汽車に乗りあてもない旅に出かけた。それは生まれ過ごした国への――――――――

汽車に乗りあてもない旅に出かけた。それは生まれ過ごした国への――――――――

汽車に乗りあてもない旅に出かけた。


車窓から見える生まれ故郷がだんだん小さくなっていく。


さよなら 私の故郷。


私はこの国が好きだった。自然豊かな大地。その自然を大切にしてきた心穏やかな人々。


この国で生まれ過ごした日々はかけがえのない時間となった。


そしてちょうど一年前、私は恋に落ち、結婚した。


相手はひとつ年上の画家だった。彼の絵は私を笑顔にしてくれた。


こうして私は幸せな国で幸せになった。



幸せになったと思った。



だけど、それは間違いだった。



結婚相手の彼は画家ではなかった。国王のスパイだった。彼は魔力を察知する力を持っていた。


この世界ではかつての魔力がほぼ失われ、魔力を持つ者はごくわずかとなった。


だから魔力を持たない者は魔力を持つ者を恐れた。


彼は魔力を持つ私を捕まえ、魔力を恐れる国王に引き渡した。私はこの時、自分に魔力があることを初めて知った。



私は処刑と決まった。



処刑の前に市内で引き回された。


「この魔女め! さっさと死ね!」

「本当死んでくれてせいせいするわ!」


市民からの心ない罵声が止まなかった。


私は泣いた。死ぬことが怖いからというよりも、彼に裏切られたことに。


そして優しいと思ってた皆に裏切られたことにも。皆は私を見て助けてくれると信じてた。信じたかった。



せめて何も言わず、ただ見送ってほしかった。




だけど私はある長老に助けられた。長老はその場の人々を眠らせる力を持っていた。


「出ていきなさい、この国から。彼らの怒りは決して鎮まることはない。 この怒りは誰も止められない」


私を助けた長老はそう言った。


だけど私は出ていかないと答えた。


本当は心優しい人達。きっといつか私を受け入れてくれると信じて



すると長老は私の魔力について教えてくれた。








故郷はもう見えない。 汽車の揺れが体の揺れとなる。



私は旅に出る。それはこの国への――――――――



私の魔力は二つあった。


ひとつは自然保護の力、そしてもうひとつは人々の心の穏やかさを保たせる力


私はただ存在するだけでその周りにその力が発揮されるという。


だから私は旅に出ることにした。彼らの優しさは彼らのものではなかった。それが理由だった。


自然もそうだ。私がいなければとうの昔に朽ち果てていたと長老は言った。


自然の豊かさも彼らのおかげではなかった。




旅に出かけ一年がたった。噂によるとその国は土地が腐り果て、人心が乱れ、まもなく滅んだそうだ。



私は旅に出た。それは愛し、裏切られた国への――――――――報復となった。

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