案内役の仕事
第1話
西暦二〇二☓年、現在。
――三十年前、首都の地下に広大な街が生まれた。
それは、神を信じるしかない光景。神々の悪戯で創られた地下街はまるで創作物のゲームそのもの。
大人も子供もそれに夢中になり、一般人が足を踏み込む前に政府による調査が開始された。地下が創られてから一週間という短い期間で動いた。
調査の結果、地下街には人間を喰らう化け物の存在が確認できた。
結晶は、お金に換えることができ仕事に就かない者、就けない者、老若男女が公開された情報に躍起になった。
そうすると、地下街への入り口に人が殺到し政府は至急に通行パスを発行。
それは、十五歳以上なら誰でも申請すれば手に入り、地下街へ行くことができる代物。ただし、命の保証はない。
地下街でいかなる理由で命を落としたとしても、国は一切の責任を負わないという契約書でもあるからだ。全て自己責任。
十五歳未満は親の同伴で地下街へ行くことが可能。そして、死んだ場合は死亡者リストといわれるネット上に公開されいつでも、誰でも閲覧ができる。
地下街の存在が全世界に知れ渡り、三十年で地下街には武器や武具、住居、飲食店、娯楽施設などが建てられ賑わう。法律で、地下街の物は全て地上に持ち込み禁止。結晶もお金に換金してからの持ち込みが許可される。
改めて、地下街のことを思い返す案内役のナイこと僕。
ナイ、というのは僕が自らつけた名前。案内役は僕の仕事のことだ。
その名の通り、依頼者が行きたい番街へ連れて行くこと。簡単で楽そうに見える仕事だが、常に死と隣り合わせ。
僕が今いる場所は中央区。地下街へ足を踏み入れて初めに辿り着く街。そこから東西南北に街が広がっている。そして、それぞれに番号が振り分けられる。
中央区には屍人が現れることはない。そのため、店や住居なんかが建ち並ぶ。
僕の家も、仕事場である案内所もここにある。
案内所に、依頼者自ら僕以外にもいる案内役を選び依頼を出す。
「お前、案内役か?」
そう声をかけてきたのは見た目、三十代の男性が二人。声をかけてきた男は、背中にアサルトライフルを背負い、もう一人は腰に剣を携えていた。
営業スマイルを作り、
「ええ。そうですよ。どこへ案内をしましょうか?」
「南四番街の片道案内を頼みたい。報酬は現金一括払い」
僕の報酬はほとんどが現金か、食料品が主だ。その方が助かる。お金はいくらあっても困るものではないし、食料品も賞味期限さえ確認していればありがたい報酬だ。
「分かりました。ご案内します」
今日の仕事が始まる。
南地区は、埋蔵金説がありそれを証明するかのように宝石や宝箱の中に札束が見つかった、という情報が多い。そのため、一攫千金を狙う者が南番街への案内を頼む。
彼ら二人もその類だろう。
片道案内も言葉通り、行きだけ案内し帰りは必要ないということ。まあ、依頼料も半分で済むからな。
さて、移動手段は基本的に自転車だ。車やバイクもあるが僕は運転できない。徒歩だと時間がかかる。そうなると、乗り物はこれしかないわけで。
それも了承済みの案内。
南四番街はおよそ一時間で辿り着く距離。
人工の太陽が道のりを照らし、自転車を走らせる中、依頼者の男が僕に話しかけてくる。
「お前さん。案内役をして何年だ?」
ただ自転車を走らせるだけでは退屈なのだろう。
「そうですね……。かれこれ五年といったところですかね」
「へえ、そうか。何故、屍人を狩らない? そっちの方が稼げるだろ? 案内役ってのはあんま、稼げないって聞いたけどよ」
「狩りは怖いじゃないですか。僕は戦えないですし、案内役で稼げるのなら、少しでも安全な方を選んだまでですよ」
「おいおい、男ならもっと夢見てもいいだろうに。まあ、そういう考えもあるわな」
…………。
夢、ね……。お前たちとは何もかも違う。地上がお前たちの世界であるように、僕の世界はこの地下街なんだよ……。夢なんて見れるわけもなく、案内役という仕事しか選べない。
そんなことを思う。口にはしないが。
そうして荒野を走らせること、一時間で目的の南四番街に到着。
番街にはそれぞれ鉄の門がそびえ立ち、番号が刻まれている。そこから何番街と呼ぶように。見た目は強固な門に見える扉。鍵などはない。
「案内、ご苦労さん。これ、報酬の現金だ」
「ありがとうございます」
報酬を受け取り、彼らが街の中へ入って行くのを見送り完了だ。
依頼者の姿が見えなくなってから移動する。
南地区は、屍人の出現率が低くその上、お宝なんて物の情報があるからここへ来たがる者が多い。僕の仕事も、南への案内は楽でいい。
そういうこともあって、南地区は初心者向けと言われていたりする。
自転車に乗って来た道を引き返す。
何もない荒野を走らせ、依頼者の言葉が頭を過る。
「もっと夢見てもいいだろう、か……」
この地下街から出ることができたら、僕は自由になれるのだろうか……。
僕は、地下街から出ることは不可能。そんなことをすれば、僕は確実に死ぬ。
死んでも、僕は地下街から出ることなんてできやしない。
人工の太陽と、空を見上げ一時間、自転車を走らせながらそんなことを思うのだった。
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