第35話 『模擬戦』の開始

ひょんな事から知り合った『幻界』側の人物―――自分達が産まれる以前には幾度となくこの魔界せかいを侵略しようとしてきた『ラプラス』と言う者達、しかしこの魔界にも“元”はラプラスでしたが自分達とよく馴染んでいる存在がいました。 現在ではその存在すら知られることなく片田舎の古い教会で司祭をしているというクローディア、しかし彼女はその一身上の都合からラプラスとは袂を分かち、幻界ではなく魔界の為に協力する事の方が多かったのです。

実際、彼女の実力は魔界でも上位の実力者も認めている事であり、何より未だ侵攻の手を止めないラプラスへの“カウンター・パワー”としてラプラス達の弱点などの情報を提供している“もと”であり、そしてまた明確なる反逆行為―――ラプラス達に対しての大いなる抵抗となるべくの存在…若い芽の育成者としての役割を果たしていたのです。

その一番に目を付けられたのは、ここの処成長著しいリルフィ達のPTでした。(特にその中でも徹底的にしごかれていたのはラ・ゼッタとバルバリシアだったみたいで…)


「も、もう限界だぞよ~~」(ゼハーゼハー)

「わ、わらひももうたてらいれひゅう~」(ゼハーゼハー)

「あらあら、全く仕方のない人達ですね。」


「(…)何と言いますか―――クローディア殿は厳しい方ですな。」

「そうかな?私のお母様なんて『足腰立たなくなってからが本番よッ!』て言ってたしね~~。」

「リルフィの母上は厳しい事で有名だからなあーーーなあ、アルテイシア?」

「あれは“厳しい”の一言では収まり切らなかったぞ、私なんぞはその苦痛の余り身体中のあらゆる“孔”から体内の分泌物が吹き出す始末でな、あの時の母上は“鬼”だった―――“人の皮を被った鬼”とはああ言うのを言うのだろうな…」(遠ひ目)

「クローディア殿…より、厳しい方がおられたようですな……そう言われたなら拙者の父はまだまだ手心を加えておったと言うしか外はないな。」

「(ふうん―――)トキサダのお父様ってさ、どんな人だったの。」

「父か―――父は、とても厳しい人だったよ。 外見や身形みなりは奇抜な格好はしていても、身に着けた教養―――礼儀・作法などには殊の外うるさくあった、身分の上下如何に拘わらずそうした内面をきちんとせねば、例え貴族であろうが富豪であろうが心は平民よりも貧しくなる―――と、そう説いたものだ。」

「へ、え……」


何て言うか―――そのお父様って、私のお母様…シェラザードと同じ事を言う人だなぁ…そんな人に育てられた彼も、どこか私と同じ風を感じる―――


         * * * * * * * * * *


私は言うまでもなく魔界一の大国でもある『スゥイルヴァン』の王家出身―――その中でも8番目に産まれてきた、いわゆる“末っ子”。 とてもじゃないけど私なんかがお母様の跡目を継ぐだなんて思ってもいやしなかった、けれど私が170歳の誕生日を迎えた日に、この魔界を支配する『魔王様』と魔王様の側に仕える偉い方達の推挙で次期女王が私だと決まってしまったのだ。 これは何かの間違いなのでは―――?とそう思い、私の魔術の師でもある【宵闇の魔女】に真意をただしてみたものでしたが…

「あなた様がお疑いなるのも無理らしからぬ事、しかしこの取り決めはあなた様が生まれてすぐに決定されたのですよ。」

「そ―――そんな??で、でも私…知らないよそんな事。」

{知らなくて当然―――この機密はこの国一国のモノではなく、この魔界全体での話しなのじゃからな。}

{そう言う事だ。 それに…こう言っては何だが、そなた以前の子息はシェラザードのを継いでこなかった、しかしそなたは継いで生まれてきてくれたのだ。}

「ある…特性?」

「【閉塞せし世界に躍動する“光”グリマー】…第八王女よ、話しくらいは聞いた事があろう―――『アンゴルモア戦記』という物語を。」

「聞いた事―――って言うより、『緋鮮の記憶』とは違って実話がメインて言うあれでしょ?それが―――…(まさか?)」

「あの中の登場人物―――【光の射手】って、実は私なんだなあ~~~そぉーーーれに、あの物語に出てた【黒キ魔女】や【赫キ衣の剣士】、【“水”の神仙】なんてこの人達の若かりし頃の通り名―――なんだしねえ~~。」(ニヨニヨ)


