第22話

 さすがに噛みついていられなくなったクロとアカは口を離す。しかし、秋斗の猛攻撃は止まらない。巻きつく獣が離れようとしていても壁に叩きつける行為を止めない。


『グウッ』

『ガウッ』


 目でアイコンタクトを取って、叩きつける瞬間を狙い腕から離れ秋斗と距離を取る。

 離れた獣を今度は秋斗が捕まえようと、左腕を伸ばしそれをクロとアカは胴体を器用に伸縮させ避ける。


『オオオオオォォォォァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ』


 叫びを上げ空を切る秋斗の手、その周りをグルグルと回って避ける二頭の獣。隙きを見つければ、頭に生える角を使って太ももや肩へ突き刺し、掴まれる前に引き抜きまた離れるを繰り返す。


『ガルルルッ!』

『グルルルッ!』


 クロが攻撃に出れば、アカは秋斗の注意を逸らす行動に移る。肉体に巻きつく行為は止め、足元から襲いかかり脹脛ふくらはぎに噛みつき体勢を崩し、前のめりに倒れ込むとその背後から大きく口を開けたもう一頭が肉を噛み千切っていく。


『ハグッ、アグッ、ングッ』

『クゥン、ガァウ』

『ガウ?』

『ワォン』


 引き千切った肉を一心不乱に喰らうクロ。そのクロへ、自分にも頂戴と強請るアカ。


『クウン』

『ッ! ハグッ、ガウッ、アグッ』


 クロから貰った肉を今度はアカが一心不乱に喰らい出す。クロは、自分が手に入れた肉を半分こにし胴体を伸ばし空中で食事を再開。

 喰らい終わると、秋斗を見下ろし傷つき血を流し過ぎて動きが鈍くなったのを好機と考え攻撃を始める。

 アカが足元から襲いかかり、片足に巻きついて地面に倒れ込ませるとクロが左手首に牙を立てた。


『ハァグッ!』

『グゥゥウウウウッ!』


 アカもクロのあと追うように手首へ噛みつき唸り声を出す。片足に巻きつかれ上手く抵抗できない秋斗。クロの胴体も、腰回りから肩へ巻きつき身動きを封じる。


『イイイイイイッ、ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!』


 右同様に深く牙を食い込み、動けない秋斗はくぐもった叫びを上げる。が、獣の牙は何度も噛み肉を引き千切り、骨を砕き、手首から先が失くなった。

 手を失った秋斗。クロとアは仕留める好機と僕を見る。


『ガウ?』

『クウン?』


 秋斗から離れ、僕の下へと戻ってくるクロとアカ。

 声も出さず、ただ見守るしかできない僕。それもそのはず。僕の右手は脇腹を押さえ血を止めるのに必死だから……。


「ふっ、はぁっ、はぁっ、んんっ……」


 呼吸が荒く息が吸えないし吐き出せない……。

 二頭たちがビルの壁に叩きつけられた影響が思っていた以上に出てしまった……。脇腹をナイフで刺されたかのように痛みが走り傷を生み血が止まらないっ!

 痛みに耐えて声を出そうにも、喉に血がこびりついて発声できず、念じて命令を出すよりも意識を保つので精一杯……。


「ゲホッ、ゴホッ、ブフッ!」


 咳き込み、地面に血を吐き出す。

 はあっ、はあっ……。き、きついな……。

 クロとアカは、僕のそばに寄ると頬やボロボロになった服から露出する肌についた血を舐め取る。

 ははは……、ありがとう……。

 まだ、終わっていないんだ……。ここでぶっ倒れるわけにはいかない……!


「クロ……、アカ……」


 掠れた小さな呼び声にも反応を示す二頭に最後の命令を出す。


「あ、秋斗を……ら、楽にして、やれ……」


 その言葉に、血を舐め取っていた二頭が僕の下を離れ秋斗へ。倒れて動かない彼に躊躇いも容赦もなく、首へ両端から大きく口を開けて牙を立て噛みつく。その隙間から血が溢れ流れていく。

 せき止められていた水が勢いよく流れ出すように、その場に赤いどこまでも赤い血が噴き水溜まりを作った。

 回りも地面も赤く汚していく。一度だけ身体が跳ね、秋斗は完全に動かなくなる。


 ――もう、いいぞ……。戻って、こい……。


 それを見て、クロとアカに帰ってくるよう念じると、口を離し戻ってくる。二頭に両脇を支えられながら秋斗の下へ。


『……っ、ふっ、はっ……』


 す、すごいな。まだ、息があるのか……。あれだけ、クロとアカの攻撃を受けて肉を喰われて、牙を立てられたというのに……。

 だが、あまり時間も残っていない。

 だったら……。

 真冬と木藤がいる方へ振り返り、アカに頼み連れてこさせるのだった。

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