365〜恋をして髪型を毎日変える女の子の話〜
@batuziru-3
第1話 ロングストレート
「う…頭痛っ。」
「ちひろー!早く起きなさい、遅刻したらどーするのー!」
あ〜…今日も学校か、最近つまんないんだよなぁ…ま、シャンプー変えたしなぁ、誰か気づかないかなぁー行くしか無いし…
「行ってきまーす!」
私は私立中に通う中学二年生、羽柴ちひろ。
今日は、ってかなんだか最近だるいです。
「おはよー」
「あ!ちひろおはよーっ!」
教室…ついちゃった。この空気がなんだか嫌だ。今日も1日が始まるんだなぁ…
う、気分悪…なんかいつにもましてだるい。
人の波、ではないけど男子や女子が座ってる椅子、あと机とかを通り過ぎていく。
「奏太、まじで?笑笑」
「まじだよっ!こっちはちょー真剣だったんだけどっ‼︎」
あ、佐藤くんと、高橋くんだ。今日も仲良いなぁ〜
「ボソッ…あれ、シャンプー変えた?」
「へ?」
今、高橋くんが話しかけてきたよね?
なんでわかったの?
「いや、えっと、違う‼︎なんでもないからっ!」
高橋くんは顔を真っ赤にして否定した。
「え?奏太、まさか羽柴さんのこと意識してたの⁈」
「かっ、からかうな佐藤!」
「うん、変えたよー。気づくなんてすごいねー!びっくり笑」
あ、また演じてしまった。本当はこんなキャラじゃないのに、疲れるなぁ。
「じゃあねー」
「そ、奏太すごいな、」
「え?何が?」
「だってさ、あの高嶺の花と言われている羽柴さんと喋ったんだよ…?」
「タカネノハナ?」
私は、「高嶺の花」と言われている。
なぜならば、首席で満点合格、学級委員長、帰国子女で、スポーツが出来ちゃう(第三者による勝手な設定)おまけにクールビューティー(これもまた他人が言ってるだけ)とまさに完璧?と思われているからだ。
でも…本当のところは、
選択問題は感で解いたとこ多いし、記述問題においては直前に復習していたところが
ぐ・う・ぜ・ん
出題されただけだ。
しかも入試以来一位を取ったことなんてない。
そして、この学校「リーダーを育てる」とかなんとか言っているから小学校で代表をしてきた子がいっぱい入ってくると聞いていた。
そんなノリでなんとなく手をあげたら…私しかいなかった。
帰国子女というのも、私の学校はそう珍しくない筈だ。クラスに必ず三、四人はいる。
私なんて向こうにいた歴を競い合う側
じゃないのだ。
更に更に私はスポーツができない。正直普通で、運動音痴まではいかないができるわけでは決してない。なのに勝手に噂に尾びれがついて…
最後の最後は私は「クールビューティ」なんかじゃない!
可愛いものとかすっごい好きだし…クールビューティって喋り方とかもキリッとしてるんだろけど、私は話し下手でみんなの前だと言いたいことを簡潔に言えない。緊張してしまう。本当は弱虫だし、泣いちゃう時だってある。
みんなみたいに面白ければ笑うし。
「クールビューティ」と言われてしまうのは私の方にも責任があるかもしれないが…確かクラスの子に話しかけられた時そっけない返事をしてしまった。
….ん?それだけじゃない⁇あれ?なんでクールビューティなんて言われてんだろう?
「恋でもすれば変わるのかな…?」
「え?こっ、恋⁈ちひろ、どういうこと?」
私の小言に親友の唯が突っ込んできた。そうだ私、友達と呼べる友達この子しかいなかったんだ…
つくつぐ自分が嫌になる。1日の長時間を過ごすこの場所で本来の自分を出せないのは窮屈でありなんだか寂しい。
でも、1人でも自分のことを理解してくれる子がいることに感謝すべきなのかもしれない。
「なんでもありませんっ!」
「ちひろもさぁ、女子中学生なんだから早く恋でもしたら〜?」
「まぁ、ね…」
「好きな人できたら一番に教えてよねー!」
「そんな人できる気がしない…」
「…ゆっくりでいいよ。ゆっくりで」
「さっきと言ってること違くない?」
私の親友、高山唯はいつもはただただ元気で明るく振舞っているのに時々意味深なことを言う。過去に何かがあったのかもしれない…
そういとこも好きだ。もっと知りたいと思うし、何より人間味がある。
そんなことを思っていると鐘が鳴りショートホームルームになった、それが終わり授業が始まり終わりを繰り返して、やっと昼休みを迎えた。
朝から怠く、治るどころか悪化しているように感じる…頭が痛い、気持ちが悪い、早く家に帰りたい。
机で突っ伏していること数分。
誰かが近づいてくる気配がする、誰だろう。唯かな?
「ん…唯?」
顔をゆっくりとあげる。
「羽柴さん…具合悪いの?」
そこには高橋君がいた。
なんで?高橋君が私なんかの心配を?
