第6話


――後日――



「カロリーナ、ハント王国の処分が決定したぞ」

「どうなりましたか?」

「ハント王国は消滅だ」

「あら、残念ですわね」

「もっとも消滅といっても、帝国領になるだけだ。ことが決まったからな」


あらまあ。

王領だけの統治ですか。


「民の混乱を防ぐためですね。それで、王族の方々の爵位はどうなさるのです?」

「一応、元王族だ。普通なら『公爵』の身分を与えるところではあるが、カロリーナに対する侮辱罪や我が帝国における政治犯罪者を王家から出した事を踏まえて『子爵』の地位になった。側近の家もそれぞれ二階級降格だ」

「妥当な線ですね」

「ああ、厳し過ぎるのは逆に反発を呼ぶからな」


それだけではないでしょう。

表情には一切出してはいませんが、ヨーゼフ殿下達には腹を据えかねていた御様子。元王家や有力貴族の子息たちのせいで国が吸収され、爵位の降格ともなれば、他の貴族の恨みつらみは全て彼らの方に向かいますからね。既に元王族の方々はヨーゼフ殿下達に怨嗟の声を上げていると聞き及んでおります。

お飾りとはいえ、帝国皇女の伴侶になれて、帝国との繋がりが強固になり属国の中でも発言権を得る事になるはずでしたからね。側近達も、帝国の貴族令嬢との婚約が決まり、各家に婿入りする手はずも整っての大どんでん返し。ハント王国としては寝耳に水だった事でしょう。

それでも命を取ることも無く、下位とはいえ貴族社会に残れるようにして差し上げたのですから感謝されこそ恨まれる事はないでしょう。

これが一昔前なら一族郎党打ち首ものです。当然、王国の無辜の民は奴隷の身分にまで落とされたことでしょう。今の帝国が平和路線を敷いていて本当に良かったですわね。


賠償金云々の話し合いの場では、元国王は血の涙を流していたと報告が入っています。

それほど悲しまれるのなら、何故、自分達の息子の教育を疎かにしたのでしょう?意味が分かりません。もしかすると、お父様が出した婚約者としての条件のせいでしょうか?


たしか、「眉目秀麗でいて、他は平均点か又は平均以下が望ましい」というものでした。


これだけなら、顔だけ良い男を寄こせ!と言っているようなもの。美形なら他には目をつぶる、と受け取られたのかもしれませんね。お父様からしたら、「民衆の受けがよさそうな美形の平凡な男がいい」という意味合いなのです。婿が優秀過ぎるとなにかと都合が悪いですからね。最悪、帝国の実権を乗っ取ろうなどと考えられては困ります。相手と、相手の国を滅ぼさなければなりませんからね。そんな面倒な事は御免被ります。

だからこそ、並みの男性が良かったのです。

初めて会った時のヨーゼフ殿下は天使のような美少年でした。愛嬌もあり、大変素直な性格でしたわ。まさか、論外の男性に育つなど思いもよらない事でした。

幼くして国元を離れた王子のために身の回りの侍女は王国人にしていた事が問題だったようです。王国人の侍女達はあろうことか「ヨーゼフ殿下が帝国の頂点に君臨するんですよ」と事ある毎に言い聞かせていたと後から知りました。

自分達の王子が皇帝になれない事を理解していて言い聞かせるなど、一体なにを考えているのか。侍女達の言い分では、自国の王子であるヨーゼフ殿下が帝国皇女に気後れしないための措置であった、と宣うのです。バカバカしくて話にならないとはこの事です。王子と側近だけでなく侍女までもが愚か者ばかりだとは。王国にまともな人材はいなかったのでしょうか?


婚姻前に発覚したのが幸いと思うしかありません。

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