プリズム☆グレイ ~令嬢な魔法少女のカノジョは魔法が使いたい~ 

津舞庵カプチーノ

第零章『プロローグと設定』

第0話『プロローグ、或いは人類の後退』

 ──人類の滅亡は、もっと突発的なものだと思っていた。だが、まさか人類を上回るだけの新種の正体不明生物が現れ、そして人類を駆逐していくこの現実を、一体誰が予想出来ようか。


 評論家、レッカー・ダンガスの言葉より引用──。



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 “人類の滅亡”と聞いて、一体何を思い浮かべるのだろうか。

 案外純粋に、ただただ危険が迫っているという感想を抱くのかもしれない。

 いや、何処かで見たようなB級映画のキャッチフレーズを思い出して、同じ感想を抱いた仲間たちと話し合うのかもしれない。


 きっとそれは、正しいのだろう。

 人類の滅亡なんて突拍子もない言葉に、現実感を覚える人なんて碌に存在しない。

 その上、による人類滅亡なんて、散々フィクションで使い古された題材である。

 そんな奇想天外な話題なんて、一時期こそ加熱すれど、その一時を過ぎてしまえばすぐ冷めてしまうものであるのだ。






──だがそれは、だったのだ。






 “ケモノ”と呼ばれた、人類を喰らう敵対者が最初に発見されたのは、1980年台ほど。場所は、ユーラシア大陸奥地の山脈で、見つかったのだ。

 最初に見つかったのは、“ケモノ”の体から剥がれ落ちた外殻──。

 今でこそ、それが“ケモノ”の外殻と判断できようが、当時は新種の生物が発見されたとかで話題となったものだ。テレビに会話の話題にと、それについての話題はネッシーなどのUMAよりも、ずっと現実味があったのだから。

 そして、それに興味を抱いた各国の生物学者等は、その新種の生物を探し出すために、ユーラシア大陸の奥地へと足を踏み入れたのだった。


 だがそれは、悪手であったのだ。

 それから数週間、いや数か月経っても帰ってこない調査隊。それが新たなニュースとなるに、あまり時間は掛からなかった。

 不安を煽るような、各国のメディア。

 そして、それに業を煮やした各国首脳は、当時最新鋭の武装を施した一個大隊を複数派遣するに至ったのだ。

 しかし、それが悪手だと各国が気付いた時には、既にもう手遅れだった──。



『──此方ヴァルキリー隊! 次々と現れた正体不明生物が、人を喰って、喰ってやがるううううぅぅぅぅ!? あぁ、終わりだ、どうせ俺だって終わりだぁ! アイツ等みたいに、ぐちゃぐちゃに喰われて………。』



『──おい! 俺の腕を喰うなああああぁぁぁぁ!! 痛てぇ、痛てぇよぉ!? 助けて、助けて神様ああああぁぁぁぁ!!』



『──死にたくない、死にたくないよぉぅ。……誰か、助けてぇ』



 それは、通信機の向こうから聞こえる無機質な機械音声で構成された、人々を助けようと向かった者たちの最後の言葉だった──。


 それを受信した各国首脳等は、すぐさま行動へと移した。

 軍備への国家予算の大幅投資。防衛ガイドラインの見直し。軍人の再訓練。やる事は、なくなるなんて事はなく、ただただXデーに備えての国家主導の防衛戦が始まったのだ。

 勿論、それに異議を申し立てる輩は、何処にだって存在する。新聞社だったり、ラブアンドピースを志す団体だったり、果ては大手放送局だったり。

 それらを踏みつぶしていった各国は、それはそれはクーデターが起きかねないほどに非難されるのだった。



 ──そして、Xデー当日。



 人類は敗北を喫した──。

 あれだけの準備をしたのにも関わらず、人類は負けたのだ。

 確かに、ミサイルや戦車なども総動員した、さながら世界大戦を思わせるほどの大火力での殲滅作戦。実際、ユーラシア大陸の一部は、草木も碌に残っていない荒地と化したのだから。

 だが、そんな圧倒的な火力を以てしても、人類は“ケモノ”に勝利する事は叶わなかった──。


 そう、“ケモノ”には現代兵器の類が碌に効かなかったのだ。

 突撃銃で使用されるライフル弾なんて何のその、それどころか戦車砲ですら防ぎ切った時は、国々がただ茫然とするしかなかった。それでも精々、多少ながらも効果が兵器を挙げるとするなら、ミサイル群の類と、あとは戦術核ぐらいだったのだ。


