翌々日、紗弥に連絡を入れるとその日に呼び出された。食事でもどうかという話だった。先輩に金をたかりに行くと、いったいどこで食事をするんだというほどに多額の金を渡された。


「お前が愛を見つけたら、俺は平和を探しに行くよ」


誰かの平和を乱しているかもしれない人間が言う言葉ではない。呆れながら僕は紗弥のもとへ向かった。



 僕は飲み屋以外に店を知らないし、デートに使う店なんて見当もつかない。普段はひっかけた女を居酒屋に連れて行ったあと、自宅に招く。だからレストランやダイニングバーには縁がない。困っていると紗弥が現れ、さっさと好きな店へと連れていかれた。


「紗弥です。あ、本名だよ。何でも好きなもの頼んでいいから、いっぱい食べてね」


僕は自己紹介を済ませて、ジャックダニエルのソーダ割を頼んだ。あとは紗弥が注文している。



 女が食べる量だ。何とかなるだろう。僕はそう高を括るっていたが、料理はテーブルいっぱいに並べられた。


「こんなに食べれるの?」


「だって付き合ってくれたんだもん。もてなさないと。私の気持ちだよ」


「それは分かるけど、こんなことされたことないから」


「残してもいいよ。そういうものみたい」



 他の人にこうやってもてなされているのか。他の人。客か。古くさいもてなし方だ。つまり、結構な年齢の男たちか。悲しいもてなされ方だ。


「ありがとう。うれしいよ」


紗弥は顔いっぱいに笑った。



 少し食べたところで、僕はトイレに向かった。理由は一つ。吐くためだ。僕はものが食べられない。精神科の医者が言うには、酒のせいらしい。僕はできるだけ静かに吐き出し、席に戻った。紗弥の表情が違う。憐れんでいる。


「アル中なの?」


「なんで分かった?」


「お店にそういう娘が多いから」


黙るほかない。何が愛だ。あっというまに消えかかっているじゃないか。


「私、そばにいようか?」


「今日初めて話しただけなのに?」


「一目惚れしたから」


なぜこの娘が風俗に堕ちたか分かった気がした。風俗嬢は悪いイメージを持たれがちだが、優しすぎる娘が多いのが特徴だ。狡猾ならキャバクラで働く。紗弥は不器用で優しすぎるんだ。



 僕は紗弥に、なぜ今ここにいるか理由を話した。そして笑われた。


「愛を探してるの?私がいっぱいあげるよ」


愛というものを知っている女に出会ったようだ。僕にもそれが何か分かるかもしれない。

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