第27話
あおちゃんに付き合ってのお出かけは、あおちゃんが僕の服をコーディネートして、髪の毛のセットまでしてくれる。
僕は大して服を持っていないから、身長が追いついた今、実くんのを借りたりもして。
それだけでも十分すぎるぐらいなのに、あろうことか普段とは違うオシャレな眼鏡とコンタクトレンズまで作らされた。今日はコンタクト。
月1回のためにもったいないよっていう僕の意見は、あおちゃん、冴ちゃん、実くん、あおちゃんのお姉ちゃんの朱音ちゃん、あおちゃんのお母さんによって却下された。
却下された上に、あおちゃんいいぞ、もっとやれな空気で今に至る。
ちなみに僕の必須アイテムのマスクだって、普段は使い捨てのごく普通の白いマスクなのに、月1回のこれには何故なのか黒のマスク。
この前と違うのはそれだけ………とは言い難いかもしれない。
だけではないにしても、僕って気づかれないのは、ここまで驚かれるのは、ちょっと悲しい。そんなに違うのか。
「あ、うん。明です」
一応、これならきっと分かるよね?ってマスクをずらして、僕は宗くんに頭を下げた。
宗くんはびっくりした顔のまま僕を見て、僕の腕にくっついているあおちゃんを見て、あからさまにぷいって顔を背けた。ご丁寧に舌打ち付きで。
………何に『ちっ』なんだろう。僕にか、あおちゃんにか、それとも僕たちふたりにか。
声をかけたのに舌打ちをされたら、どうしていいのか分からない。
「入らないの?」
ここは、カフェの前。入り口の前。僕たちが入ろうとしていた。
最近お客さんが増えた気がするって言うあおちゃんのお母さんから、ちょっと行ってみてってお願いされて来た。
あおちゃんが宗くんに聞く。
少し声がかたいのは、多分だけど宗くんの舌打ちにイラッとしたから。
あおちゃんはかわいい見た目とは裏腹に、ちょっとやんちゃ。
………イラッとして何か勃発だけは避けて欲しい。そんなことになったら僕の手におえるはずない。
「………お前ら入んの?」
「入るから来たんじゃん」
「お前に聞いてねぇよ、ケバちび。明」
「けっ………けばちびっ………」
「宗くん‼︎」
さすがにそれはって、咄嗟に宗くんを呼んだ。宗くんは何だよっていう感じで僕を少し下から睨み上げた。怒っているような顔で。
………何で怒っているんだろう。
怒られる意味が分からない。そして目つきがこわい。
位置的にそう見えるだけなのかもしれないけれど、宗くんの目が三白眼で正直こわい。ジロっていう感じではなく、ギロ。
Tシャツにパーカーを羽織ってGパン。両手はポケット。
身長は僕よりやや下だから多分175ぐらい。体重は僕よりは絶対ある。そして圧がある。そこからのギロ。
………え、宗くんって普段ずっとこんな風なのかな。だとしたら。………だとしたら、僕はどれぐらいの期間トイレとお友だちでいなくちゃいけないんだろう。
辰さんと家族になるってことは、この宗くんともそうってことで、つまり………。
そのときだった。
カランコロンって音と同時に、カフェのドアが開いて。
「ちょっと、邪魔なんだけど」
ものすごくムッとした、女の人の声。
反射的にごめんなさいって退いた僕とあおちゃんと、一歩だけ下がった宗くん。
「邪魔だっつってんの」
女の人はどんってワザと宗くんにぶつかって出てきて、そして。
「あ、タツヤくーんっ」
今の声、言葉は空耳?ってぐらいひっくり返った高い声で誰かを呼んで、小走りで僕たちの前から去って行った。
………確かに店の前に立っているから邪魔は邪魔だと思う。
………それにしたって。
ふわんって風に、僕には強烈な香水臭がにおって、僕は思わずけほってむせた。
「あれ?あいつ」
「ん?あ、宗くん?」
見覚えがありそうな感じのあおちゃんと、女の人を追いかけるみたいに歩き出した宗くん。
宗くんの少し前の、ワザとぶつかってきた女の人は、金髪にサングラス姿の男の人の腕に、今あおちゃんが僕にやっている以上にべったりと腕を絡ませた。
そのまま向こうに、僕たちに背を向けて歩いて行く。
女の人の男の人を見上げる横顔は、横顔しか見えないのに分かるぐらい、うっとりという言葉がぴったりのような気がした。
「あいつ、こないだ見た全身ブランド女じゃね?」
「………え?」
全身ブランド女。
その言葉から、僕の頭に出てきたのは、政さんの婚約者。
「え?」
もう一度女の人をよく見ようと思った僕の視界に、構えたスマホでそのふたりを写真に撮る宗くんが、うつった。
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