナ面の成長が見受けられる馬が出てきているそうだ。
「レカム街道はもっとモンスターが飛び出してくるような街道なんだがな」
「この隊列に喧嘩売れるような肝っ玉座ってるモンスターなんて早々いないでしょ」
横を駆け抜けていくグランドタイガーを見送りながら、ルテラがフロリアにツッコミを入れている。
これがプレイヤーのみの隊列だったとしたら、大なり小なりモンスターの群れがちょっかいを掛けに襲ってくることもあっただろう。
ただ、今回は大量のモンスターがメインの百鬼夜行モドキ。勿論妖怪も混じっているが、それ以上に凶暴で強力なモンスターがいっぱいいる。
中には本来縄張りを離れないボスクラスのモンスターも混じっている。縄張りを留守にして大丈夫なのかと思ったが、例の戦争の影響なのか他のモンスターも進んで縄張りを広げようと思っていないらしい。
多分、あの大戦で大暴れしたことにより、モンスターの内側に溜まっていたフラストレーションがいい感じに発散されたんだろう。
聞けば、アステロペテスという昔のアステリオスそっくりの怪物が大量に出現したらしいし、それらの相手をしていれば充分満足できる戦いになる筈だ。
「何なら、気性が荒い子ほど進んで参加してるからねぇ。本来なら他のモンスターを見掛けたら進んで喧嘩を売りに行くような子達がだよ?」
「まぁ、私達も一部ではあるがあの森で身を以て知ったからな……」
「というか、彼処の森だけ難易度高くありません? 出てくるモンスターも統一感が無いし、とてもじゃないですが対策不可能なんですが?」
そりゃまぁ当然の話だ。あの森は、私が色々なところで出会ってきたモンスター達が、のんびりと徘徊したりお昼寝したりしている森なんだから。
色々なドラゴンもいるし、森の木自体がモンスターの場合もある。周りが木ばかりだから視界も良くないし、樹上にも地中にも隠れている子達がいる。
それら全てを察知出来るようになるには、少なくともロビンの気配察知や、ルジェやオデュッセウスの魔力察知のようなスキルを彼らの水準まで鍛え上げないといけない。
「ということで、そのレベルのスキルが必要だったらウチで誰かに師事したらいいと思うよ。この間の戦争のお陰で、師匠枠がかなり拡張されたから」
「英雄揃いのゾディアックか……いや、確かに唆られるものはあるが、問題はその修行や指導についていけるかどうかだな……」
スパルタ教育なんて言葉があるが、ウチだと本当にスパルタのレオニダス王が盾役と戦士としての指導をしてくれるから、文字通りスパルタ兵なプレイヤーが誕生することになる。
ただ、意外にもレオニダス王に師事するプレイヤーはそこそこいるらしい。特に筋肉同盟や新世界プロレスのプレイヤーは、その肉体美をより良いものにする為に、スパルタ兵達の訓練にさえ飛び入りで参加しているそうだ。
「で、実際に効果はあったの?」
「更に逞しくなったプレイヤーが増えたな。それに、暑苦しさも以前の倍以上だ」
筋肉集団の熱量が増えたのか……うわ、想像してみたら物凄く気持ち悪い絵面が生まれた。ヤダよ、筋肉集団の熱量が凄過ぎてサウナ状態とか。
「アマネ、お客さん達がやってきたみたいだよ」
「あ、いつものやつですね」
ロビンがサブストレントの上からそう言うと、ガサガサと草むらが揺れて、ピョンピョンと飛び跳ねるオオカミの群れが尻尾をブンブン振りながら、ランドトータスの背中に飛び乗ってくる。
「わひゃっ!? ちょ、何すッ!?」
「やっぱりこうなるのッ!?」
そして、集中的にペロペロと舐め回されるエリゼとルテラ。やっぱり魔法使い同士、モンスターに狙われやすい何かがあるんだろう。
あ、ジャンヌとブリュンヒルデの方に行った子は舌じゃなくてお腹を出している。圧倒的な格上相手だとやっちゃいけないことも本能的に理解できるみたいだ。
「ホッパーウルフ。この辺りではそう珍しくない狩猟者達だな」
「跳ね回ると中々厄介でな。走ってきたところを迎撃しようとしたら、大きく上に飛ばれて避けられた挙げ句、後ろから来ていた仲間に飛び掛かられるってのも珍しくねぇ」
「実際、それでやられるプレイヤーは多いな。私のところでも、油断していた者がそれで噛み倒されて死に戻ったことがある」
ホッパーウルフは見た目は普通のオオカミで、体毛も灰色。正直に言えばタダのオオカミと言われてもわからない見た目のモンスターだ。
ただ、実際にはれっきとしたモンスターであり、名前の通り跳躍力に関しては非常に優れている。
ネコ科の動物は飛ぶ鳥を落とす程の跳躍力を有しているが、このオオカミ達も同じレベルの跳躍力があるそうだ。