そのお話しは、私もよく知っている―――と言うより、この魔界で過去に何があったかを知り得るべくの歴史を知る為に通らなくてはならない道だった。 その引用として『緋鮮の記憶』や『アンゴルモア戦記』の2つが教材として取り上げられたんだけれども、その物語の中の登場人物が私の近くにいただなんて思わなかった…それに私に剣を教えて下さった【黄金の騎士王】ギルガメシュのおじ様や、今では魔王様の補佐をしている【宵闇の魔女】ササラ様、そして【“水源”を支配する者】竜吉公主様など、照れ隠し気味に『そう言えばそんな事もあったよなぁ…』『今でもあの頃を思い出さない日はないです』『今の眷属の子達にも見せてやりたかったよね~~』『ほうほう、それは失態ヤラカシの数々を―――ですかな?』と口々に口にするのを見るにつけ…思えば私って割と恵まれていたんだなと、その時に知ったモノだった。

私が170歳を迎えるまでは私の国に住んでいる同じ年頃の子弟達と同じ暮らしをしているものだと思っていた、けれどその事を知ってからは私はこのままではダメだと思うようになっていた、どうしたらいいんだろう…そう悩んでいた時、私はあの2つのお話しの事を思い出し、再び目を徹そうと思った。 あの誕生を祝う席で昔を懐かしむように話されていたことを念頭に読み返した時、不思議とあのお話しの登場人物達は途端に生き生きとしてきた―――中でも【光の射手】や【神威】、【赫キ衣の剣士】や【黒キ魔女】の兼ね合い…おじ様やお母様が一人の冒険者となって世界を羽ばたく大活躍をするという、そんなお話し…そして総てのお話しを読み返した2年後、私は突如決心した―――


こうして私は一人の冒険者となり、私の古い友人や腹違いの姉、鳥人族ハルピュイアの従僕に竜人族ドラゴン・ニュートの跡取り―――そして私の“運命”と共にPTは結成された…


         * * * * * * * * * *


「……殿―――シルフィ殿―――。」

「(はッ!)あっ、ああ…なに?」

「どうされたのだ、先程から“ボーッ”として。」

「ああゴメンゴメン、ちょっと昔の事を思い出しちゃってさ。」

「“昔”の事ですか…思い出に馳せるのはいいことですが、どうやら教官殿からご提案があるみたいですぞ。」

「提案??」

私がこれまでの事に思いを馳せさせていた頃、どうやらバルバリシアやラ・ゼッタの訓練の仕上げと称してクローディアさんが私達だけで『模擬戦』をしようとしているみたいだった。


そしてその組み分けが―――…

「ク…クローディア~~これはちょっとないのではないかあ~?」

「はて?何か問題でも??」

「問題だろぉぉ~!どうして私がリルフィの相手側なんだあ?」

「ああそれはリルフィさんから事前…(ゲフンゲフン!)いえ、今回の目的は敢えて親しい者達の間柄ではよろしくないだろうと―――決して“ウザい”と言う理由ではありませんよ?」(しれっ)

「な…!ん、だ、と?」

「その辺にしておけ、アルテイシア。」

「よりによって私とリルフィ様も離れ離れになってしまったですう~~~」


「ふふん―――我が終生のライバルであるバルバリシアよ!これまでの修錬でラ・ゼッタとお主とどちらが成長したか、目にもの見せてくれようぞ、ぞよ~~~」

「クローディアさんてば内緒にしてほしかった事を話しちゃうんだもんなあ~~~この後面倒なのにぃ。」

「ははっ―――しかし、それにしても面白い趣向だ。 長らく拙者は動かぬ岩や大木を相手としてきた、たまに動くものと言えば魔獣の手合いだったが知性のある者と手合せ致すのはこれが初めて―――これまで磨いて来た修錬が飾りではない好い証明になってくれることだろう。」

「はいはい、意気込むのはいい事だけど空回りしちゃっては意味がないわ。 例え模擬戦でも勝利を目指すのは間違いではない―――そして勝利を手にする為には作戦が重要よ。」

今回の模擬戦は、仮初めに見立てられた“本陣”に立てられた旗を奪取する―――というモノ。 相手方にはアルテイシア・アグリアス・バルバリシア……そしてクローディアさんが、そしてこちら側にはリルーファ・トキサダ・ラ・ゼッタ…そして私(ベアトリクス)―――はっきり言ってこちらの戦力になるのはリルーファのみ、トキサダと言うのはまだ出会ってそう間もないから実力の程は判らない、ラ・ゼッタはここ数日で実力を着けてきた…とは言え、無闇矢鱈に前に突っ込む性格は直っていない、加えて私は魔導師なのに魔法の類は一切使えない、これって明らかにハンデ戦よね。

それに向うの戦力でもいまいち読み切れていないのは聖職者でもあるクローディア唯一人…アルテイシアやアグリアスは一緒にクエストを解いていく中で少しは動きを見ていたから判る部分はあったけれど、クローディアはその間バルバリシアとラ・ゼッタに係りっきり、2人の戦闘訓練をしているとはいえ彼女が直接戦ったと言うのは視ていない。


ただ―――彼女には、聖職者の様相からは想像出来ない、ある不釣合いな“称号”が付いているのを…そしてその意味を、私は知ることになるのです。




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