閑話~数百年後の偉人伝~

 エール・ルメ


 数々の独創的なお菓子を作ったパティシエの先駆者。

 彼が仕えていたロジェス伯爵家の令嬢のために考案された『バーバラの秘密の菓子』は実に有名である。エール自身がお仕えする伯爵家の令嬢のためだけにつくられた創作菓子は『バーバラの菓子』として幾つかのレシピが市井に伝わっている。その代表的ともいえる「メレンゲの菓子」は貴族階級のみならず、一般庶民にも大変人気だ。


 その理由としては何といっても入手しやすい材料である事と、コスト面があげられる。庶民にも馴染みの深い材料は懐に大変優しかったのである。メレンゲを焼いただけのシンプルな菓子からメレンゲを下地にしたケーキ。用途は幅広く、何よりも生クリームやフルーツを使用することによって見た目が大変華やかになるのも利点であった。口にした時の食感も軽やかで食べやすくクリームとフルーツが合わさった甘酸っぱさがメレンゲの下地にマッチしていて何とも言い難いクセになる味わいを醸し出していた。


 このクリームの上に色とりどりの季節のフルーツを乗せるのが「バーバラ流」と謳われ、今日まで愛され作られ続けてきた。

 現在では既に焼き上がったメレンゲが販売されているため、わざわざメレンゲから作る家庭は少なくなったが、市販品を使用して各家庭が子供達と一緒になって飾り付けをして楽しんでいる。母親が子供と一緒に作る菓子の代表の一つとされているのだ。見た目も華やかなこの菓子は今も祝い事のデザートとして人気である。


 誕生から数年後には、王国発祥の菓子として大陸を席巻せっけんする事に成った『バーバラの菓子』は階級を問わず広く愛された。出来上がった当時はそうなると予想した者は誰もいないとされるが、今なお、ロジェス伯爵家には門外不出の『バーバラ・レシピ』がある。それが世に出るのは何時になるのかは誰にも分からない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る