第5話 ゴブリンの実態
サラがビートアイランドに来るようになってから1週間が過ぎていた。今では夜になると1人で空を飛びビートアイランドに出勤している。
イケメンだと思っていたアッシュだが…、今ではかわいいペットのような存在になっていた。
アッシュは変身ができる精霊なのだそうだ。そして特技は料理人を見つけること。美味しい物を作れる人の匂いがわかるらしい。
確かにトリュフを見つけるブタをテレビで見たことがあるが、私はいったいどんな匂いがしたのだろう、とサラは思っていた。
サラは食材を探しに市場へ繰り出していた。
隣には四足歩行のアッシュが歩調を合わせ足早に寄り添う。まず取り掛かるのはゴブリンのための『雑魚キャラ超回復飯』である。命名は失礼のようであったが彼らにはちょうどいいとアッシュは言う。
とにかくゴブリンはたくさんやって来る。
どの異世界でも最初に偵察に行かされ、相手のレベルを計る道具のような存在だ。小ぶりのゴブリンからボスキャラ的なゴブリンもいるが一様に口が悪い。
早く回復させてそれぞれの世界に戻したいと、どの料理人も口をそろえて言う。
サラはゴブリン相手の店に配属された。
まだ見習いのように、言われた仕事をこなすだけだったが、来週からは自分の考案したメニューを出すことになっていた。
お店は海の家のような佇まいで、昼夜問わず自由にゴブリンが出入りできるようになっている。サラは朝食の担当だ。
広い小上りには食事が終わってからも、そこら中にゴブリンが居座っている。まるでスーパー銭湯の休憩室のようだとサラは思った。
異世界ズ(サラが異世界からの訪問者をまとめて呼ぶあだ名)達は病院へ行くという概念はなく、「医食同源」の考えが自然と身に着いているようだ。その点ではサラの考えと一致している。
サラがこの店で働くようになってからゴブリンのことで分かったことが3つあった。
まずはどのゴブリンも雑食のように何でも食べる。次に、食事を楽しむような概念はない。そして一番最悪なのはよく噛まない事だ。
これは食事を作る側にとっては致命的な問題である。日本人の食事は古来から
簡単に言えばおかずを口にし、その後にご飯を口へ運ぶ。そして噛むことによって、美味しさが口いっぱいに広がり、その料理の完成形を堪能できるのだ。
から揚げや豚カツを単品で食べるより、絶対にご飯も一緒に食べた方が美味しい。焼肉だって、おにぎりがあるのとないのとでは美味しさが半減するほどだ。それをゴブリン達にも教えたい。
「食べ方から教えないと」
サラは呟いた。
「あんな奴らにマナーを教えるなんて無理だよ」
アッシュはバカにしたように言った。
「そんなのやってみないと分からないじゃない。そもそも、ゴブリンはヨーロッパに伝わる妖精で昔は家の手伝いをまかされるほど信頼されてたんだから」
「信頼?あいつらはいつも悪戯をし、僕をバカにする!」
アッシュは相当ゴブリンに腹を立てている。
「分かったわよ、でも私はゴブリンを知らないの。先入観は持たずに接するつもりよ」
「はいはい、じゃあお手並み拝見しますか」
サラが食事のマナーを教えるたに用意するメニューは日本の手巻きずしである。具はビートアイランドで手に入るものを使うが、口に運ぶまでの手順を理解させ、シソやワサビなどの薬味の美味しさも伝えたい。
そして醤油をつけることで一気にまとまる手巻きずしワールドを堪能させるのだ。隣に座るゴブリン同士で手巻きずしを作り合うものいいかもしれない。食事の楽しさも教えらる!
手巻き寿司は無限の力を秘めているとサラは確信していた。
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