第112話 告発動画

「おにぃ!大変なの!これ!これ見て!」

 明璃が朝から騒いでいる。一体、何がそんなに大変だというのか…?

 明璃が慌てながら差し出してきたのはDフォンの動画配信をしている画面だった。


 そこに映っていたのは、神崎会長と同じくらいだろうか?特に華があるわけでもない、普通の老人が白衣を着て何かを熱心に語っている。

 動画のタイトルは…

「告発!ダンジョン協会の嘘を暴く!」

 と、随分と過激な内容のようだ。

 …

「この動画を見ている諸君らは、先日のダンジョン消滅の報道をご存知だろうか!?」

 どうやら、この前の生中継に関して、何か言いたいことがあるらしい。

「1人の若者がダンジョンに入り、しばらくすると、ダンジョンは綺麗さっぱり。跡形もなく、消滅した。では、彼はダンジョンの中で何をしていたのか?」

 迷宮核を破壊するって伝えてたはずだけど…

「ダンジョン協会の発表では、迷宮核を破壊すれば、ダンジョンは消滅するのだと言う。だが、儂はここに大きな嘘が隠されていることに気づいてしまったのじゃ!」

 嘘?


「まずは、この動画を見ていただきたい」

 白衣の爺さんが、配信の中で別の動画を紹介する。


「紹介するまでもないと思うが、ダンジョンが世界に出現してから、ずっとランキングのトップを走り続けていた、チーム皇帝エンペラーの3人じゃ」

 爺さんの紹介で、3人の外国人の男が画面に現れた。

「左より、ナイジェル・ドレイク。隣が、ジーン・ファルコン、そして、最後がベンジャミン・K・クルーマーじゃな」


 ナイジェル・ドレイクと呼ばれた男は赤髪で片目に大きな傷がある。どことなく、好戦的な雰囲気を持った野性味溢れる感じの男だった。


 ジーン・ファルコンは青髪の長髪で、切れ長の目が冷酷な印象を与えている。立ち居振る舞いから、この男がこのチームの頭脳なのだろう。


 最後に呼ばれた、ベンジャミン・K・クルーマーという人物は、陽気で明るい。そんな印象を人に与えているが、その服の下の筋肉が只者ではないことを物語っている。このチームの防御役は彼なのかもしれない。


「では、ドレイク君。やってみてくれ」

「おう。あれを叩き壊せばいいんだな?」

 老人がドレイクという名の外国人に破壊を命じたのは…

「なんであれが!?」

 俺は動画を見ながら、思わず声を上げてしまった。

 彼らが破壊しようとしているのは、俺が会長に預けてあったはずの迷宮核だったからだ。

「HEY!ドレイク!ありったけの強化バフを盛ってやったぞ。これで壊せないなんて言うなよ〜」

「弱点看破…その石の頂点から、5度ズレたところに結晶の綻びが見えるぞ」

「OK!いくぜっ!」

 筋肉の鎧を膨張させ、身体からオーラが立ち上る。さすがは元世界ランクトップってところか?魔力と闘気の扱いはできるようだ。

「はぁっ!!真・狂輝閃斧!!」

 上段に構えた、戦斧を勢いよく振り下ろす。寸分の狂いなく、頂点から5度ズレた箇所へ戦斧が叩き込まれた。

 ガキィン!

 金属同士がぶつかるような甲高い音が響いたが、迷宮核には傷ひとつついていなかった。

「嘘だろ!?俺の戦斧が刃毀れしてやがる…」


「これで、諸君らにもわかっていただけたじゃろうか?彼らのレベルは今や80を超えておる。それでもこの結果になるということは…そう!迷宮核は破壊不能なのじゃ!」

 いや、神の鋼オリハルコン製の武器じゃないと壊せないってだけなんだけどな…

「じゃが、ダンジョン協会は迷宮核をすればダンジョンが消滅すると言う。なぜそんな嘘をつく必要があるのか!?」

 なんだろう…雲行きが怪しくなってきた気がする…


「それはこの迷宮核に秘められた性能ポテンシャルが特殊だからに他ならないのじゃ!」

 迷宮核の性能ポテンシャルとは?

「まず、この迷宮核の含有魔力量は、通常の同程度の大きさの魔石に比べて、数十倍以上もあるのじゃ!」

 込められているのが女神のかけらなんだから、その程度は当然だろう。

「そして、通常は魔石から魔力を取り出し、エネルギーとして使用した場合、含有魔力を失った魔石は砕けてしまうのじゃが、この迷宮核は含有魔力が0になると、周囲の魔力を吸収し、回復する。これは人類の夢である、永久機関なのじゃ!迷宮核があれば、全世界のエネルギー問題は全て解決すると言っても過言ではない!」

 この爺さんは、女神の魔力をエネルギーとしてしか見ていない…奴の力がエネルギーとして世界中に蔓延した場合、何が起こるのか…正直、悪い予感しかしないぞ…


「更に、迷宮核の持つ魔力を取り出し、薬液ポーションにした場合、驚くべき効果が得られるのじゃ!」

 おいおいおい!女神の魔力を元にした薬液ポーションだと?絶対に碌なもんじゃないぞ…それは…

「それがこれじゃ!」

 爺さんが3本の薬液ポーションを机の上に並べた。

「そして、先程紹介した、チーム皇帝エンペラーに再び登場していただこう」

 爺さんの合図で、ドレイク、ファルコン、ベンジャミンの3人が部屋へ入ってくる。

「博士、それが例の物かい?」

「そうじゃ。効果は実証済みじゃよ」

「へぇ〜。それはおもしれぇ」


「さて、この薬液ポーションの効果を見て貰う前に、まずは、よろしいかの?」

「ああ。OKだ」

「「「ステータスオープン」」」

 ナイジェル・ドレイク レベル82

 ジーン・ファルコン レベル81

 ベンジャミン・K・クルーマー レベル80

 チーム皇帝エンペラーの面々が自身のレベルを公開する。

 これに一体何の意味が…?


「そして、彼らにはこの薬液ポーションを飲んでいただこう」

 机の上の薬液ポーションを各々が手に取り、ゴクリと飲み干した。

「さて、ご覧あれ。これが、迷宮核から抽出した薬液ポーションの効果じゃ」


「「「ステータスオープン」」」

 ナイジェル・ドレイク レベル92

 ジーン・ファルコン レベル91

 ベンジャミン・K・クルーマー レベル90


「は?おいおい…マジかよ…」

 示された結果に驚きを隠せない。


 さらに爺さんが話を続ける。

「この薬液ポーションを儂はレベルアップポーションと名付けた」

 そのまんまだな…


「もう、お気づきの方もいるのではないか?」

 なんだ?嫌な予感がする…


「無名の新人が、突然世界ランキングのトップに躍り出た。そして、その冒険者はダンジョン協会の会長の直属となっており、迷宮核を手にしていた」

 そういう筋書きかよ…

「ダンジョン協会は迷宮核から得られる恩恵を独占しようとしている!そして、レベルアップポーションを肝入の冒険者へと与え、不正にランキングを操作しておるのじゃ!」


 やられた…

 すでにこの動画は数千万回再生され、色々なサイトに拡散されている。

 女神の魔力はエネルギーとして、世界に蔓延し、レベルアップポーションを欲しがる冒険者は後を絶たないだろう…

 もう、この流れは止められない…


 俺は会長へと連絡し、今後の対応を相談することにする。

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