その12.社会的運動について

2020年10月17日


プエラリアミリフィカのサプリメント(含有量300mg)を摂取し続けて半年くらいで、乳腺が張ってきて痛くなってきた。心配でジェンダークリニックで聞いたら、プエラリア自体に女性ホルモンと似た作用があることが報告されていているから、当然の結果だ、とのこと。つまり、女性ホルモンを摂取しているのと変わらない変化が体に現れていることになる。


胸が張る。6月頃、私は自分が「偽物」だとしか思えなかった。どっちでもない。いや、体は所詮男。でも心は間を揺れ動き、限りなく女性寄り。そう、心だけ。


私は何者なんだろう。


よく、「世間に訴えよう!」「声を上げないと世界は変わらないよ!」という声を聞くことがある。


私に言わせれば、世間に訴えても無駄だ。

そんなことに私の、うつ病の私の貴重な活動エネルギーは注ぎたくない。世間がどうなろうかなんて、私には全く関係ない。変えたいとも思わない。無駄だよ、そんなの。変わるときは変わるし、そうじゃないときはそうじゃない。


だから私は、自分のことだけしか考えない。「自分たちのことを知ってもらうべきだ!」みたいな運動は大嫌いだ。勝手にやっててほしい。巻き込まないでほしい、こっちに来ないでほしい、近づかないでほしい。

そっちで、私と関係ないところでやっててほしい。嫌な人もいるんだって言うことを知ってほしい。巻き込まれたくない人だっているんだよ。ここに、こうして。


私は。


私は……私という存在と向き合って、共生していくことで精一杯だ。


前向きになれるときもある。ファッションが楽しいし、プエラリアで胸が張ってくるのも嬉しい変化だと思える。

でも、迷いが生じてくる。私には家庭があり、父であり、夫である。どうしても、サプリメントとはいえ、女性ホルモンと同じ働きをする、と医者に言われているものを摂取し続けることは、これ以上は無理だろうと諦めかけている。

いや、もう諦めている。今、手元にある分を飲みきったら摂取を中断しようと思ってる。


憧れてた。プエラリアのサプリメントに、女性ホルモンとほぼ同様の働きがあると聞かされたとき、ものすごく嬉しかったのは事実。


でも……でも、やっぱりこれ以上は無理なんだよ。

私は、家庭がある以上は、「男」の枠から、これ以上はみ出ることはできないんだ。

これ以上摂取を続けると、もっと変わっていく。


悲しいけど、嫌だけど、続けたいけど、サプリメントはやめる。


どうして体と心って、こんなに曖昧なんだろう。

曖昧なくせに、スタンダードだけはきちんと存在してる。滑稽だと思う。


私は男、か……。

これからもずっと悩むんだろうか。きっとそうなんだろう。揺れることに悩むんだろうと思う。

その度に悩むんだと思う。


あれだけ望んだのに、棄てるしかないその選択肢。

……所詮、人生そんなもの、ってか。


だから社会運動なんか嫌い。国に、自治体に、世間に認めてほしいなんて思ってない。そんなの、差別意識と同じで、消えるわけがないんだから。人種差別さえ乗り越えられない人類が、ジェンダーの問題を乗り越えられるとでも?笑えるよ。私は世の中には期待しない。裏切られることにどうせなるんだから。

島国特有の閉鎖的な空気の中で、変わるんだとしたら一般的な認知度だけ。


「もし、あなたの家族の一人が、当該者だとしたら、どうしますか?」


近い人間関係であればあるほど、「典型的な(=無難な)家族像」であることを求められるんだよ、この世界は。少なくとも私の家族はそう。これが例外だとは思えない。


自分の心を、どうやって穏やかにできるか、自傷の衝動を逃がすか、そこにエネルギーを費やすんだ。そうしないと、私は私を維持できない。


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