「うわ、青白っ…」
「へ?」
高橋君は即座に教室を出て行った。
あれ…もしかして引かれた?
凄くショックだ。行かないで欲しかった。
体の重さが増した気がする。
ちょっとごめん!と高橋君の声が教室前方から聞こえる。戻ってきたみたいだ…
「羽柴さん!ハンカチで口押さえてて‼︎」
そう言って私にハンカチわ押し付けてきた。突然の連鎖で混乱が収まらない。
「水、買ってくるから」
あ、ありがとう!と言おうと思ったのだけど、ハンカチのお陰で口が開かなかった。
ハンカチから良い匂いがする。私、もしかしたら変態なのかもしれない。
心なしか落ち着いてきた、安堵感で胸がいっぱいだ。
パチっ、
目を開けると私は寝ていたようだ、視界には木々が生い繁り隣には誰かが居る。懐かしい、ふとそう思った。
「大丈夫?具合どう?」
その声で一気に記憶が蘇った、
ここは裏庭。高橋君が彼の秘密の場所に私の具合を良くしようと連れてきてくれたのだ。冷たい水も頂き森林の癒し効果に圧倒された私はベンチの上に横たわって寝てしまった。
今に至る。
「ありがとう、すっかり体が軽くなった。」
これは本当だ。
どうしてこの症状が和らいだのだろう。
最近の妙な怠さが嘘みたいだ。
「良かった…」
沈黙。高橋君と私は接点がない、勿論会話が続く訳もない…
「保健室よりここの方が俺好きだから…」
なんの話をしてるのだろう?
「…うん。」
「ここ俺にとって特別な場所なんだ。小さい頃遊んだ場所に似てて落ち着く。」
「確かに落ち着くね」
「本格的な風邪っぽく無かったし、なんならここの方が具合良くなるなと思って連れてきた。」
「言われてみれば…」
また沈黙。こういうときのためにコミュ力でも身につけておくべきだった…。
チラッと高橋君の顔を見る。
(横顔、きれい…)
(まつ毛長いんだなぁ)
こんなこと考えてるなんて、本気で私変態かもしれない
いいや、ハンカチのこと言っちゃえ!
「あの…高橋君のハンカチ…」
「あ、あれ。新品だから大丈夫!」
「そうじゃなくて、あの、その。」
「…ん?」
あぁ!言っちゃえ‼︎
顔を赤らめながらスカートの裾を握りしめる。
「いい匂いがしましたっ!」
「ははっ」
高橋君が笑った。
「だろーな、香水ついてるもん笑」
「え?香水⁇」
香水って男子が?
高橋君は言ってしまった。という顔をしている。何か訳でもあるのだろうか…
「う、うちの母と姉が化粧品の中でも香水とかそういう関連の仕事してて。
よく俺にも香水とか渡してくるんだよ。で、今日は気分をリフレッシュさせる香りだぁとかなんとか言って勝手にハンカチにかけられてさ…」
「素敵だね」
「そうかな?」
そう言って高橋君は優しく笑う。
こんなに魅力的な人だったけな?
「父さんは医者なんだ。」
「医者?すごいね!だから看病も丁寧なのか…」
「看病、って笑」
「すごいなぁ、高橋君って。」
「具合悪い人放っとけなくてさ。」
さっきからずっと胸がドキドキしてる。この会話のキャッチボールがうまくいく感覚…もっと知りたい、もっと話したい。なんて思ってしまう。
「いっ、色々ありがとう。助かりました…」
「別に…具合悪かったら声かけてよ。というか、羽柴さんって話してみると案外普通だな。もっと固い奴だと思ってた。」
「うん。…本当はこんな人なんです。変な噂とか聞くけど別人だよ。私はもっとポンコツだもん。」
「ま、だいたいみんなそんなもんだよね。」
「?」
高橋君が立ち上がった。
彼のとる行動全てがかっこよく見える。私、大丈夫かな?
「シャンプーのこと、ごめん。キモかったよね?」
「あっ、すっかり忘れてた」
「気にしてないならいいんだ!」
香り…そっか高橋君は鼻がいいんだ。
「匂いとか気づけてもらえるの案外嫌じゃなかったよ。むしろ、ちょっと嬉しかった。」
高橋君の強張った表情が溶けていく。
「はぁ……良かったぁー」
私も立ち上がる。
高橋君の反応がいちいち可愛いと思ってしまう。これは高橋君が悪い。
「羽柴さん、面白い人だと思ったから、嫌われてたらどうしようかと思ってさ」
(きゅん)
い、今の何の音⁇
キーンコーンカーンコーン
「予鈴だ!じゃあな!」
「うん、ありがとう!」
また、話せるといいな。
手に持ったハンカチを握りしめる。
(って!えーー?
待って、これ高橋君のハンカチじゃん!どーすんの⁈)
急いで追いかけようと思ったが彼の姿は無かった。
「…」
明日洗って返すか、そう思いゆっくり一歩踏み出した。
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