僕たちは午前二時の夜空を、砂浜から見上げている。たしかに星は美しい。銀色の下弦の月には忌野清志郎が座っている気がする。完璧な夜空の下で、優しい波の音がささやいている。


「これが見たかった」


満足しているようだ。


「お金、かかったよね」


財布を取り出す彼女を制した。


「現実的なことは、今必要じゃない」


しばらく二人で夜空を眺めた。


「キスしないの?」


「セックスにつながる行為は性欲から生まれてる。愛かどうか疑わしい」


「分かってるんだね。それ、愛だよ」


彼女は顔いっぱいに笑う。自分の言葉を思い返して恥ずかしくなり、自分自身への殺意を覚えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る