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父と母を失ったこの日から




私はこの夫婦のもとで育てられた。



夫婦は私を本当の子として大切にしてくれたと思う。



だけど私はその愛情に応えてはいなかった。


父と母の敵をとる。私の頭の中はそれで一杯だった。



でも子供の自分には結局何もできず、


ただただ復讐を果たすという気持ちだけが先走りして



無力な自分に苛立ち、夫婦に迷惑をかけた。




だから私は農家の手伝いをしながら体を鍛えることにした。


いつか復讐を果たすために




だが愛想ない私に対して何ひとつ嫌な顔をせず接してくれた、おじさんとおばさんと


日々を過ごすうちに


だんだんと笑顔が増え、


いつしか


復讐を決行したら、 死ぬのか?


もうこの家に戻ってこれないのか?


そんなことを考えるようになってしまった。



復讐を果たす勇気もなければ


あきらめてこの家の子どもにもなりきれない。


そんな中途半端な自分が許せなかった。


だから15になった年の冬、私は家を飛び出した。




まず生きるために、職探しの旅をした。


そして王都にある鍛冶屋に弟子入りし、職人を目指した。


なぜ鍛冶職人を目指したのか。


この国では年に1度、剣の品評会が行われ、

国内の優秀な職人が招待される。


そこで優勝すれば、国王への謁見が許され、その優勝作品の剣を献上する名誉が与えられる。


だから


職人なって、品評会に参加して


国王に謁見して


殺す


そう決めた。










それから1年がたった。


まだ職人にはなれない。


それでもあきらめるつもりはなかった。


だけどある日、修行のさなか


ふと思った。



職人になって復讐を果たす。


それは


職人になって


実績を積んで


品評会に参加して


そこで優勝して


国王に謁見して


殺すということ。


それは長い、長い道のり。そのことに対して私は



ほっとしている?











その日の仕事終わり


町を探索した。


国王が何かしらの理由で町にいるのではないかと思って。


冷静になれば国王が王宮を離れ、町に来るなんてありえなかった。淡い期待だった。


だが、その日以降もあの安堵の気持ちが生まれればその都度町中を歩いた。



無意味なことは分かってたはずだ。


だけど




見つけたら殺す、そう考えることで


自分はまだ復讐をあきらめてない


復讐から逃げてない



そう思いたかったのかもしれない。

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