料理長side

 バーバラお嬢様が体重減量に挑戦される。


 お嬢様曰く「太り過ぎているから」らしい。

 そうか?

 マシュマロのように可愛らしいとしか思えないが?

 どうも腑に落ちない。食べることが大好きなお嬢様だ。特に甘いスィーツが大好物で、食後のデザートは欠かさなかった。


 「甘いものは別腹ですわ~~~♡」


 満面の笑顔でケーキを頬張るお嬢様はまるで天使のように愛らしい。


 「美味しいものを食べると幸せを感じますわ」


 「このプリンはほっぺたが落ちそうなほど美味しいです」


 「料理長の料理は我が国一です」


 味わって食べる姿はハムスターのようの可愛い。

 そういった可愛いエピソードが多いお嬢様に一体何があったんだ!?

 ワザワザ減量するなんて……他の使用人たちも首を傾げていた。「お嬢様に何かあったのではないか?」と。その理由は直ぐに分かった。

 お嬢様は最近婚約をなさったのだ。

 相手はスコット公爵家の若様だ。

 若様本人は知らないが親であるスコット公爵は穏和で素晴らしい人物だと評判の方だ。その方の御子息なら間違いない。きっとお嬢様に相応しい若様だろう、と使用人一同で喜んでいた。だが旦那様と奥様の御様子からしてでない事は直ぐに分かった。失礼を承知で聞いたメイド長の話では、初の顔合わせの場でお嬢様を罵倒したと言うではないか!豚と罵っただと!?ふざけるな!お嬢様の愛くるしさを理解できないクズが!

 そんな最低なクズの坊ちゃんのために減量を決意なさったお嬢様が不憫だ。

 

 健気なお嬢様は痩せるために食事の量を減らした。


 「塩分の取り過ぎはいけないと聞きますわ」

 

 眉を下げて咀嚼するお嬢様に何度、涙したことか。

 味のしないスープ……お嬢様に内緒でブイヨンを入れた。本当はコンソメスープにしたかった。だが流石にそれはバレてしまうため諦めるしかなかった。

 

 

 「お嬢様、野菜を取らなければ栄養が悪くなります」


 メイド長の一言のお陰で途中から野菜スープになったから良かったものの、減量のために過酷なダイエットはプロのダンサーのようだった。朝はゆで卵だけの時もしばしばあり、そんな時は塩で味付けしたものをお出ししておいた。


 このような異常なダイエット法は、瞬く間にお嬢様を痩せさせた。

 痩せてもお嬢様の愛らしさは変わらない。


 「何時も美味しい食事をありがとう」


 ニコニコ笑いながらお礼を言ってくれる。

 うちのお嬢様ほど優しくて可愛らしい令嬢はいない。

 他の貴族に仕えている料理仲間の話では主人の娘は大体が気位が高くて使用人と話すこともないとか。酷い処では使用人を奴隷扱いする者もいるらしい。

 やっぱりバーバラお嬢様は天使だ。


 天使のお嬢様はダイエットに成功した後もリバウンドしないように徹底した運動量をこなして体形維持に取り組んでいた。相変わらず甘い物に目がないお嬢様のためにカロリーの少ない菓子開発を厨房のメンバーで研究し続けた。

 試行錯誤の結果出来上がったのがメレンゲをベースとした菓子だ。

 焼いたメレンゲに生クリームを詰め、色とりどりのフルーツで飾り付けたもの。分かれば簡単に作れる菓子だが、ベースとなるメレンゲに少量のワインビネガーを加えるのが最大の特徴だ。隠し味といってもいい。ワインビネガーを使用することによって食べた時にほんのりと酸味と香味が感じられる。それがなんとも癖になる味なのだ。子供だけでなく大人にも食べやすい菓子だ。太る原因といってもいい小麦粉やバターを一切使用していためケーキ等に比べて驚くほど低カロリーでもある。

 まさに最高の菓子が出来上がった。

 

 バーバラお嬢様を始め、旦那様と奥様にも大好評だ。

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