第708話

 アマネが害された事による影響は、敵国であるディルガス帝国を除けば、ウォルク朝の存在する魔大陸が一番受けていたと言えるだろう。


「ギルガメッシュ王! 各地のスタンピード、依然として収まる気配がありません!」


「さもありなん。皆、アマネに縁有りしものだからな」


 魔大陸全土で発生しているスタンピードは、主に海岸線にモンスターが集結するような形で動きを見せていた。


 というのも、沿岸部にはシマガメやアスピドケロンといった巨大な背を有するモンスターが集結していて、スタンピードを起こしたモンスターはその背に乗って海を渡っているのだ。


 その船は既に何十と出航しており、背に乗るモンスターは万を超えた。空を飛べるモンスターも追従しているので、実際の数は更に多い。


「キングゥとエンキドゥは問題無いな?」


「ハッ! 既にケーニカンス獣王国軍と合流し、帝国領に向かい北上中とのこと!」


 アマネが使った渡航ルートである北部の転移陣。それを使いウォルク軍はケーニカンス獣王国軍と合流して、そのまま帝国領を目指して北上することとなっていた。


 勿論、ウォルク軍は魔大陸に住まうモンスターと戦える精鋭揃い。帝国の賊軍相手に負ける程弱くはなく、ケーニカンス獣王国軍と連携すれば地の利の不利も覆すことが出来るだろう。



 また、動いていたのはウォルクや現地のモンスターだけではなかった。


 スクランブル発進する大量の航空機や輸送機。滑走路が空き次第発進していく機体は、既に百を超えて千に届く程飛び立っている。


「リベリオン・パラディウムの数も大分減りましたね。次はゴーレム系モンスターを積載して運び込みましょう」


 遺跡内で指揮を取っているガラティアは、格納庫内のリベリオン・パラディウムの機体数を確認しながらそう呟く。


 帝国に向けて発進した輸送機には、この遺跡内に配備されているリベリオン・パラディウムを積み込んでおり、敵軍及び敵軍事施設に上空から投下する指示を出していた。


 金属の塊のような機兵が高空から投下されるのだ。もし地上に着地すれば、それは質量弾として着地点に甚大な被害をもたらすだろう。


 目標施設は帝国軍の要塞や砦、軍港などだが、帝国貴族の治める都市部も投下目標に指定されていた。


「帝国のことですから、都市部に私兵団を抱え込んでいてもおかしくはないでしょう」


 ガラティアの言う通り、帝国貴族は私兵団や暗殺部隊を個人所有している者が多く、その大半が都市内に拠点を構えている。


 市民もいざとなれば武器を手に取って襲い掛かってくるので、リベリオン・パラディウムの投下目標に指定されるのも無理はない。


「衛星からの情報を考慮するに、世界各国の戦力と全土のモンスターも友軍に含まれる。となると、優先して狙うべきは防御力の高い要塞か……」


 イグニッションフレアはサテライトレーザーの照射準備を整えているようだし、帝国の中枢である帝都はほぼ確実に消滅が確定している。


 なので、パラディウムの投下目標に限らず、私達で攻略すべきなのは敵の防衛施設。魔大陸の位置を鑑みれば、帝国東部の要塞や城砦の破壊を優先するべきだろう。


 それと、モンスターの上陸が出来るように湾岸部に存在する軍港と艦船も破壊するべきか。いや、それくらいならモンスター達の攻撃で破壊出来るか?