本気でジャンプすれば一般的な校舎の二階くらいまで余裕に跳べるそうで、背の高い草むらから木々を越える高さまで跳び上がって鳥を仕留めた記録も残っているらしい。
「ふむ。思ったより足の筋肉が発達しているな」
『……バッタの類は、あの足に筋肉が詰まっているんだったか』
オデュッセウスとシグルドに撫でられつつ、足を触られているホッパーウルフの緊張した表情に思わず笑いそうになるが、それはさておき新しくやってきた子にも挨拶をする。
「いらっしゃい。ゆっくりしていいよ」
「ボーラスパイダーですね〜。投げるボーラが手頃且つ優秀なので、回収する人は多いですよ〜」
ちょっと白っぽい体色のハエトリグモ達が甲羅に飛び乗ると、ちょこちょこと手を動かして挨拶をしてくれる。
この子達はボーラスパイダーというクモで、そこら辺に落ちている石や、食べ終えた獲物の頭骨などを利用してボーラを作って投げるそうだ。
ボーラって何だろうか、と一瞬考えてしまったが、クモ達が持っているものを見てすぐに何だったかを思い出す。
あれだ、重りを二個くらい両端にくっつけて投げて、相手の足に引っ掛けるものだ。
ボーラスパイダーの投擲には的確に足を絡め取る技術があるらしく、乱戦の時には絶対にいて欲しくないモンスターとして知られているらしい。
「糸自体は靭やかで優れているんだがな。内側の糸は粘着質で良くくっつくんだ」
「剣で斬ると、その剣に糸がくっついて絡んじゃったりするんだよね」
「まぁ、腕次第ではあるがくっつくものを付く前に斬り裂くことも出来なくはないがな」
最後にしれっとそう言う龍馬だが、その技術があるのは相当強い達人の人しか出来ないことだと思う。
ちなみにだが、ゴリアテは絡んだら斬り裂くんじゃなくて、無理矢理引き千切って無効化するらしい。流石脳筋というべきだろうか。
「タックルボアが走ってますね〜」
「ショートワームも地中を移動しているみたいだ。アイツら、本来はあんまり動かないんだけどな」
そんな中、ランドトータスの横を走っていく茶色のイノシシ達。タックルボアという猪突猛進なイノシシのモンスターだ。
牙はそこまで大きくならず、体格も一般的なイノシシより少しばかり大きい程度。ただ、突進に関してはモンスターであるからこそ、本気でぶつかれば馬車を横転させることも容易い。
欠点があるとしたら、敵を見つけたら兎に角前に突っ込んでくることだろうか。槍を構えていても盾を構えていても関係なく突っ込むから、カウンターを受けやすいそうだ。
そして、時折地面の中から飛び出してくるショートワーム。この子達はミミズのように地中を潜る、見た目はヒルに近いモンスターだ。
ラグビーボールのように丸っこい体だが、これでも一応ミミズの方が種族的には近い。もしかしたら、ツチノコとかそんな感じ?
いや、ツチノコはツチノコでいるんだった。多分、呼んだらヒョコッと姿を現してくれると思うけど、絶対に騒ぎになるからやめておこう。
「あ、ウィングハウンド」
「この街道のボス――ちょ、顔はやめッ!? ワプッ!?」
弓月が見つけ、エリゼが反応しようとしてホッパーウルフに顔を舐められ撃沈。なんかこう、気が抜けるというかなんというか。
まぁ、そんなことはいいとして。今回やってきたボスはウィングハウンド。翼の生えた野犬で、シェパードとかハスキーみたいな大型犬で若干厳つさがある犬種の見た目をしているらしい。
今回来たのはハスキータイプで、舌を出しながら飛んできている姿はなんかバカ犬感が溢れている。
尤も、大きさに関してはトラなどの大型肉食獣に相当していて、空も飛べることから結構厄介なボスとして知られているそうだ。
「ワンコモフモフ! え、すっごく懐っこい!」
そんな結構厄介なボスは、アスラウグに捕獲されて思いっきりワシャワシャと体中モフられまくっている。
アスラウグの撫で方は大分豪快だが、当の本人は気持ちいいのかより一層気持ち良さそうに目を細めながら、スリスリとアスラウグに頭を擦り付けている。
『……ウチも犬くらいは飼ってみるか?』
『そうね。丁度、この上に良さそうな子がいるみたいだし』
「……上?」
シグルドとブリュンヒルデの会話を聞いて、思わず上の方を見てみる。
すると、何故か物凄い速さでこの場から脱そうとしている、ドラグヴォルフの群れが視界に入った。
……もしかして、二人に狙われてるって気付いたのかな?
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