第16話 ラプラスとの戦闘
そんな中―――奇異な
「な、な?ななななななんだぞよ~~~!ラ・ゼッタは聞いておらんぞ、おいお前ッ!ラ・ゼッタは激しく抗議するのだぞよ!連チャンでこのような……」
「ラ・ゼッタちゃあん!そんな事言ってる場合じゃないですってえ~~!!」
「(こいつ……明らかに今まで闘ってきた相手と違う―――)クローディアさん、もしかしてこいつ……!」
この、魔界にはいない―――いないから、見た事すらもない。
その身体を覆う羽は陽光が当たる加減によって七色に輝き、見る者を魅了する―――が、しかし……その見た目に惑わされ、近寄ろうとする獲物を捕食する巨怪鳥『ピフレスト』。
そう―――それは紛れもなく、リルフィが危惧していた通りのラプラスでした。
だが―――しかし…
「全く……どう言うつもりなのでしょうか?不愉快ですね。 呼ばれもしていないのに“のこのこ”としゃしゃり出て、そんなにこの私の機嫌を損ねたいと言うのですか?損ねさせて何を得たいと言うのですか。 全くと言っていいほど、理に適っていませんよね……このクソヤロウ。」
「(えっ??今この人の口からなんて???)」
「(確か~~~『クソヤロウ』って……クローディアさんて普段の言動が穏やかで、大人しくて淑やかだと思っていたんですけれど……)」
「(コ……コワイぞよぉ~~~ちびっちゃったぞよぉ~~~ーーー)」
多分、恐らく……いや確実に『予想外』がそこにはありました。
予期せぬ来訪者ラプラスによって、“元”ラプラスだった闇の司祭の雰囲気が一変してしまいました。 しかも闇の司祭が以前から言っていたように、ラプラスに対しての憎悪と言うのも
「では、この私が対処すると致しましょう。 確かに実戦に於いて経験する事は多くありますが、実戦を“観る”事で得られる経験も少なくはないのです。 そしてこれを
今―――聞き違いでないとすればそう言った。
『この私が対処すると致しましょう』―――
彼女…クローディアは『司祭』、
それに、またここに一人―――
「ふ、ふっ……クローディア殿、私の事をお忘れではありませんか?」
「アルティシア様―――よろしいのですか?あなたが、直接闘われると言うその意味―――」
「ええ、存じておりますとも。 ですが、“一人よりは二人”……その方が早く片付けられませんかな?」
「(ク・ス)それもそうですね、それにその考え方……やはりあなたは、シェラザード様のお子であられる……」
今までの“訓練”では、ただ傍観を決め込んでいたリルフィの姉―――アルティシアが、この戦闘を期に事実上の参戦を申し出たのです。
その事に周囲は……
「(む、む、む~~~?リルフィ殿の姉なる者はラ・ゼッタ達が戦闘をしておる間でもただ見ていただけのような気がするのだがのう~?)」
「(で、でも―――リルフィ様のお姉さんだったら、私達の数倍も強いに違い有りません。)」
「(お姉ちゃん……私に再会する以前にどこかへ行っていたと言っていたけれど、そこでどんな強さを身に着けたと言うんだろう―――)」
やはり関心は、この程新しく参入したアルティシアの実力に在りました。 それにリルフィ達は彼女が闘う所を見たことがない、それはクローディアも同じでした。
「まだ少しばかり
「それに私は“彼の地”で修得した経験を実戦によって慣らせる為……運が悪かったと思うがいいラプラスよ!」
「(お母様が……そんな事をクローディアさんに?いや、でも―――…)」
「(弱っちい司祭風情がラ・ゼッタ達に手ほどきをするなど不可解極まりないと思うておったが、リルフィ殿の母上からの下知とあれば……のう?)」
「(でも不思議なのですよね?確かクローディアさんは私達を指導してくれる際、主な立ち回りは後方での回復・治癒・蘇生だったのに……今では寧ろ前線で活躍する戦士の方のではありませんか??)」
クローディアがリルフィの母であるシェラザードから受けていた指令はたった一つ。 自分の娘とその仲間達を死なないまでの経験を身に着けさせること。
それに、この指令はクローディア単独でもゆうにこなせられるものではあったのでしたが、ここに一人思ってもみない新戦力―――それが、“彼の地”と言う場所で自分に備わる特別な≪スキル≫に磨きをかけてきた……その集大成をこの戦闘で確実に身に着けようとしていたアルティシアだったのです。
「では―――まずはこう言った、明らかに実力差のある強敵に対しては、真正面で当たってはいけません。 程よく距離を保ち、遠隔・遠距離での攻撃などで牽制―――まずは体力から削る事から始めましょう。」
「それにクローディア殿は本来“後衛職”、私も本来ならば“前衛職”ではないのだが…この際贅沢は言っていられない状況のようだな…と言う事でクローディア殿。」
「はい、お任せを…〖いと尊き守護の神よ、堅牢なる“壁”を
“
それにしても奇妙なことが一つ……それは、ラプラスの魔からの攻撃がアルティシアに掠りもしない、いやそれどころか『当たった』はずの攻撃が―――逸れていった?