 そして、人々の生活圏は、どんどん押し込まれていった。

 最初こそ、ユーラシア大陸の中央近くで人類は前線を張っていたものの、徐々に押し込まれて最終的にはヨーロッパの西部が最前線になってしまう。

 何せ、“ケモノ”に勝てないのだ。

 それでも、時間稼ぎができるのはとても僥倖で、どうやっても勝てないという無慈悲なまでの現実。

 その曖昧なまでの事実が、人類を苛立たせるのと同時に、唯一の希望だったのだ。



 /2



 だが、齢数千年、地球の頂点に立ち続けた霊長類を舐めてはいけない。

 人類の武器は、何も科学などを利用した戦略兵器の類ではなく、それを開発するためのプロセス。という唯一無二の武器で、人類は生物の頂点として君臨するのだ───。

 今現代こそ、技術の進歩の延長線でしかなかったが、案外尻に火が付けば。それこそ、人類滅亡の危機となれば、新たなものを作り出す事ぐらい出来たりする。


 そうして生まれたのが、“魔法少女”という存在──。

 正式名称は、『国家防衛魔法契約少女』と言う。

 しかしそれは、書類上でしか通用しない。たとえ軍法会議の場合でも、魔法少女と言った方が通用したりもするのだ。


 彼女等魔法少女は、“ケモノ”を殺す事の出来る、唯一の存在。

 後年、“ケモノ”を殺す事の出来る銃弾──『V弾』こそ開発されはすれど、どれが一番効果的かといった話となれば、きっと魔法少女の名が挙がる事であろう。

 実際、それだけの成果を出していて、某国では魔法少女育成学校なるものまで存在してたりするのだ。

 それだけ、“ケモノ”に滅ぼされかけた人類としては、彼女等にとても期待をしている。


 だがそれでも、人類の生存権を“ケモノ”等から奪い返す事は叶わなかった。

 確かに、魔法少女というは、とても強力だ。犠牲度外視で攻め込めば、きっと勝てるのだと誰もが淡い幻想を信じていた。

 しかし、それでも勝てなかったのだ──。

 勝てなくて、ただ事実と無駄に替わりの利かない兵器を無駄にしただけだった。


 そう、確かに“ケモノ”一体一体はとても強力で、数か国すらも落とした“ケモノ”すらいるのだ。

 だがそれは、まだ対処のできる話。

 しかし、圧倒的なまでの犠牲度外視で攻めてくる物量作戦は、たとえ一騎当千万夫不当の魔法少女であれど対処は難しい。それどころか、彼女たちが対応を誤れば、命を落とす事はそう珍しくなかったのだ。

 しかもたちの悪い事に、損耗をたとえしたとしても、それ以上の数となって“ケモノ”は人間の支配領域へと攻勢をしてくる。


 ──そして、“ケモノ”の支配領域は広大なものとなった。

 北は、ロシア国内。

 南を、インドと中央アジア。

 西を、ヨーロッパの諸国。

 そして東を、中国とその他の諸国等。

 その広大なまでの“ケモノ”の支配領域は、経済損失や人の住まう土地を、取り返しがつかないほどに、人類は奪われてしまったのだ。

 

 そして、島国と言えど、ユーラシア大陸の隣にある日本国とて、“ケモノ”の影響の例外ではなかった──。



 /3



「なぁ、は何だ?」


 日本国、沖縄県──。

 平和ボケをした日本国民にとって、異形の生物が殺しに来るという衝撃的な事実は、受け入れがたいものだった。




 まずは、初期対応が遅れて、沖縄県に住む住人の3割が、“ケモノ”に喰われてしまう。


「──痛いよ、痛い!?」


「──おかぁさん。おかぁさ……」


「──喰うな! 俺の腕を、喰うな!!」




 次に、米軍がこの事態を対処しようとしたが、魔法少女のいない彼等にとってあまりにも分が悪い。

 撤退戦を開始。

 結果として、そこで更に住民の1割を、“ケモノ”に喰われてしまった。


「──おい、ブルゴーが喰われた!!」


「──畜生ぅ。撤退だ、撤退ぃ!! 殿はα隊が務める故、他隊は基地まで後退。そこに置いてある航空機で、本国へと帰国する!」


「──了解、しました……」




 そして、最後まで残っていた日本国海軍は、決死作戦を決行した。

 具体的な内容は、今だ沖縄県に取り残されている民間人の救出。

 それを決行するにあたって、何十何百との軍人が死ぬ事は、最初から分かっていた事だ。分かっていた上で、誇り高き彼等は、人々を救うために自ら死地へと赴いたのだった。

 献身的な、異形のモノからの救出作戦で民間人の死者は碌に出なかったものの、──結果としてが尊き命を落とす。


「──死ねええええ! クソが、死ねよぉぉぉぉ!!」


「──これ以上、テメェ等なんかに俺らが祖国の土地を、踏ませて堪るかよ!!」


「……後はお前たちに、この国の行く末を、未来を頼んだぞ」


「──高野艦長。駄目です。貴方はこの国にとって、大切な人材です! こんなところで無意味に死なせる訳にはいかない!!」


「……撤退だ。雪原中尉は、そのまま民間人の護衛に付け。殿は、俺が務める」


「──……承服、出来ません。俺も、俺たちも殿を務めます!」




 かくして、決死の抵抗をした軍の人々であるが、──沖縄を“ケモノ”に占領され、負けた。

 そして、世界各地に建設されている“ケモノ”の大型の巣。──『コロニー』が作られるに至ってしまったのだ。


 勿論、この屈辱的な結果に、マスメディアは罵詈雑言の言葉を並べて、政府の対応を非難した。

 また、この作戦に参加した軍人らは、後悔と共に平和な現実へと帰還した。

 だが、──嗚呼、それでも見えて聞こえてくるのだ。

 長い間苦楽を共にした仲間が、人間にあるまじき姿で喰われていく姿を。その時聞いた、地獄でももっと救いはあっただろう絶望と苦痛に満ちた悲鳴を、ただ見て聞いているしかなかった。

 それは、今までのどの訓練よりも精神に来た、拷問紛いの後悔。実際、基地へと帰還した際に自らの頭を吹き飛ばした隊員もいた事から、それがどれくらいキツイ事か。


 ──多大な犠牲を払った末に手に入れたのは、死ぬ筈だった民間人等の身柄。

 そう、彼等は決して人命を守った事実によって、勝利した訳ではない。

 彼等は、“ケモノ”に勝てずに敗北の末帰還して、その上国土を奪われてしまったのだ。



 ──日本はこの日、明治より統治してきた『沖縄』を、正体知らぬ“ケモノ”等に奪われる、人としても国としても屈辱的な結末となったのだった。






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