ワンシーンなモブキャラの日々は食事が彩る

兎緑夕季

1話 乙女ゲーム出没系モブ貴族令嬢の一口カツサンド

 貴族令嬢風な美しいドレスを身に舞った少女はハリボテ感満載の宇宙船の中にいた。

彼女は小窓から無数の星々を眺めるのが好きだ。そして、その観察のお供には美味しい食べ物。


「この瞬間がたまらないのよね」


 少女はにこやかに微笑んだ。その麗しい瞳を捉えるのは真っ白でフワフワな食パン。

挟まれているの肉厚高めなカツ。

綺麗に揚げられた衣を眺めるだけで口の中が潤う。

お肉の断面はほんのり赤みミディアムレア。

積み上げかれた一口サイズのサンドをそっと両手で握る。

程よ良い食パンの弾力を感じつつ、少女は待ってましたとばかりに大きな口を開けてかぶりついた。

サクサクとした感触が整われた白い歯、健康的な舌を通り抜けてお腹を満たしていく。

「う〜ん。最高!」

濃いめのソースとキャベツのシャキシャキ感が耳を通り抜ける。

少女はモグモグと口を動かす。


トントン


宇宙船の入り口が空き、短パン姿の男が現れた。

「すみません。貴族令嬢Cさん。出番よろしくお願いします」

「ええ〜さっきED迎えたばかりじゃない!」

申し訳なさそうに頭を掻く冴えないこの男は物語を構成するゲーム内に適切なキャラを配置するスタッフ。

「それが悪役令嬢が王子に破談を突きつけられるシーンを目撃する取り巻き貴族令嬢の数が足りなくて…」

「もうしょうがないな…」

まだカツサンド一個しか食べてないのに。


 私はゲームに登場するモブ中のモブキャラ。主な登場シーンは乙女ゲームのED。ヒロインとヒーローの結婚式を祝福する取り巻き貴族。

たまに学院の名もなき女子生徒や重要イベントのエキストラ扱いキャラもやっている。

ゲームじゃ主役どころか存在自体認識されないけれど、出番待ちの間の食事が楽しみ。

だから名もなきキャラでも耐えられる。

故に、こうして唯一の癒しを邪魔されたら泣きたくなっちゃう。

貴族令嬢Cこと私は残されたカツサンドを恨めしそうに見つめた。


ダメダメ。プロのモブキャラとしてしっかり仕事は全うしなきゃ!

主役の令嬢達をしっかり盛り上げるの!


私はサッとメモ帳から紙を破り、サラサラとペンを動かす。


”乙女ゲーム出没系モブ貴族令嬢の一口カツサンド”、食べたら激おこだよ!


達筆な文字でそう書き記すと、ラップをかけたカツサンドの上から貼り付ける。


「よしこれで、完璧!」


カツサンドは後の楽しみに取っておくわ。


気合いを入れるため、頬をペシペシと叩き、立ち上がる。


「今行きます!」


 今日も私は恋愛系ゲームのモブキャラ業をがんばります!


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