「(な、なんじゃあ~?今のアレ…)」
「(リルフィ様のお姉ちゃんさんが『避けた』んじゃなくて…あの巨怪鳥さんの爪の方から避けていった?)」
「(あれがお姉ちゃんの…実際この目で見るのは初めてになるけど―――確かに凄いな。)」
一体何が起こっているのか―――知らないものからすれば奇妙な出来事でした。 『当たる』はずのものが『当たらない』…そこにはどう言った
そんなラプラスの魔の隙を衝き、アルティシアの攻撃が炸裂しましたが―――…
「(うわあ……結構大きな声で
「(それにしても、これで仲間を呼び込まれでもしたら厄介だぞよ~?)」
天にも轟かんばかりの奇怪な
けれども、こちらは全く意に介さず―――か…
「ふむ、やはり一体だけではなかったようだな。 それに仲間を呼ぶ……か、その行動が“吉”と出るか“凶”と出るか―――まあ、結果は目に見えているだろうがな。」 「えっ?お姉ちゃんどう言う事?」
「うん?今言った通りだ。 この者共はこの一体だけではない、文字通り仲間がいる、それはつまりその仲間達でこの魔界を再び
「うふふふふ…全くお笑いですよね。 所詮は
「一体どれだけの数が呼び込めるのだろうなあ~?クローディア殿、取り敢えずの処の分配は公平を期すために半分ずつ……でよろしいか?」
「それがアルティシア様のご要望とあれば、聴かない訳にも行きませんね。 いいでしょう……ではそのように。」
ラプラスの襲撃は、ひと昔であれば大騒動まで発展した経緯があったと言うのに、なのにこの2人に関してはまるでどこ吹く風か―――しかも後の禍根とならない様に取り分の分配まで決める始末。
戦闘の熟達者ともなれば、戦闘の最中でも余裕な行動が取れるものかと感心したものでしたが……
「ああそれと、よろしいですか?皆さん、このように静かになったとは言え、油断は禁物です―――戦闘をする上での心構えの一つに、『どんな弱者の様に見えても絶対に油断はするな』―――と言うのがあります。 これは鉄則の一つとして捉えておいてください。 それに油断とは、概ねこうした“止め”を刺す時にも言えた事、私めも過去にそうした油断が元で亡くなられた方を多く見てきました、ですから今わの際に限りなく弱まっていたとしても、用心に用心を重ね……急所の一つである首の付け根を―――ッッ!」
あれよ―――あれよという間に、巨怪鳥ピフレストなるラプラスを片付けてしまった闇の司祭クローディア。 普段はひ弱なイメージしか先行しない司祭である彼女が、確かなる武を持ち合わせて対処できているのは、やはりそれなりの背景があったのです。
しかも“その背景”を、その場にいる誰よりも知っている人物が一人いた……
「なんだ、早々に仕留めてしまったのか。 もう少し活かせておけばまだまだ呼び込めたものをなあ。」
「アルティシア様、お言葉ではありますが、雑魚を何匹狩ろうと所詮は雑魚……に、過ぎませんよ?」
「はっはっは―――耳が痛いな。 だがクローディア殿、そなたの言うとおりだ……この魔界に派遣されてくるのは所詮は雑魚―――真に実力がある者は、彼の“幻界”にいると言われている。 愉しみなものだ、ヤツラがまた魔界に侵攻してきたのは、また新たなる『勇者』が誕生したのであろう、だがそんなことは無駄な事だと―――判らしめしてやるまでだ!!」
各地に散らばっていたピフレスト達は仲間の救援信号を受け、この一ヶ所に集まった―――…いや集められてしまった。
しかもその数―――20……
「ふむ、少々物足らない気がしないでもないが……」
「あらあら、私はこれで十分だと思いますよ?」
「しかしなあ……クローディア殿―――」
「まあアルティシア様にしてみれば、リルフィ様に恰好いいところを見せつけたくて……ですものねえ?」
「お姉ちゃあん……」
「クローディア殿ぉ!そ、それは言わない約束ぅぅ~~~」
「それに、こんな雑魚共に時間を取られては本末転倒と言うもの―――さっさと片付けてしまうと致しましょう。」
(今の)リルフィ達が束になってかかっても敵わない相手、それが1体だけならまだしも20倍も数を増やしてきてしまった。 けれどもリルフィの姉にしてみれば、この数でも少ないと言った様子、しかしその裏にある背景を闇の司祭にバラされてしまい、可愛がっている妹にも白い目で見られる始末。
どこか頼りになるようで頼りにならない―――けれども戦闘に於いての実力は群を抜いていたのです。
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