 そんな地上攻撃の目標設定に頭を悩ませていると、イグニッションフレアから魔大陸に関する連絡が届く。




「…………巨大樹が、動き始めた?」









 魔大陸のスタンピードが始まった時、この地に長く根差す巨木を有した森も、決戦の時を迎えるべく動き始めていた。


『……機は、満ちたか』


 数多の老木や大木を抱えた森で、嗄れた老爺の声が低く重く響き渡る。


『左様でございます。今、世界は解放を迎えるべく動き始めております』


 巨木の前で跪き、森に響く声の問いに答えるフンババ。彼のみならず、森に住む多くのモンスター達も、巨木を前にして跪き頭を下げていた。


『……そうか。ならば、我も今再び起きるとしよう』


『……先触れは、我が務めましょう!』


 そう言って、森中に響く咆哮を放つフンババ。その声は森を越え、魔大陸の山々や人の立ち入らぬ秘境にまで届いていく。


 それと同時に、森に根差した巨木が大きく軋む音を立てながら、大地を揺らしつつゆっくりとその身を起き上がらせる。


『……我がこの地に立つのもどれ程前の事だったか』


 その姿は、正しく世界樹の巨人。青々と茂る若葉がアフロのようで、硬質さを感じさせる樹皮は皺だらけの老爺の顔を表面に浮かばせている。


 また、その間にもフンババの先触れの声を聞いたモンスター達が一斉に動き始めており、魔大陸でアマネと関わっていなかったその他のモンスターもスタンピードの中に加わっていった。






『…………目覚めよ! 我が旧来の同胞よ!』






 不意に轟く、世界樹の巨人の咆哮。魔大陸中を揺らすその声は、遠く離れたウォルクの街や遺跡内にいるガラティアにさえ届いていた。



――だが、その咆哮の効果は相当なものだった。



 森の木々が大きく動き、世界樹の巨人程ではないものの、巨大な木々は二足歩行の巨人となって次々と立ち上がっていく。


 更に、近くの森も同じく巨人達が立ち上がり、山の斜面からは岩肌が音を立てて大量の岩石の巨人を生み出していく。


 彼らは世界樹の巨人に従う眷属達。長い年月を大樹として過ごしていた木々はプライマルエントになり、巨大な山となっていた岩はアースジャイアントとなる。


 更に、吹き荒れる風は徐々に人型の姿に変わり、ストームタイタンとなって雲を襟巻きのように纏い始める。


 近場の水源は大きく盛り上がり、シーツを被ったお化けのようなハイドロボガートへ変わり、平原からは土と草で出来た騎士であるネイチャー・ガーディアンが生まれ出す。


 これらは皆、世界樹の巨人と共に魔大陸で眠っていた同胞達。嘗て、エーディーンの主神たるウラノスの手で育てられた、一本の若木の眷属達。



『今こそ! 我が恩人ともの無念を晴らす時!』



 世界樹の巨人の言葉に、眷属達は大きな口を開けて唸るような咆哮を一斉に轟かせる。そして、ゆっくりとした足取りで徐々に眷属の集団は西へ歩を進め始める。


 それに同調するように、モンスター達も負けず劣らずの咆哮を轟かせて、西の海岸線に向かって突き進んでいく。


「これは……まさか、記録上に残っている、あの伝説の木神!?」


 動き出した世界樹の巨人の姿を、イグニッションフレアから送られてくる映像で確認するガラティア。


 その姿は、亡国となった国で言い伝えられていた古き木の神の姿と酷似していた。それも、記録上に残る神話の一説とよく似たものである。


 嘗て、ウラノスとガイアは息子であるクロノスが生まれた時、一本の若木を植えてクロノスと共に育てた事があった。


 農耕神であるクロノスの友として育てられたその木は、荒れ地しか存在しない魔大陸に渡り、魔大陸の世界樹として大地に恵みを与えていた。


 エーディーンでは既に名を知る者は僅かばかりとなったその木。魔大陸の神として世界を見守り続けていた神は、遂に亡き友の無念を晴らす時を得たのだ。





『全軍、我に続けェッ!!! 世界を貪る悪神の首を討ち取るためにッ!!!』






 木神は天高く拳を突き出しながら前へと進む。己が世と世界を牛耳ろうとする仇敵を討つ為に。











「……ウラノスとガイアが生んだ伝説の大樹。魔大陸に根差し、一つの神としてその座に至った世界樹の一つ。その名を――――」













『――――樹神、タネ・マフタの名の下に!!! 貴様の繁栄は、今この時を以て終焉を迎えるのだ!!! 待っていろ、ゼウス!!!』







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