ラウルside
やっとだ。
苦節、四年。
散々だった日常が今日を持って終わろうとしている。
嬢ちゃんが学年トップに躍り出た!
これで俺の役目も終わりだ。
まさか…大学院までいくとは思わなかった。まあ、タダだがな。
この四年、実に健康的で規則正しい日々だった。女も博打もなしの……な。
だが、これでもうお終いだ!
待ちに待った卒業式!
俺は大学院を今日、卒業する。
卒業後は、この王都を去る予定だ。
ロジェス伯爵は、俺を宰相付き秘書にならないかと誘ってきたが、冗談じゃねぇ!
そんなことになったら今と大して変わらねぇ扱いだ!!!
大学の学部長や理事からも。
「王都に残らなくていいのか?」
「ロジェス伯爵も君の才能を高く評価している」
「考え直さないか」
散々止められた。
あの伯爵が発破かけたんじゃないかと疑っている。
だが!俺はそんなことでは負けん!!!
王国のために地方勤務を願い出たんだ。
万が一、王都勤務の辞令が来たならば、俺は外交官の道を目指す!
他国に逃げることも考えたが、ロジェス伯爵が恐ろし過ぎてできない。
ロジェス伯爵親子から逃れられるなら、ド田舎の勤務でも躊躇しないぞ!
意気込んでいたものの、俺の願いは呆気なく聴き入れられた。
おおおおお~~~~~~~!!!!
神は俺を見捨てていなかった!!!
今後のバラ色の未来に思いを馳せて、スキップしながら卒業式が始まる講堂に赴いた。
そして始まる卒業式。
来賓の中にここにいるはずのない人物達がいた。
次々と来賓が紹介される。
……どうしてここにいる!?
ロジェス伯爵と御令嬢。
嬢ちゃん、こっち見ながら手を振るんじゃない!!!
噂が再燃するだろう!!!
ざわざわざわ。
ヒソヒソヒソ。
あああああああ!
ほら見た事か!!!
もう噂になってるじゃねぇか!!!
それから、記憶が曖昧だ。
いつの間にか卒業式が終わっていた。
茫然自失になりながらも、ロジェス伯爵親子から応援と共に
王都を出た時には、心の底からホッとした。
最初の第一段階を突破できた。
これほどまでに安心感を抱いた事は今までになかったことだ!
やっとだ。
やっとロジェス伯爵親子から離れられたのだと実感できた。
奴らは遥か彼方にいる。
もう捕まる事は無い。
ここから漸く、俺の、俺だけの人生が始まるんだ!!!
三ヶ月間は見習い期間という形で、仕事を覚えたり、各部署の見学に行ったりと何かと忙しい毎日を送っていた。もっとも、ロジェス伯爵親子がいないというだけで精神的負担は無い。これは大事だ。
仕事にも慣れだした頃、先輩の役人が街の歓楽街に連れて行ってくれた。
王都から来た優秀だが生真面目な新人に先輩として人生のイロハを教えようとしてくれているようだ。
まあ、無理ねぇ。
ロジェス伯爵親子と長年一緒にいたせいか、俺は、見た目だけなら真面目で初心な好青年だ。とっくの昔に擦れちまってるなんて思わねぇだろうな。ここは先輩の顔を立てて何も知らない風に装わねぇとな。
入った店は、そこそこの綺麗処が集まっていた。
歓楽街でもお勧めの店だと言うだけあって、女主人の態度も品があって出来る女だった。娼婦の質も中々良い。
俺は、二十代前半の
勿論、俺が選んだわけじゃ無い。
女主人と先輩に
「貴男、見掛けない顔ね。もしかして、街に来たのは初めてかしら?」
「ああ、数ヶ月前に王都から来たばかりだ」
「王都から田舎に来たの?物好きね」
「そんなことはないさ!空気は上手いし、料理も上手いし、なによりも魅力的な女性も多い。君
「あら、お上手なこと。私の名前はライよ」
ライ、か。
本名じゃないな。
明らかに『源氏名』だ。
もっとも、こんな場所で本名を名乗って商売するアホはいねぇがな。
「俺はラウルだ」
「ラウル様、これからも御贔屓にお願いいたしますね」
「様は要らないよ」
「ふふっ。じゃあ、ラウル、最初はどこから食べる?」
「どこもかしこも甘そうだ」
ふふふっ。とにこやかに笑う美女は、こんな田舎には勿体無いくらいに良い女だ。
実に俺好みだ。
今日から、楽しい日々になりそうだ。
この時の俺は、まだ気が付いていなかった。
三年後に人事異動となり、再び王都に戻る未来を。
この田舎に来たこと自体がロジェス伯爵の作戦の一つであることも。
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