La Resurrección De Los Creyentes ~信仰の復活~
平中なごん
Ⅰ 憧憬
我、アグノティオキス・ロベルト・デ・ロジョーラは、当時、まだカテドラニア王国と呼ばれていたエルドラニア王国の一部、ビスコーニュ地方アスペディア村を治める騎士の息子として生まれた。13人兄弟の末っ子である。
生まれつき体格には恵まれ、ラテン系の褐色の肌にライオンの立髪のような金髪頭という
そこで、父の知り合いのドン・ファンファン・ベランメケス・デ・ケロールという
しかし、ポンパドーラで起こった隣国フランクルとの領有権を巡る戦にドン・ファンファンとともに従軍した際、当時、戦場を席巻し始めていたマスケット銃の銃弾を我は脚に受け、敢えなく戦線離脱を余儀なくされてしまったのである……。
「――まあ、戦に怪我は付き物だ。しばらくはここでゆっくりするがよい」
「はい。父上……」
重症を負った我は久々に実家へと帰り、アスペディアの城で療養生活を送ることとなった。
松葉杖を突いて立つ我に父は優しくそう声をかけてくれたが、この時の我は絶望に打ちひしがれていた。
重症とはいえ、幸い日常生活に支障をきたすまでには至らなかったものの、
城の自室でベッドに横になるだけの退屈な療養の日々、そんな傷心の癒しを我は騎士道物語の中に求めた。
脚の不自由な自分に代わって世界を駆け巡り、勇猛果敢に冒険を繰り広げる主人公の騎士達に、自らの願望を投影しようとしていたのだ。
「え!? ないのですか?」
ところが、本の在処を尋ねた我は父の言葉に唖然とする。
さらについてないことにも、我が家には騎士道物語の本がなかったのである……ドン・ファンファンの屋敷には幾冊かあったので、騎士の家なら当然あるものと思っていたのだが……。
いや、騎士といってもあまり裕福ではなかったせいか? 我が家は本というもの自体をほとんど所有していなかったのだ。
唯一あったものといえば、プロフェシア教の根本教典である『
仕方なく我は、『聖典』に書かれた〝
「……へぇ〜…なんか、カッコイイじゃん」
ベッドの上で分厚い革表紙の本を夢中で捲りながら、若き日の我は思わず素直な感想を呟いてしまう。
当初は信仰に対してさほど興味もなく、『聖典』や『聖釈』をしっかり読むのもこれが初めてであったのだが、これが読んでみると意外や
開祖イェホシアはもちろん、
中でも特に心惹かれたのが、〝ワッチジのジョヴァンネスコ〟という聖人だ。
400年ほど前、ウェトルスリア地方ワッチジの裕福な毛織物商の家に生まれ、若き日には放蕩を極め、初めは騎士になることを目指していたのだが、ある戦いで捕虜生活を余儀なくされたのを機に世俗での成功の虚しさを悟り、騎士になる夢も財産もすべて捨てて清貧な僧侶となると、後に厳格なジョヴァンネスコ修道会を開く大聖人である。
また、地元にあるサン・ダミアン聖堂に参籠中、「神の家を再建せよ」とのお告げを受け、日々、街角に立っての説法に励むばかりか、異教徒のアスラーマ帝国に支配された聖地ヒエロシャロームにまで足を運び、異教徒への宣教活動にも率先して勤しんだという……。
この、プロフェシア教会において最重要ともいえる大聖人に、畏れ多いことではあるが我は自分の姿を重ねた。
ワッチジのジョバンネスコも我と同様、当初は騎士の道を志し、それを戦で負った失意の中に諦めた者なのだ……。
そんな、まことに勝手ながらもジョバンネスコに親近感を覚えた我が、かの大聖人に憧れを抱き、その生き様を真似ようと考えたのもしごく当然の流れである。
我もこれからは騎士道ではなく信仰の道に生き、各地に赴いては異教徒を改宗させ、ゆくゆくは自らの理想とする独自の修道会を開くのだ!
そこで、脚の傷が癒えると我は早々、カテドラニアのムン・サラット山籠にあるベネッセクト会修道院を訪れ、聖堂に祀られる有名な聖母メイアー像に武具を捧げると、世俗の人生に永遠の別れを告げた。
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