第26話

 何が知りたいのか、真冬へ僕は問う。


「真冬は何が聞きたい?」


 その問いに人差し指を顎に当て少し考えてから答える真冬。


「そうね。ナイの性別は?」


 その質問に黙ってしまう。

 やはり、会話を聞いたと言っていたから知りたいのはその辺りだろうとは思ったよ。


「……男だった」


 自分で答えて薄笑いを浮かべる。どこまでいっても、僕は嘘で自分を塗り固める。


「実験で去勢され、今ではどちらでもないが」

「そう、なのね……」


 答えに困る返しで悪いな。

 僕も気になることを訊く。


「真冬は、昨日の僕と木藤の会話をどこから聞いていたんだ?」

「えっと……『第二世代も幸せになる権利くらいあはるはず』ってところだったと思うわ」

「そうか……」


 真冬の返答に、心底ほっとしてしまう。それ以前のことは聞かれていないのか。よかった……。

 真冬も質問を続ける。


「そもそも案内役って何?」

「以前にも軽く話したと思うが、案内役はこの地下街を盛り上げるための駒の一つだ。その言葉通り、行きたがっている街へ案内をするだけの役目」


 付け加えて説明を続けた。


「他にもこの地下街で屍人に喰われて死んだ死体を回収を役目とする回収班。昨日、見た秋斗のように何かしらの理由で化け物と成り果てた被検体を抹殺する役目の処刑人。この地下街にも情報というのはあるもので、その情報を売る情報屋なんかもいるな」


 指を折って役目の話をしていく。


「駒って……。何のためにそんな役割が存在しているのかしら?」


 ここまで聞けば無論、どうしてと疑問に思うわな。


「神様だろうさ」

「は? 神様?」

「ああ。この地下街を運営しているのは政府だが、実際はその政府に指示を飛ばし動かしているのはこの世界を創り出した神。つまり、創造主だ」


 この話を聞いたのは、実験を受け案内役の役割を担ったばかりの頃。先輩の案内役の人が話していた。どこまでが真実で嘘なのかも分からないが。その先輩が言っていた。


「どこの誰なのか、神の叡智を得た人間なのか、それとも本当に神様なのか、何も分からない。そういう話を昔に聞いたことがあってな」

「そうなのね。ナイは、どうして被検体に?」


 真冬は短く答えると次の質問をぶつける。

 それに対して僕の答えは。


「……親に、この地下街に捨てられたんだよ。その結果、孤児と断定され被検体にされた」


 その実験は、まるでアニメや漫画に出てくるような設定に、能力を植えつけるために全身を弄られまくったが。


「あの……獣は何?」


 獣。クロとアカのことか。

 その質問にも答える。


「あの獣は神話に登場する獣だ。『黙示録の獣』という」

「黙示録の獣って、そんなものが今の時代に存在するの?」

「ああ、する。どうやって政府が手に入れたかは分からないが。その獣の一部を、僕の身体に宿させる実験を受けた結果、二頭が僕の体内にいる。クロとアカと名付けたのは僕だけど」


 確か、ヨハネの黙示録に記されていたはず。

 一匹の獣が海の中から上がって来る。その獣は十の角と七つの頭があり、それぞれ十本の王冠を被り頭には神を冒涜する様々な名が記されていた。この獣は、豹に似て足は熊の足のようで、口は獅子の口のようだった。

 クロとアカには足はないが。


「肉体に宿すクロとアカを戦わせる代わりに、僕は身体能力が上がる。ただし、クロとアカが受ける痛みも傷も全て僕が引き受けることになる」

「じゃあ、秋斗くんと戦っていた時に血を吐いたり傷ができていたのは……」

「ああ。クロとアカが受けた傷だ」

「そうだったのね……。あれだけの力を使うなら、それだけの代償が必要ということかしら」

「まあ、そうなるな。あまり、真冬が気に留めることはない」

「ええ……」


 真冬が聞きたかった質問は今のところそれだけだったようで、それ以上の質問はなかった。

 横目で真冬を見れば、僕から聞いた話をどう受け止めればいいのか悩んでいるように見えた。これは、ただ僕がそうだったらいいのにと思い込んでいるから、そう見えただけなのかもしれないが。

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