父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子

前編 


父が再婚したのは私が十一歳の時。

母が亡くなって三年目の春の事でした。


「こちらが新しいお母様になる男爵夫人と義妹のローズマリーだよ」


相手の女性は男爵夫人でした。

それも十歳の娘つきの。


「二人とも身分とか煩い事は言わないから大丈夫だよ」


義母と義妹は男爵夫人と男爵令嬢のままです。

諸事情により義母は男爵夫人を名乗っておりますが、元々、男爵家そのものが義母の実家なのです。義母は自ら女男爵になることなく、婿を迎えて、夫に家督を譲ったそうです。夫亡き後は近しい親戚がいないため、男爵家はローズマリーが受け継ぐことになるのだとか。


お互い再婚同士であったため、婚約期間もなく結婚式も挙げることもなく、親族と友人を招いた簡単なパーティーだけをしたのです。

父と私が平民だから、ということもあったのかもしれませんね。

貴族との繋がりがないとはいいませんが、あちら側の住人ではありませんから。仕事以外に関わることはないんですよね。

義妹になるローズマリーは、金髪巻き毛にエメラルドグリーンの目をした、お人形にように可憐な美少女でした。

そのせいか、ワガママが過ぎるというか、私の物を欲しがる癖があるというか、とにかく癖のある子だったのです。


「お義姉様、このネックレスちょうだい!」


「お義姉様、このドレスは私の方が似合うわ!これちょうだい!」


「お義姉様、このイヤリング可愛いわ!ちょうだい!」


「お義姉様、この靴最新のデザインじゃない!ちょうだい!あら?なにこれ?入らない!私が太っているとでもいうの!?なによこんなもの!!!」


万事この調子です。

使用人たちの間では『ちょうだい令嬢』とあだ名まで付けられています。本人は知らないでしょうけど。

私も母の形見の物や日常に使用する物以外ならあげるようにしています。何故かって?そうしないと、義母が煩いのです。


「姉なんだから妹を可愛がって!」


「義理というだけで私たち母娘を迫害しようとしているのね!使用人も私たちよりも貴女を優先するし…酷いわ!」


「お姉さんに甘えているのよ!察して頂戴!」


「貴方、彼女が私たちを蔑ろにするの……ローズマリーは姉妹として仲良くなろうとしているのに……」


「なに!?それはいかん!ローズマリーにプレゼントしてあげなさい!」


父は義母に首ったけで、話になりません。


「勿論です、お父様。私の使など珍しい貴族もいたものだと首を傾げておりましたが、よく考えれば男爵家など庶民に毛が生えた程度のもの。家によっては庶民にも劣る暮らしぶりをしている方もおりますし、お義母様もローズマリーもそのうちの一つだったのですね。配慮が足らずに申し訳ありません」


「な!?なんですって!!!」


正論を言うと何故か義母は発狂して話になりません。

なにかおかしな事を言ったでしょうか?


もっとも、新しい義母や義妹との暮らしは一ヶ月だけの我慢。

なので大した被害は受けませんでした。

何故、一ヶ月の我慢かというと王立学園に入学する事が決まっていたからです。


王立学園には多くの貴族の子共が在籍していますが、一般の子供も同じくらいに多いのです。

一昔前なら、貴族の子供しか入学は許されなかったのですが、時の国王が「学問に貴賎なし」と仰って、教育課程を見直されたのが始まりと聞いています。


この学園が素晴らしいのは、国が優秀な子供に対して『特待生制度』を設けているところです。全ての学費免除に加え、生活費用すら賄ってくれるという破格のもの。

勿論、成績が落ちれば『特待生』ではなくなります。

それでも『特待生』として卒業すれば「人生の勝ち組間違いなし」とまで言われているのです。一般庶民からしたら立身出世を目指す登竜門のようなものですね。

また、全生徒寮生活というのも大きいのかもしれません。

貴族と接する事ができるのですから。

学園のクラスが同じになったとしても話す機会など早々恵まれませんが、同じ寮内となれば話は違ってきます。同じ建物内での共同生活ですからね。何らかの形で接触します。

これは、貴族との繋がりが取れる機会です。商人の家庭出身者にとっては大きなチャンスです。


そういう私も下心なかった、といえば嘘になるでしょうね。

まあ、それだけでは有りませんが。

今までとは違う世界。

その中に飛び込むことは怖くもあり楽しくもあるのです。


私が新しい家族と交流しないまま一年が過ぎ、義妹が入学してきました。

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